今宵貴方と見る月は ~あきとかなnext 〜 《あきとかな後日談集》

穂祥 舞

文字の大きさ
195 / 474
春を見送る休日

一緒に寝る①

しおりを挟む
 特に何をするでもない帰省なので、食事の片づけが済んでしばらくテレビを見ると、順番に風呂に入ろうという流れになった。父と晴夏がまず入浴し、暁斗か奏人が最後という順に決まる。暁斗は奏人を促し、2階の部屋に荷物を置きに行った。
 かつて弟の星斗と一緒に使った部屋は、奏人がアメリカから帰国して以降、彼の蔵書置き場となっている。留学中、レンタルスペースに沢山の本を預けていた奏人だったが、永遠にそこを使う訳にもいかず、かといってどうしても捨てられないと言うので、大森のマンションとここに分散管理することにしたのだった。空になっていた暁斗と星斗の本棚と、新しい2つの本棚を使って、何とか収まってくれた。
 この部屋は誰も使わないから好きにしたらいいと、寿博も乃里子もあっさりと言った。暁斗は、ずっと立川に置きっぱなしにするのなら手放せばいいのにと思ったのだが、ならば本のためにワンルームを借りるとまで言って、奏人は手許に置きたがった。今も彼は、本棚の前に佇んで、外国語の本の背中を眺めている。それらはおそらく誰かから譲ってもらった本で、思い出があるのだろう。
 棚から3冊ほどを抜き出して、奏人はぱらぱらと中を確認した。論文か授業に必要らしかった。こうして見ると、かつて奏人が暮らしていた神楽坂の小さな部屋を思い出すので、そう悪い眺めではないと最近暁斗は思うようになっている。奏人は壁一面に並んだ本に囲まれ、2台のパソコンと画材に紛れて生活していたのである……地震が来たら本の下敷きになって死ぬのだなどと言いながら。

「奏人さんは本に囲まれてると安心なんだな」

 暁斗はベッドに座り、奏人の背中を見ながら言った。彼は肩越しに振り返る。

「そうかも、でも暁斗さんも知ってる通り、実家はそんなことないのにね」
「大学生になってからだろ?」
「あ、でも高校生の頃にはもう、外国の凄い図書館とかに憧れてた」

 変わった高校生だったんだろうなと、暁斗は可笑しくなる。そもそも奏人のような人種とは、これまで遭遇したことがなかった。何をやらせても一流で、一見他人を寄せつけない空気感を纏う美貌のひと。
 部屋の扉がやや荒っぽく開いた。奏人はそちらを見たが、暁斗はやって来たのが妹であることを察していた。

「いちゃいちゃしてないで……って今夜はいちゃいちゃしてないのね、お母さん今入ったから、お風呂の用意してね」

 晴夏は言うと、おやすみ、と手を振ってその場を去った。暁斗は軽く首を捻った。

「いちゃいちゃしてたことなんかあったか?」
「あ、僕が帰国して初めてここにお邪魔した時のことじゃないかな?」

 奏人は苦笑気味に言った。記憶を辿った暁斗は、そういえばベッドの上で一緒にいた時に、晴夏が入ってきたことがあったと思い出す。暁斗に言わせれば、確かに自分の膝の上に奏人を座らせていたが、別にいちゃついていた訳ではない。

「ああ、あの時か……今もそうだったけど、人の部屋の扉を開けるのにノックしないからだ」
「僕の家も誰かの部屋に入るときにノックはしないけど」
「奏人さんの家は襖じゃないか、ああいう家は時代劇みたいに、失礼いたしますって呼びかけてから開けるの?」

 帯広の奏人の実家は、立派な日本家屋である。防寒対策が必要な北海道でもこんな家があるのかと暁斗は驚いたが、外側に面した壁は厚く、二重窓になっており、寒さは感じなかった。
 奏人の苦笑は続く。

「それ1階だけだよ……お客さんがいる時は失礼しますとか開けますとか言うかな」
「あっでも2階の奏人さんの部屋に、勇人さんがノック無しで入ってきてびびったことあった」
「でしょ? あの時こそちょっといちゃつきかけてたよね、勇人が明らかに引き気味だった」

 奏人の弟の勇人は気のいい人物で(気の毒にも、それを亡き父親に間抜け呼ばわりされていたらしい)、兄の随分年上の同性の恋人にも懐いてくれている。だがキスしようとしていた2人を見た時は、目を真ん丸にしていた。認めて理解していても、男同士がそういう雰囲気になっているのを目の当たりにしたら、初めてなら驚くだろうと思う。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...