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1.スチュアートの失敗
公爵令嬢スカーレットは静かに怒っていた。あまりにも腹が立ちすぎで、彼女の紫紺の瞳が怒りのあまり爛々と輝き、金の縦巻きカールは細かく揺れていた。形の良い真っ赤な唇はきつく結ばれていたが、その表情からは全く怒りは読み取れ無い。
「スチュアート様は私が、本当にそんな下卑たことをするとお考えなのですね。ちゃんとお知らべになりましたの。」
「い、いや……………ただメイリン嬢が何度も僕に訴えてくるものだから。」
「私には護衛の為に影が何人もついております。確認はされましたの?」
「い、いや…だたマークとレオンも、メイリン嬢と共に訴えてくるのだ。」
「だから、確認はされましたの?私がやったという明確な根拠はございますの?」
「…………………。」
「もう結構です。殿下のお考えはよく分かりました。父とも話させていただきますわ。失礼致します。」
「スカーレット、待ってくれ!すまな……」
「リアン、行くわよ。」
バタン…
護衛騎士とともにスカーレットは部屋を出ていった。ドアを閉める直前に、リアンが刺すような視線をスチュアートに送った。
もう、日は傾き、明かりを灯す時間になっていたが、部屋は薄暗いままだ。人払いしてあるのでスチュアートは一人きりだ。
間違えた……はっきりとそう思った。
自分はとんでもない失敗をしたのではないか…スチュアートは両手で顔を覆って、執務室の椅子に座り込んだ。
彼女は酷く傷ついた顔をしていた………あんな顔は今まで見たことがなかった。
なぜ、確かめもしなかったのだ?普段の自分なら考えられない事だ。マークとレオンだって同じだ。腕に絡みついてくる聖女候補であるメイリンの体の温かさと、必死に訴える泣き顔を思い出した。頼られて、嬉しかった。彼女の願いをかなえたかった。
そして、また気づく。スカーレットの体の温かさを自分は知っているか?彼女とあんなに腕を絡め、胸の膨らみまで感じるほど密着したことはあったか?
メイリンと毎日腕を絡め、胸の膨らみにドキドキし、時には膝に乗ってこようとする彼女を窘めながら嬉しかった自分を思い出す。
最低だ………学園で。結婚間近の婚約者の前で……
スカーレットとは幼い頃から婚約していた。皇太子である自分に、媚びへつらうわけでもなく、時には怒り、楽しい時には思いっきり笑いかけた。皇太子教育や皇太子妃教育で、ともに辛い時には2人でこっそり涙を流したこともあった。一緒に育ったと言ってもいい。
彼女は年とともに美しくなった。整った顔立ちに、すらりとした肢体、くびれたウエストと豊かな胸。対等に語り合える知識と、鍛錬を怠らない魔法や剣術、品のある所作。女性として意識しないはずは無かった。愛している。そう気づくまで時間はかからなかった。愛する女性に愛され、生涯を共にできる。奇跡のような幸せに胸が震えた。
しかし、彼女は変わっていった。いつの間にかいかにも公爵令嬢らしい髪型に、きつい化粧、はっきりとした色合いのドレスを纏うようになった。それでも、ものすごく綺麗だったけど……口調も淡々と冷たくなり、笑うことも減った。
今では『氷姫』と呼ばれている。
「侮られないためですわ。」
彼女は言った。その時は、何が彼女をそうさせたのか、よく意味が分からなかった。分かろうとするべきだったのに。
ただ自分は寂しかった。幼い頃のように、共に笑い、泣き、心を分かち合いたかった。
卒業と結婚を控えた王立学園3年生のときに、神聖力を持つという、元平民の男爵令嬢が転入して来た。聖女として立つために、貴族としての知識と学歴を身につけるためである。
国として、原因不明の瘴気の対応には常に悩まされている。それを浄化できる聖女は待ち望まれた存在だった。国王は学園在学中のスチュアートに保護と護衛、サポートを命じた。卒業までの短い間に、貴族として一通りの知識と礼儀作法を身につけさせねばならない。
メイリンは聖女候補らしく緩くウエーブのかかったピンクブロンドにペールブルーの瞳をした、小柄な可愛らしい娘である。
そして、喜怒哀楽そのままに、笑ったり、泣いたり、拗ねたり、怒ったりする表情の豊かさと、無意識(?)に行うボディタッチが数多の貴族の令息を虜にした。
男とは愚かなもので、彼女の行動が、自分達が子供の頃の行動そのものだと気付かない。
高位貴族になればなるほど、感情を読み取られないよう、表情を変えないように、また、気軽に異性の体に触れないようにと、教育を受けるものなのに。
メイリンは幸せの絶頂にいた。孤児院に訪れた司祭が突然彼女に神聖力を見出し、あれよあれよと貴族の仲間入り。字もろくにかけないのに、王立学園に入る。
不安でいっぱいだったのに、黒髪赤眼の絶世の美男子、皇太子スチュアート、側近候補の宰相子息のマーク、騎士団長子息レオンが、何かと世話を焼いてくれる。学園長が、困ったときはこの3人を頼りにするようにと言ってくれたのだ。
「スチュアート様は私が、本当にそんな下卑たことをするとお考えなのですね。ちゃんとお知らべになりましたの。」
「い、いや……………ただメイリン嬢が何度も僕に訴えてくるものだから。」
「私には護衛の為に影が何人もついております。確認はされましたの?」
「い、いや…だたマークとレオンも、メイリン嬢と共に訴えてくるのだ。」
「だから、確認はされましたの?私がやったという明確な根拠はございますの?」
「…………………。」
「もう結構です。殿下のお考えはよく分かりました。父とも話させていただきますわ。失礼致します。」
「スカーレット、待ってくれ!すまな……」
「リアン、行くわよ。」
バタン…
護衛騎士とともにスカーレットは部屋を出ていった。ドアを閉める直前に、リアンが刺すような視線をスチュアートに送った。
もう、日は傾き、明かりを灯す時間になっていたが、部屋は薄暗いままだ。人払いしてあるのでスチュアートは一人きりだ。
間違えた……はっきりとそう思った。
自分はとんでもない失敗をしたのではないか…スチュアートは両手で顔を覆って、執務室の椅子に座り込んだ。
彼女は酷く傷ついた顔をしていた………あんな顔は今まで見たことがなかった。
なぜ、確かめもしなかったのだ?普段の自分なら考えられない事だ。マークとレオンだって同じだ。腕に絡みついてくる聖女候補であるメイリンの体の温かさと、必死に訴える泣き顔を思い出した。頼られて、嬉しかった。彼女の願いをかなえたかった。
そして、また気づく。スカーレットの体の温かさを自分は知っているか?彼女とあんなに腕を絡め、胸の膨らみまで感じるほど密着したことはあったか?
メイリンと毎日腕を絡め、胸の膨らみにドキドキし、時には膝に乗ってこようとする彼女を窘めながら嬉しかった自分を思い出す。
最低だ………学園で。結婚間近の婚約者の前で……
スカーレットとは幼い頃から婚約していた。皇太子である自分に、媚びへつらうわけでもなく、時には怒り、楽しい時には思いっきり笑いかけた。皇太子教育や皇太子妃教育で、ともに辛い時には2人でこっそり涙を流したこともあった。一緒に育ったと言ってもいい。
彼女は年とともに美しくなった。整った顔立ちに、すらりとした肢体、くびれたウエストと豊かな胸。対等に語り合える知識と、鍛錬を怠らない魔法や剣術、品のある所作。女性として意識しないはずは無かった。愛している。そう気づくまで時間はかからなかった。愛する女性に愛され、生涯を共にできる。奇跡のような幸せに胸が震えた。
しかし、彼女は変わっていった。いつの間にかいかにも公爵令嬢らしい髪型に、きつい化粧、はっきりとした色合いのドレスを纏うようになった。それでも、ものすごく綺麗だったけど……口調も淡々と冷たくなり、笑うことも減った。
今では『氷姫』と呼ばれている。
「侮られないためですわ。」
彼女は言った。その時は、何が彼女をそうさせたのか、よく意味が分からなかった。分かろうとするべきだったのに。
ただ自分は寂しかった。幼い頃のように、共に笑い、泣き、心を分かち合いたかった。
卒業と結婚を控えた王立学園3年生のときに、神聖力を持つという、元平民の男爵令嬢が転入して来た。聖女として立つために、貴族としての知識と学歴を身につけるためである。
国として、原因不明の瘴気の対応には常に悩まされている。それを浄化できる聖女は待ち望まれた存在だった。国王は学園在学中のスチュアートに保護と護衛、サポートを命じた。卒業までの短い間に、貴族として一通りの知識と礼儀作法を身につけさせねばならない。
メイリンは聖女候補らしく緩くウエーブのかかったピンクブロンドにペールブルーの瞳をした、小柄な可愛らしい娘である。
そして、喜怒哀楽そのままに、笑ったり、泣いたり、拗ねたり、怒ったりする表情の豊かさと、無意識(?)に行うボディタッチが数多の貴族の令息を虜にした。
男とは愚かなもので、彼女の行動が、自分達が子供の頃の行動そのものだと気付かない。
高位貴族になればなるほど、感情を読み取られないよう、表情を変えないように、また、気軽に異性の体に触れないようにと、教育を受けるものなのに。
メイリンは幸せの絶頂にいた。孤児院に訪れた司祭が突然彼女に神聖力を見出し、あれよあれよと貴族の仲間入り。字もろくにかけないのに、王立学園に入る。
不安でいっぱいだったのに、黒髪赤眼の絶世の美男子、皇太子スチュアート、側近候補の宰相子息のマーク、騎士団長子息レオンが、何かと世話を焼いてくれる。学園長が、困ったときはこの3人を頼りにするようにと言ってくれたのだ。
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