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5.スチュアートの焦り
焦っているのはメイリンだけではなかった。あの夜以来、スチュアートはスカーレットと連絡が取れていない。婚約者同士の週一度のお茶会も体調不良と心労の為と断わられている。心労を与えたのは自分だった。手紙を出しても、花を送っても、なしのつぶてである。
本当はあの時、黄昏時の執務室で、バタンとドアが閉まった時、何かが壊れる音をスチュアートは聞いた気がした。でも諦めるわけにはいかない。何年も積み重ねてきた関係である。それが、あの一瞬で壊れたとは思いたくない。
壊したのが自分と、思いたくない。
スカーレットは、同じ理由で生徒会にも欠席を続けている。逆にメイリンは、役員でもなく、仕事をこなす能力も無いのにくっついて、無理矢理参加している。スチュアートと側近の2人は断固拒否するのだが、他の令息達がにこにこと迎え入れてしまう。彼女は、字すらまともに書けないというのに…。数人いた役員の令嬢達は呆れ果て、スカーレット同様欠席を選んだ。生徒会の令息達は大量の業務に追われる事になる。それでも嬉しそうに仕事をする彼等は、もはや理解を越えている。
メイリンは周囲の白い目に晒されながら、スチュアートにくっついている。養父からも離れるなと厳命されていた。
スチュアートとスカーレットの不和は、周知の事実のように広まり始めた。あの姿を見れば当然である。
スカーレットは相変わらず、儚げな様子で、事あるたびに涙ぐみ、令息のみならず令嬢達の胸を痛ませていた。この婚約はいったいどうなるのか?皇太子は下品な聖女候補を選ぶのか?
スチュアートが幾ら否定しても噂は広まり続け、幾らスカーレットに近づこうとしても出会えない。まるで何かの力が働いているかのように。
卒業が迫ってきた。卒業後はすぐ結婚式の予定であったが、何も準備は進んでいない。国王や皇后、レジェンド公爵からも何も言われない。スチュアートの不安は募る。
卒業パーティーにむけて、スチュアートはスカーレットにドレスを送った。自分の黒と赤の色を取り入れた、繊細なレースと小さな宝石が散りばめられた美しいドレスである。パーティーの度に毎年送り続けてきた。彼女に何が似合うかは自分が1番よく知っている。
ところが、送り返されてきた。胸が潰れる思いだった。エスコートはどうするのか?小さいカードには、
『聖女候補様を大切にされてください』
とだけ書かれていた。
執務室で頭を抱え俯いていると、横の2人の側近候補の顔色も悪い。2人ともドレスを送り返されていた。聞けば、3人揃って同じ状況であった。自分達は婚約者に捨てられかけている。
遂に、スチュアートは父の元を訪ねた。自分の力だけでは手に負えないと思ったのだ。このままでは彼女を失ってしまう。
「聖女候補の教育は進んだのか」
父に言われ、ハッとする。それが本来の目的であったはずだ。
「それが……あまり…」
「なぜだ?」
「メイリン嬢にやる気が無く…………」
「ほう?たかが平民あがりの娘一人に振り回されているらしいな…未だ文字もきちんと書けぬと聞いておる。おまえには、つくづく失望した。」
「………………」
「何度命を狙われても、お前の婚約者を下りなかったスカーレット嬢を大切にできないおまえに、妃は泣いておったぞ。」
「?!」
「命?ですか?」
「彼女がお前の心を煩わせたくないと、口止めしたのじゃ。将来の王妃の座を狙うものは国内にも他国にも多くいた。おまえの隣の座を守るため、彼女はいつも戦っておった。王国の後ろ盾のあるお前より、公爵令嬢の方が容易く思われたのだろう。妃として送り込み、お前の背後から国を操ろうとする者すらおる。」
「……………………」
「同じだけの想いを、おまえは彼女に返しておったのか?」
「……………………」
「もう、よい。去れ。おまえに話すことはもう無い。」
その頃、王国の北の端、辺境伯領で新たに聖女が現れた、という噂が伝わって来た。
本当はあの時、黄昏時の執務室で、バタンとドアが閉まった時、何かが壊れる音をスチュアートは聞いた気がした。でも諦めるわけにはいかない。何年も積み重ねてきた関係である。それが、あの一瞬で壊れたとは思いたくない。
壊したのが自分と、思いたくない。
スカーレットは、同じ理由で生徒会にも欠席を続けている。逆にメイリンは、役員でもなく、仕事をこなす能力も無いのにくっついて、無理矢理参加している。スチュアートと側近の2人は断固拒否するのだが、他の令息達がにこにこと迎え入れてしまう。彼女は、字すらまともに書けないというのに…。数人いた役員の令嬢達は呆れ果て、スカーレット同様欠席を選んだ。生徒会の令息達は大量の業務に追われる事になる。それでも嬉しそうに仕事をする彼等は、もはや理解を越えている。
メイリンは周囲の白い目に晒されながら、スチュアートにくっついている。養父からも離れるなと厳命されていた。
スチュアートとスカーレットの不和は、周知の事実のように広まり始めた。あの姿を見れば当然である。
スカーレットは相変わらず、儚げな様子で、事あるたびに涙ぐみ、令息のみならず令嬢達の胸を痛ませていた。この婚約はいったいどうなるのか?皇太子は下品な聖女候補を選ぶのか?
スチュアートが幾ら否定しても噂は広まり続け、幾らスカーレットに近づこうとしても出会えない。まるで何かの力が働いているかのように。
卒業が迫ってきた。卒業後はすぐ結婚式の予定であったが、何も準備は進んでいない。国王や皇后、レジェンド公爵からも何も言われない。スチュアートの不安は募る。
卒業パーティーにむけて、スチュアートはスカーレットにドレスを送った。自分の黒と赤の色を取り入れた、繊細なレースと小さな宝石が散りばめられた美しいドレスである。パーティーの度に毎年送り続けてきた。彼女に何が似合うかは自分が1番よく知っている。
ところが、送り返されてきた。胸が潰れる思いだった。エスコートはどうするのか?小さいカードには、
『聖女候補様を大切にされてください』
とだけ書かれていた。
執務室で頭を抱え俯いていると、横の2人の側近候補の顔色も悪い。2人ともドレスを送り返されていた。聞けば、3人揃って同じ状況であった。自分達は婚約者に捨てられかけている。
遂に、スチュアートは父の元を訪ねた。自分の力だけでは手に負えないと思ったのだ。このままでは彼女を失ってしまう。
「聖女候補の教育は進んだのか」
父に言われ、ハッとする。それが本来の目的であったはずだ。
「それが……あまり…」
「なぜだ?」
「メイリン嬢にやる気が無く…………」
「ほう?たかが平民あがりの娘一人に振り回されているらしいな…未だ文字もきちんと書けぬと聞いておる。おまえには、つくづく失望した。」
「………………」
「何度命を狙われても、お前の婚約者を下りなかったスカーレット嬢を大切にできないおまえに、妃は泣いておったぞ。」
「?!」
「命?ですか?」
「彼女がお前の心を煩わせたくないと、口止めしたのじゃ。将来の王妃の座を狙うものは国内にも他国にも多くいた。おまえの隣の座を守るため、彼女はいつも戦っておった。王国の後ろ盾のあるお前より、公爵令嬢の方が容易く思われたのだろう。妃として送り込み、お前の背後から国を操ろうとする者すらおる。」
「……………………」
「同じだけの想いを、おまえは彼女に返しておったのか?」
「……………………」
「もう、よい。去れ。おまえに話すことはもう無い。」
その頃、王国の北の端、辺境伯領で新たに聖女が現れた、という噂が伝わって来た。
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