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後編
すると、見つけてしまった。仮面をつけていても見まちがえるはずが無い。ロバートである。
黒髪をアップにした大人っぽい令嬢と、ぴったりくっついてダンスをしている。
心が凍るって、こういうことを言うんだわ。
今日は予定があるとおっしゃっていたのは、これだったのね。リリアンは、悲しさよりも怒りがこみ上げることに自分でも驚いた。人間観察ね。わかったわ。観察してやろうじゃないの。
隣を見ると兄、エレナ、皇太子がかたまっていた。兄はもはや、怒りでぶるぶる震えていて、殴りつけそうな勢いである。
「お兄様、待って。人間観察よ。私、耳を解放するわ。」
「え?リリアン、大丈夫か?」
リリアンはキリッとして言う。
「このために、私、天恵を授かったのかも…」
リリアンは集中して耳を澄ます。辺りじゅうの人の声が頭に飛び込んで来る。くらくらと目眩がするが、声を聞き分け、ロバートと彼女のものを拾い上げる。
リリアンが普段、ぼーっとしているのは周囲の声を拾わない為だ。彼女は公爵家に伝わる天恵の一つ、「天の耳」を持っている。どんなに小さな声でも彼女の耳は拾うことができる。さらに1つの声に集中すると、心の声をも拾うことができる。国の宝とも言える能力だ。
ロバートと彼女の声を聞いた。口づけを交わさんばかりの距離である。
「マリー、信じてくれ。俺が好きなのは君だけだ。」
「だって最近全然会えないでしょ。リリアン、リリアンって。」
「仕方ないだろ。彼女と結婚しないと家の事業が苦しいんだ。大丈夫だ。結婚して落ち着いたら、マリーを第2夫人に迎えるから。安心しろ。後継さえできれば、俺はもうマリーのものだ。」
「卒業、大丈夫なの?何だが最近勉強してる姿を見ないけど」
「楽勝だ。何のために教授たちに金を渡してると思ってるんだ。」
「ふふふ、若いのに悪人ね。明日の予定は?会える?」
「たぶん、大丈夫かな。」
「じゃ、いつもの『月のあかり』でいい?」
「ああ。」
「泊まれる?」
「そうだな…大丈夫かな。」
「嬉しい。随分久しぶりだもの。」
ぐっと近づく彼女を制するロバート。
「おっと、ここではまだ…明日のお楽しみってことで。」
リリアンはフーっと息を吐いて、耳を閉じた。
もう充分だ。自分の人を見る目の無さに呆れた。
「口にするのも憚られる、散々な下衆でしたわ、お兄様。どうしてやりましょうか?」
「何を聞いたんだ?」
「とんでもない色々です。
地獄に突き落としてさしあげます。天罰ですわ。
学園も辞めて頂きましょう。慰謝料もたっぷり頂くわ。さあ、帰りましょう。お父様、お母様とお話しなくては。」
翌日、公爵家の影と侯爵家の騎士達が、とある連れ込み宿を強襲した。
半信半疑だった侯爵家の騎士達も、倫理観の欠片も無い令息の姿に顔色を悪くした。
さらに、その数日後、学園の、教授数名が収賄容疑で逮捕された。詳細はまだ明かされていないが、ロバートが突如退学になったことを見れば自ずと知れる事となるだろう。
侯爵の怒りは強く、ロバートは廃嫡になっただけでなく、寒い辺境の地に一般兵として派遣された。
男爵令嬢マリーは、公爵家の婚約を壊しただけでなく、すでに純潔も失っている。目の中に入れて可愛がっていた男爵の失望は大きかった。慰謝料を払うだけの資産も無く、結局爵位を手放し、家族全員で行く方知れずとなった。
「リリアン、大丈夫かい?」
付き添っているのは皇太子。間もなく2人の婚約が結ばれるとのことだ。
「お兄様、上手くいったわね。」
「ああ、エレナのおかげだよ。」
「俺も協力したんだからな!感謝しろよ!」
黒髪をアップにした大人っぽい令嬢と、ぴったりくっついてダンスをしている。
心が凍るって、こういうことを言うんだわ。
今日は予定があるとおっしゃっていたのは、これだったのね。リリアンは、悲しさよりも怒りがこみ上げることに自分でも驚いた。人間観察ね。わかったわ。観察してやろうじゃないの。
隣を見ると兄、エレナ、皇太子がかたまっていた。兄はもはや、怒りでぶるぶる震えていて、殴りつけそうな勢いである。
「お兄様、待って。人間観察よ。私、耳を解放するわ。」
「え?リリアン、大丈夫か?」
リリアンはキリッとして言う。
「このために、私、天恵を授かったのかも…」
リリアンは集中して耳を澄ます。辺りじゅうの人の声が頭に飛び込んで来る。くらくらと目眩がするが、声を聞き分け、ロバートと彼女のものを拾い上げる。
リリアンが普段、ぼーっとしているのは周囲の声を拾わない為だ。彼女は公爵家に伝わる天恵の一つ、「天の耳」を持っている。どんなに小さな声でも彼女の耳は拾うことができる。さらに1つの声に集中すると、心の声をも拾うことができる。国の宝とも言える能力だ。
ロバートと彼女の声を聞いた。口づけを交わさんばかりの距離である。
「マリー、信じてくれ。俺が好きなのは君だけだ。」
「だって最近全然会えないでしょ。リリアン、リリアンって。」
「仕方ないだろ。彼女と結婚しないと家の事業が苦しいんだ。大丈夫だ。結婚して落ち着いたら、マリーを第2夫人に迎えるから。安心しろ。後継さえできれば、俺はもうマリーのものだ。」
「卒業、大丈夫なの?何だが最近勉強してる姿を見ないけど」
「楽勝だ。何のために教授たちに金を渡してると思ってるんだ。」
「ふふふ、若いのに悪人ね。明日の予定は?会える?」
「たぶん、大丈夫かな。」
「じゃ、いつもの『月のあかり』でいい?」
「ああ。」
「泊まれる?」
「そうだな…大丈夫かな。」
「嬉しい。随分久しぶりだもの。」
ぐっと近づく彼女を制するロバート。
「おっと、ここではまだ…明日のお楽しみってことで。」
リリアンはフーっと息を吐いて、耳を閉じた。
もう充分だ。自分の人を見る目の無さに呆れた。
「口にするのも憚られる、散々な下衆でしたわ、お兄様。どうしてやりましょうか?」
「何を聞いたんだ?」
「とんでもない色々です。
地獄に突き落としてさしあげます。天罰ですわ。
学園も辞めて頂きましょう。慰謝料もたっぷり頂くわ。さあ、帰りましょう。お父様、お母様とお話しなくては。」
翌日、公爵家の影と侯爵家の騎士達が、とある連れ込み宿を強襲した。
半信半疑だった侯爵家の騎士達も、倫理観の欠片も無い令息の姿に顔色を悪くした。
さらに、その数日後、学園の、教授数名が収賄容疑で逮捕された。詳細はまだ明かされていないが、ロバートが突如退学になったことを見れば自ずと知れる事となるだろう。
侯爵の怒りは強く、ロバートは廃嫡になっただけでなく、寒い辺境の地に一般兵として派遣された。
男爵令嬢マリーは、公爵家の婚約を壊しただけでなく、すでに純潔も失っている。目の中に入れて可愛がっていた男爵の失望は大きかった。慰謝料を払うだけの資産も無く、結局爵位を手放し、家族全員で行く方知れずとなった。
「リリアン、大丈夫かい?」
付き添っているのは皇太子。間もなく2人の婚約が結ばれるとのことだ。
「お兄様、上手くいったわね。」
「ああ、エレナのおかげだよ。」
「俺も協力したんだからな!感謝しろよ!」
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