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勇者の試練
しおりを挟む激しい戦いの末、勇者一行はついに魔王を追い詰めた。あと一太刀、あと一発の魔法で魔王の邪悪な魂は消滅するに違いなかった。
しかし、彼らもただでは済んでなかった。みんなの体力は残り僅かとなっており、魔力も枯渇。そしてそれらを補える薬もすでに使い尽くしており、さらに悪いことに、勇者はほかの三人をかばい倒れてしまっていたのだった。
双方の攻撃が一旦止み、魔王が言った。
「人間どもよ、よくもわれをここまで追い込んだ。褒めてつかわそう」
あくまで上からの物言いに剣士が叫んだ。
「何を強がりを言ってるんだ。お前がもう瀕死なのはわかっているんだ。さあ、覚悟はいいか」
剣士が今にも切りかかろうとした。すると
「待て、話がある」と魔王は意外なこと口にした。
「なに?今更命乞い?」
黒魔導士が吐き捨てると、それには応じず魔王は言った。
「この今の状況でこの勇者を復活させないところを見ると、お前達にはそれをする方法がもう尽きているということだろう。違うか?」
魔王は目の前に横たわる勇者はおびただしい血を流しており、ピクリともしない。
「それがどうしましたか?」
白魔導士が落ち着いた声で言った。「勇者様は女神の加護を受けておられます。そのお身体を教会に運べばすぐに復活なさるのです。何の支障もありません」
その言葉に対し、
「ほう?果たしてそうか?」魔王が不気味な笑いを浮かべ言った。「確かに、この勇者とやらは女神の加護を受けて不死となっているらしいが、それもわれを倒すまでという約束ではなかったかな?もし、われが死んでしまったとしたら、果たして勇者は復活するのか?」
白魔導士ははっとした。確かに、そういう約束で勇者になったと本人に聞いたことがある。勇者が倒れている状態で私たちだけで魔王を倒したら……。
そんな白魔道士の疑念を晴らすように剣士が叫んだ
「当たり前だ、勇者はちゃんと復活する」
力を込めて剣士はさらに続けた。
「お前を倒すために、勇者は我々と様々な苦難を乗り越えてきたんだ。それが、魔王がいなくなったから、もう用なしだから復活させません、なんてこと女神様がするわけがないじゃないか」
沈黙があたりを一時支配した。しかし黒魔道士がそれを破りポツリと言った。
「けれど、ひょっとしたら……」
剣士と白魔道士が彼女を見た。黒魔道士は不安げに続けた。
「役目を終えたと考え、女神様は勇者を元の世界に帰すかも」
勇者は女神が魔王を倒すためにと異世界から召喚された人間だ。元々はこの世界の住人ではない。魔王を倒した後でもこの世界に居続けられるのか誰もわからなかった。
「そんな!それは駄目です」白魔導士が叫んだ。
「そんなこと勇者様は望んでいません。勇者様は魔王を倒した後もこの世界に残って、聖騎士になって私と一緒に教会を支えてくれるって約束してくれたんですもの」
「はあ?何嘘こいてんだ、ビッチ」一瞬間をおいて顔をゆがませ黒魔導士は言った。
「勇者がお前とそんな約束するわけないだろう。勇者は魔王を倒したら魔法学院に入って私と一緒に魔法の開発をすることになってるんだよ」
二人の話を聞き、剣士がつぶやいた。
「そんな……。じゃあ、冒険者になって二人で世界中を旅するって言った勇者の話は嘘だったのか」
おかしな雲行きになってきたことに魔王は戸惑った。彼としては、とりあえず痛み分けとなって戦いが終わればそれでよかったのだが、このままでは残る三人は勇者を見捨て、こちらに攻撃してくるかもしれない。
「ここで三人で言い争ってもしょうがないだろう。本人に聞いてみるのが一番手っ取り早いんじゃないのか?とりあえずこいつを復活させる方向で教会にもっていけ」
そう三人に促し、そばに転がっている勇者の体を魔王が軽く小突いた瞬間、「勇者に何をする」と三方から剣や錫杖が飛んできた。そして運の悪いことにそれらは魔王を直撃し、魔王は倒れた。
謁見の間にて、王の前には三人が跪いていた。
「そうか、勇者は魔王と相打ちとなったのか」魔王討伐の詳細を聞き王が言った。「それで、その後勇者は?」
三人は互いを見合わせていたが、剣士が答えた。
「はっ、魔王が消滅した後もその体は消え去ることはなく、それゆえ、以前と同じようにを教会に運びました」
「しかし、復活しないと」
「はい、お身体は腐れ落ちることもなく、今にも目覚めそうなご様子なんですが」
白魔導士が答えた。
「魔力も体内にとどまったままなので、復活しなければおかしいんですけどね」
黒魔導士が言った。
「そうか、それは困った」王はため息をついた。
「魔王を倒した暁には姫を与える約束を勇者としていたので、姫もすっかりその気になっていての。勇者の身を心配して食事も喉を通らない有り様なのだ。勇者も王族の一員になれるのをたいそう喜んでいたんだ。何とか目覚めないものか」
「と、まあ、地上の様子はそんな感じです」
天界にて女神が勇者に説明していた。勇者の魂は今天界にあった。勇者が地上に復活するにはこの女神の力が必要なのである。
「さて、あの時、あなたは私だけだと言いましたよね。どういうことか説明していただけますか?」
勇者の最後の試練が今始まる。
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