偶然

火消茶腕

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偶然

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「ごめん、やっぱりやめよう」
 彼は私を突き放した。
 
 私はは驚いたが、すぐに気を取り直し、彼にすがった。
「どうして?なぜ?私の事好きだって、そう言ってくれたじゃない。あれは嘘だったの?」

 思わず泣きそうになる。そんな私の顔を見て、彼は顔を背けた。
「いや、嘘じゃない。嘘じゃないんだけど……、駄目なんだ。君と付き合うわけにはいかないんだ。ごめん」

 彼は深々と頭を下げた。
 私は言った。
「それは、あなたの過去のことが原因?今まで付き合った人がみんな死んでしまったって聞いたけど、そのせいなの?」

 私の言葉に彼は驚いて顔を上げた。
「一体、誰にそれを?」
「セキ君から聞いたの。あなたの親友の」

 彼は黙ってしまった。
「じゃあ、本当のことなんだ。あなたが今まで付き合った女の人、4人とも全員が死んでしまったって」
 
 私がつぶやくように言うと、彼は言った。
「いや、正確には少し違うんだ。彼女たちは僕と付き合ってた間に死んだんじゃなくて、僕と別れた後に死んだんだ。4人全員。みんな、別れて一年間の間に、事故や病気で……」

「自殺した娘は一人もいない。大体、いつも僕が愛想つかされる格好で別れているから、そんなに僕ん事を引きずったわけでもないし、僕だって別れた直後は悲しかったけど、恨んだことなんて一度もない。けれど……」

 それを聞き、私はニッコリ笑って言った。
「なあんだ、それなら別れなければいいんでしょ?私があなたのこと嫌いになるなんて考えられない。あなたもそうなんだよね?だったら大丈夫。何も心配いらないわよ」

 相手の手を取り微笑んでみたけれど、彼は私を見ずに言った。
「前に付き合った子もそう言ってきて、付き合ったんだけど、結局、やっぱり……」

「大丈夫だって。私はその子とは違うわ。だから、付き合いましょうよ、ねっ?」
 私は彼の手をギュッと握った。

 よし、もう少しで落ちそう。
 過去のことなんてただの偶然。気にすることなんてないのに。
 私だって、付き合った男、3人ほど、付き合っている最中に死んじゃたけど、そういう偶然はよくあることなんだと思う。考えすぎだよ。

「お願い。ねっ?」
 私の潤んだ瞳を見て、彼は根負けしてうなずいた。

終わり
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