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地下牢にて
しおりを挟む「確かに、魔法使いのおばあさんが助けてくれたというのは嘘です」
牢の前で若い女が牢の中の男に言った。
「ではどうやって?」
男が聞いた。
「ハシバミの木が助けてくれました」
「ハシバミ?」
「ええ、あなたが家族みんなに近づくのを禁じていた、裏庭にあるハシバミの木です」
何か思い当たることがあるのか、男ははっとした。
「風が強かった晩の翌朝、裏庭へ行くのを塞いでた板壁が壊れていて、私は何の気なしにその中へ入いりました。するとそこに生えていたハシバミの木から声が聞こえてきたんです。『あなたの願いは何?それを叶えてあげましょう』と」
男はそれを聞き、驚きで固まり、何も言えなかった。
「私は何故か不思議には思わず答えました。
『幸福を、それと復讐を』、と。
するとハシバミの木は『近いうちにお城から招待がある。そうしたらその日にまたここへ来なさい』と言いました。
”お城から招待が?”
私はとても信じられませんでしたが、その三日後に、王子の花嫁を選ぶための舞踏会が開かれ、それに街の若い娘みんなが出られるという話が舞い込みました。
あなたの想像通り、その話に義理の母も姉たちも乗り気ではありませんでした。王子に気に入られるとは露ほども思っていないようでした。ただ、行かないで済ませるのも失礼だと考えて、舞踏会への準備には怠りませんでした。
しかし、やはり私のためのドレスはありません。私も若い娘であり、舞踏会へ連れて行くべきだ、とは考えもしてなかったようでした。
舞踏会の夜、私は言われた通り、裏庭のハシバミの木のところへ向いました。するとその枝に豪華なドレスと装飾品が掛かっていました。
『それらを身に着け舞踏会へ行きなさい。それらには魔法がかけてある。必ず王子はあなたと踊る。その時その指輪についた針で王子の体を刺すのです。それでもう、王子はあなたのとりことなる』
どうやらハシバミの木は私を王子の花嫁にしてくれるようでした。突然の舞踏会の開催も、ハシバミの木がそうするよう、夢で王に神のお告げを見させることによって実現したとのことでした。
『それで私は幸福になれるのね。では、復讐は?』
私が聞くと、ハシバミの木が策を授けてくれました。とりこにした王子の力を借りるやり方でした」
「では、靴を落としたのは?」
男が言った。
「ええ、最初からそうすることになっていたのです。私は急ぐふりをして靴を落とす。それを王子が拾い、私がどこの誰かも聞かなかったということにして、その靴を頼りに街を一軒一軒人に回らせ、私を探すように命じることに。
でもここで持って歩く靴は私のものではなく、実は義理の姉たちの足に合わせたものだったんです」
「そうか、それで」
男は苦痛に顔を歪めながら呻いた。
「刺し出された靴に足を入れると当然姉たちにぴったりでした。命を受けた役人は有無をいわさず最初に上の姉を、後からまた来て2番目の姉を城に連れて行きました。
手はず通り王子は姉たちに面会し、舞踏会で踊った娘と違うようだと怪しむ。そしてよく調べると、上の姉はつま先を、2番目の姉はかかとを切っていたことが発覚する。実際には処刑された後に、後から切られたのですけど、とにかく、王子を騙そうとしたかどで二人共死刑になりました。そして義理の母は二人の娘をそそのかしたという罪でやはり死刑となったのです」
「何という、何ということだ」
男は頭を抱え泣きだした。
「済まない、みんな、済まない。すべて私が悪かったんだ」
牢の中の石畳に跪き、懺悔する男を冷ややかに見つめながら女が言った。
「何に対しての謝罪ですか?私が家で虐げられているのが分かっていながら、見て見ぬふりをしていたことですか?」
男は泣き顔を上げながら言った。
「違う、そんなことじゃない。あの女、あいつをあんなところに、裏庭なんかに始末してなければ」
男の言葉に女の忘れていた小さい頃の記憶が蘇った。男に首を絞められ、裏庭に埋められた母親。ちょうど、あのハシバミの木の下に。
「ああ、そうだ!私は母の連れ子だった。まだ小さくてよくは分からなかったけど、ある日あの家に連れて行かれて、初めてあなたと会って」
我を忘れ女が叫んだ。
「そうだ、何を勘違いしていたのかしらないが、お前は私の子なんかじゃない。私の子は二人の娘だけだ。お前が家で受けた扱いは当たり前のことだ。血の繋がらないお前を家においてやっていたんだからな。あの時変な情をかけていなければ!」
男は悔しんだ。
”ああ、そうか”
女は全てに納得がいった。
「あの女は常々自分は魔女だと言っていた。裏切ると恐ろしいことが起こると。私は信じなかったが、まさか本当だったとは!あんな女に引っかかってしまった愚かな私を、どうかみんな許してくれ」
悔恨の中にいる男に女が言った。
「ハシバミの木はあなたを求めています。処刑の後、根本に埋めてくれるようにと。
それでは、ごきげんよう。二度と会うことはないと思いますが、さようなら」
女は振り向きもせず牢の前を去っていった。
「待て、待ってくれシンデレラ!」
地下牢の中に男の声が響いた。
終わり
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