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第1話 女魔法使いへの転生

5「パーティメンバー」

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 ミストのパーティへの加入が決まってから数時間。陽も西に沈みかけたころ、俺たちはおしゃべりをしながら、ミストのパーティーの拠点へと歩いていた。
 途中いろいろなお店に立ち寄っては、魔法使い用のローブや手袋、さらにはプライベート用の服だったりまで買いそろえた。もちろんスカートの類は極力避けている。

 これは余談だが、服を揃える際にスリーサイズを測ってもらった際にすごい良いスタイルだと店員に褒めちぎられてしまった。
 それどころか「差し支えなければ普段どのようなケアをしているのかお伺いしても……」なんて聞かれる始末である。
 店員さんごめんなさい。実はこの身体、貰い物なんです。

 あ、あと下着買うのは本当に恥ずかしかった。あたかも自分が変質者かのように考えてしまうし、服同様にフレンドリーな店員にあれやこれやと色々なものを勧められるのだ。

 ちなみにお金はミストが「歓迎祝いだよ」とか言って全額肩代わりしてくれた。あまりに優しすぎて悪い女に騙されないかと心配になる。
 そういえばこの世界には魔法使いの杖なんてものはないらしい。その代わりに手袋が魔力を集中させる役割を担っているのだとか。
 ミストや店員に「魔法の杖?」と首を傾げられたときはさすがに恥ずかしかった。俺の中の魔法使いの定義が怪しくなった瞬間でもある。

「ここだよ」

 ミストがとある一軒家の前に止まった。どうやらここがミストのパーティの拠点になるらしい。質素ではあるが、なかなか立派な家だ。
 冒険者は基本的に宿暮らしらしいのだが、強くてお金のあるパーティは家を買うこともあるらしい。
 ミストのパーティはまだ結成して間もなくベテランとは到底言えないようだが、ミストの家が裕福なところらしく家を買えているらしい。ミストさまさまである。

「ただいま」
「おかえり」
「あれ、その子は? 新メンバー?」

 家の中に入ると、すでに帰っていたパーティメンバーであろう二人の男女が反応を見せた。

「うん、たまたま知り合ってね」

 そう言ったミストは俺に視線を向けた。それにつられるように、二人も俺を見る。
 これはおそらく自己紹介をしなければいけない流れだろう。自分のことミラって言って紹介しなきゃダメなのか。

「ミラです。《魔法使いメイジ》です。よろしくお願いします」

 我ながら相変わらず下手くそな自己紹介である。
 クラスが変わる度に毎年やってきたが、一向に上達の気配がない。

 しかし、今回は少し違ったようだ。

 何の変哲もないはずの挨拶に、女の子の方は何か心惹かれているような反応を見せている。
 いや、よく見たら男の方も女の子ほどではないものの、少し気にしているように見える。
 え、俺何か変なこと言った? 変なことが入る余地もないほどの平凡な挨拶だったと思うのだが。

「魔法使い!? ほんとにっ!?」

 食い入るように俺のことを見つめていた女の子が、今にも飛びこんで来そうな様子で言ってくる。
 魔法使いという単語に食い付いていたようだけど、もしかして魔法使いってそんなに珍しいものなの?

「ちょっと落ち着いて。まずは自己紹介だよ」

 自己紹介を忘れて俺に興味を示す二人へ、ミストが間に入って再開を促す。
 それを聞いた男の方は「そっか」と言って立ち上がり、女の子の方も「ごめんごめん」と頭を掻いた。

「俺の名前はエルヴァ。≪騎士ナイト≫を目指してる無職だ。よろしくな」
「私はシルヴィアって呼ばれてるよ。で、さっきはごめんね。私もエルヴァと同じ無職なんだけど、≪魔法使い≫を目指してるから。つい興奮しちゃって」

 なるほどな。二人とも無職だから、既に職を持った俺がすごく映ったのと、特にシルヴィアという女の子の方は同じ職を目指している分、余計に興奮したというところか。

「大丈夫。二人ともよろしくね」

 俺はそう言って二人に向けて微笑みかけた。
 一連の流れを見たミストは満足そうな笑みを浮かべると、俺の隣から二人の隣へと移っていった。そして3対1の構図を作る。

「名前はさっきも言ったけど。僕はこのパーティのリーダーをやってるミスト。≪戦士ウォーリア≫の職業に就いてるよ」

 そういえばまだミストの職業はまだ聞いてなかったな。なるほど戦士か。きっと戦いでも攻守共に頼りになるんだろうな。

「じゃあ自己紹介も終わったことだし……。ようこそ、我がパーティへ。歓迎するよ」


 ◇


 まるで兄弟喧嘩のごとくギャーギャーと言い争うも、決着がつかずにセインと休戦協定を結んだ俺はぐったりとベッドで横になっていた。一方のセインも荒い呼吸を繰り返している。どういう仕組みなのかは分からないが、ペンダントの中でも息は切れるらしい。

「そういえばさ、俺の信仰力がカンストしてたみたいなんだけど、アレって何なの? 別に神なんて信じてないんだけど」
「信じてるからですよ」

 ダメだ。コイツやっぱり会話ができないタイプらしい。今の回答は本格的にヤバい。
 そして何よりヤバいのが、本人は満足な返事ができたと思いながら「ティナさんのこと信じてない人たちって何なんでしょうねー」なんて呑気な独り言を言っているところだ。

 ちなみに俺は会ったこともない存在のことを信じて祈りを捧げてる人の方が何なのか、と思う。

 さて、正直まだ聞きたいことはたくさんあったが、どうせ会話にならないので諦めることにした。
 ペンダントをベッドの端に置いて、魔法のポーチから冒険者のカードを取り出し、改めてしっかりと目を通す。

 Miraと左上に大きく書かれており、その隣にはF16と記されている俺のカード。
 Fというのは恐らく Female の頭文字だろう。何度見ても、どこか信じきれていない自分が居る。
 隣に書かれているのは年齢だろうか。ここは変わってないみたいだ。
 その下には能力値が書かれていたのだが、ギルドで測った記憶のないものまで書かれてある。しかもそれは上限値が100ではないらしく、もっと大きな数字が記されていた。
 明日、ミストに聞くことにしよう。多分、あいつなら無知と笑うことはないだろう。
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