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第5話 最高の食卓

34「ヨミーマウス」

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「逃げちゃったね」
「ほんとごめんなさい」

 ありゃりゃ、といった様子で呟くシルヴィアに流れるように謝罪をする。
 セインに文句を言いたい気持ちもあるが、あの程度で騒いだ俺も俺なのであまり強く言えない。

「ソノヒダケ採ろっか」
「ご、ごめんなさい」

 シルヴィアの提案に謝りながら頷いた俺は、再び太陽光を当てるべく人工太陽を手に取って魔力を送る。すると数分してまたボンッとソノヒダケが一斉に顔を出すが、さすがにもう大きな声は出さない。……ちょっと震えたのは内緒。

『何植物にビビってるんですか』

 うるさいな。細かい揺れに一々反応するなし。
 答える訳にもいかない俺は無視して役目の終えた人工太陽をポーチの中へポイ。
 そしてヨミーマウスの味を想像しながらソノヒダケの採取についた。


 ◇


「それでね。ミラちゃんが突然叫び出して……」
「あああああ! シルヴィ、その話はもうやめて……!」

 下山中。
 2人と合流した俺達は、4人で麓のテレポート施設を目指していた。
 陽は西に傾きつつあるが、この調子だと全然間に合うだろう。
 時間的に余裕もあるせいかペラペラと喋るシルヴィアを止めに入るが、時すでに遅し、というよりは、叫び声自体は聞こえていたようで。

「お前そんなキャラだったか?」
「もう、本当にやめてください。お願いします」

 エルヴァに哀れみの視線を向けられていた。

「僕は可愛くていいと思うよ?」

 み、ミストまでぇ……。
 これがいわゆる四面楚歌なのか、と思いながらセインの処罰をどうしてやろうかと考えて歩いていると、前を歩いていたエルヴァが突然立ち止まって両手を上げる。

 止まれ、と無言で指示したエルヴァはというと、じっと一点を見つめている。
 ……あ、これあれだ。この前ブラッドウルフに襲われた時と同じだ。
 ということは、エルヴァの目線の先にはきっと大物モンスター。
 自然と緊張を高めながら、逃げにも戦いにも対応できるように心構えをする。
 そしてエルヴァの一言を待っていると。

「向こうに、ヨミーマウスが居る」
「「今度こそおおおおおおおお!」」
「ちょ、ちょっと落ち着いて二人とも。また逃げられちゃうよ?」



「よし、じゃあミラちゃんお願い」
「オッケー。離れちゃダメだよ」

 ミストの合図を聞いた俺は頷いて二人を囲うだけの最低限の大きさの【ディスペルフォース】を張る。
 そして木の陰からネズミを見やる。まだ逃げてない。
 さらにその向こうには木を見ると、シルヴィアが親指を立てて顔を覗かせている。

 作戦はこうだ。

 まず俺とミスト、シルヴィアとエルヴァのペアで二組に分かれ、ネズミを挟む。
 その後は俺とシルヴィアがそれぞれ自分達を囲える耐寒の【ディスペルフォース】を張り、寒さへの対策を講じる。
 それから俺が【アイスストーム】で周囲の空気を冷却。十分に冷やして動きを鈍らせた後、俺達側に居るのなら俺が【アイスニードル】で、シルヴィア側に居るのならエルヴァの投げナイフでトドメをさすという流れだ。
 魔法の絡むファンタジックな作戦に俺は興奮を覚えながら魔力を集中させる。

『ヨミーマウス! ヨミーマウス!』

 捕まえたとしても食えないペンダントが興奮して叫んでいるが、今度は不意打ちではないので問題ない。
 すると魔法の完成前にネズミが木を盾に俺たちの視界から消えた。おそらく俺の魔力を感じ取ったのだろう。だが二度同じ手は通用しない。

「【アイスストーム】──ッ!」

 俺の魔法が完成し、辺りの気温が急激に低下していく……はず。
 【ディスペルフォース】のおかげで冷気は感じられないが、きっと上手くいっているはず。
 するとエルヴァが木の陰から顔を出し、ナイフを投げたのが見えた。きちんとその木には向かっている。
 問題はネズミを仕留めれたかどうか……。
 緊張しながらエルヴァを見ていると、少ししてこちらに親指を立てる。

「いやったああああああああ!!」
「あ、待ってミラちゃん!」

 歓喜のあまり飛び出した俺をミストが止めるも間に合わず……。
 俺はあまりの寒さに身を震わせてディスペルフォース域内へと逃げ帰った。
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