13 / 14
13章
深い傷
しおりを挟む
女性は結衣に、林紗佳と名前を告げ、城田と同じ教師をしていると話した。
「潤の彼女なんでしょう?」
結衣は紗佳の言葉に黙って下をむいていた。
さっきからこっちを見ている澄んだ瞳が、自分の醜さをひとつずつ指摘しているようだ。吸い込まれそうなその視線になんとか疲れた目を合わせると、あっという間に自分は彼女の影になる。
キレイな人。
こんな傑作と出来損ないの自分を並べるなんて、神様は酷な事をする。
「潤は私の事なんか、初めから好きじゃなかったのよ。」
紗佳はそう言った。
「彼はなんでも器用にこなすじゃない。何をしても安心できるっていうか。だから、きっと幸せにしてくれるんじゃないかって私の勘違い。ねえ、あなたは潤のどんな所が好き?」
「なんていうか、なんだろう。」
結衣が言葉に詰まっていると、
「不器用ね。潤はこんな子のどこが良かったんだろう。」
少し沈黙が生まれた後、
「ひどい格好ね。せめて髪くらい染めたらどう?」
紗佳からいい香りが漂う度に結衣は恥ずかしくなって、前髪を触わるふりをして顔を隠した。
「最後の恋だって思ったのに。」
紗佳はため息をついた。
「あの、」
結衣は紗佳に言葉を投げかけると、
「振ったのは私よ。それを言いたかっただけ。」
紗佳が言った。
紗佳の車を降りて、自分の車にむかう。
凍ったアスファルトが月の光りに照らされて、キラキラと光っている。
はぁ~っと息を吐いて手を温めると、白くなったため息はぽとりと地面に落ちた。
あんな風にどこから見ても絵になる女性と、不恰好な自分が同じ人を好きになるなんて。城田は本当の気持ちを隠して、自分の所へきたのかもしれない。それはそれで、いいのかな。いや、よくないよ。どうやって城田の気持ちを確かめたらいいのかな。確かめた所で、その先に納得する答えがあるのかな。
土曜日。
溜まっていた報告ものを処理するために、職場へやってきた。
静まり返った庁舎の中は、自分の足音が響いている。早く片付けて、家に帰ろう。今日は城田と会う約束をしているのだから。
パソコンにむかい、カタカタをキーボードを打っていると、元彼の笹本が結衣の方にやってきた。
「よう。」
「あっ、おはよう。」
笹本がここへくる用事はなんだろう。同じ職場と言っても、自分がいる場所は、他の部所の人とは関わりの少ない場所だ。
結衣は素っ気ない態度で笹本に挨拶すると、周りに誰もいないのを見計らって、笹本は結衣の隣りの席に座った。
「残業か?」
「うん。」
結衣は笹本と目を合わせずに答えた。
「お前が普通の格好してるなんて珍しいな。この頃はずっと作業着だっただろ。」
笹本はさっきから自分の方を見ている。
「もう3年になるな。」
自分の方に椅子を引きずって近づいた笹本は、
「先月子供が生まれたんだよ。」
そう言って結衣にスマホを見せた。
「おめでとう。」
結衣はスマホを見てすぐに、パソコンに視線を戻した。
「可愛いなとか、俺に似てるだとか、そんな言葉はないのかよ。」
笹本は結衣の目の前にもう一度スマホをむけた。
「可愛いね。」
結衣はそれだけ言うと、笹本のスマホを避けてるようにマウスを動かす。
「相変わらず冷たいな。別れる時だってもう少し泣くのかと思ったのによ。」
笹本の話しなんかに、乗せられている場合ではない。結衣は引き出しから、書類を出して読み始めた。
「女ってわかんねぇわ。」
笹本はまだ話しを続けている。
「お前、俺の事、まだ好きなのか?」
「もういいでしょう。仕事させてよ。」
結衣は席を立った。
「なぁ、連絡先って今もそのままか?」
結衣のカバンの中から着信が聞こえている。
「今度、2人で会わないか?」
ちょうどそこに岡島が来たので、笹本は去っていった。
「岡島さん、仕事ですか?」
「忙しくて先週の伝票、溜めてたから。」
「伝票打ちなら私がやりますよ。」
「本当に?それなら頼むよ。俺は予算の方を先にやってしまいたいから。」
岡島はそう言って席についた。
昼前に終わると思っていた仕事は、夕方までかかった。急いで玄関を出て家にむかうと、細かい雪が雨の様に降ってきた。
まつ毛の上に雪が乗っかり、瞬きをしているうちに、目に何かが入った。
「やばっ、」
片方のコンタクトが落ちてしまった。雪の中をぼんやりと立っていた時、結衣の前に車が停まった。
「何度も電話したのに。」
城田が結衣の腕を掴んだ。
「ごめん、気づかなかった。」
城田は結衣についた雪をほろうと、助手席に乗せた。
「ぼーっとして、どうかしたか?」
城田が言った。
「コンタクト、落としちゃった。」
結衣は片目を手で覆った。
「どうせ家についたら外すんだろう。」
「うん、そうだけど。」
周りの景色はぼんやりしているのに、雪の白さだけが眩しくてやりきれない。
「なんか食べて帰るか?」
「ううん。夕飯の材料は買ってあるから。」
「そっか。楽しみだな。」
「ねぇ、城田さん。私といてもつまらないでしょう?」
結衣はうつむいてそう言った。
「なんでだよ。急にそんな事いうなんて、なんかあったのか?」
「なんとなくそんな風に思っただけ。」
頭の中には、綺麗な紗佳の横顔が浮かんでいる。紗佳が自分の前に来たと話したら、城田は職場で紗佳の事が振り返ってしまうだろう。これ以上、彼女の事を気にさせてしまったら、こんな自分なんか、すぐに捨てられる。本当、なんで紗佳の同じ人の事を好きになってしまったんだろう。
「つまらないかどうかって言ったら、つまらないかもな。」
「やっぱり…。」
結衣はあぁ~っと思い、目を閉じた。
「心配するなって。そんな浅い感情なんかじゃないから。もっと深い感情で人を想ったら、そう簡単には好きとか言えないよ。」
夕飯を終え、止まない雪をカーテンを開けて見ていると、浴室から城田がやってきた。
「紗佳が来たんだろう?」
城田が言った。
「知ってたの…。」
結衣は城田の顔を見た後、足元に視線を落とした。
「渋谷と会ったって、話していたよ。」
「キレイな人だよね。羨ましい。」
城田はクスッと笑った。
「何?」
「渋谷、紗佳も羨ましいって言ってたよ。」
「なんだろう。からかわれたかな。」
城田は結衣の肩を抱くと、
「少し太ったか?」
そう言った。
「ダメなの、太ったら?」
結衣は少し拗ねてそう言うと、
「嘘だって。」
城田は結衣を抱き寄せた。
「今の言葉、けっこう傷は深かったよ。」
結衣はそう言うと城田から離れ、ストーブの近くに腰を降ろした。
「今日は寒いね。」
結衣は言った。
「けっこう冷えてきたな。」
城田は結衣の隣りに座った。
「城田さんは冬は嫌い?」
「そうだなぁ。どっちかと言えば嫌い。」
「じゃあ、私とは合わないや。」
「渋谷は冬が好きなのか?」
「うん。夏は虫が多いからね。」
「夏は蜂退治とかしてるんだっけ。」
城田は結衣の髪を撫でた。
「蜂だって、嬢王蜂を守ろうとして必死だよ。生まれた時からずっと働き蜂って、泣きたくなるね。」
「仕事、辛いのか?」
「ううん。」
「俺が本庁で休んでた時の話し、聞いてたか?」
「それ、少しだけ聞いた。」
「そっか。」
「本当は、何があったの?」
結衣は城田の顔を覗いた。
「ごめん、嫌だったら話さなくてもいいから。」
結衣はそう言って目をそらした。
「ちゃんと話すよ。紗佳の事もあるからさ。」
城田は結衣の方に体をむけた。
「俺、わりと期待された方だったし、なんでもうまくいってて、仕事なんてこんなもんかなって思ってた時だよ。俺があの親子の家に行って帰る時に、俺の服の袖を掴んだ男の子は、自分が母親に殺されるかもってわかっていたのかもしれないし、俺に助けを求めていたのかもしれないしな。今でももう少しあの親子と話しをしていたら、あの男の子は生きていたのかなって思うと、だんだん辛くなってさ。時々夢に出てくるんだよ。渋谷と一緒にいると、そんな夢を見ても辛くないのに、ダメなんだよ、俺。」
結衣は城田の手を握った。
「そっか。城田さんはその子が言いたかった言葉を探しあげないと。」
「渋谷、この前また夢を見てさ、俺はあの子と同じように渋谷の袖を掴んでた。ずっと過去を離さないのは、俺自身なんだよ。」
「城田さん、」
「ん?」
結衣は城田の服の胸の部分を、自分に寄せた。
「してもいいでしょう?」
そう言って城田の唇に近づいた。
「いいよ、ほら。」
城田は結衣の体を引き寄せた。結衣は城田の肩に手をおくと、ゆっくり城田の唇に近づく。
お互いの唇同士が軽く触れると、城田は結衣の後頭部に手をあてて、深く口づけを交わした。
雪が降っているのも気が付かない静かな夜は、ストーブの明かりが2人を照らしている。
言えなかった言葉は、足元に積もっては溶けてなくなり、また明日の朝には足跡がつくほどに一面にまた白く敷き詰めているだろう。
本当に好きなのかって聞かれたら、なんて答えが正しいのか。運命だとか、真実の愛だとか言われても、それは少し自信がないや。
痛むくらいの恋をしている自分は、これ以上に辛い気持ちなんてないんじゃないかと勘違いをしている。
「城田さん、雪かきしてこないと。」
結衣は思い出したようにそう言った。
「今からか?」
「だって、玄関が開けなくなったら困るし。」
「大丈夫だよ。もうすぐ雪は止むから。」
城田は結衣をきつく抱きしめた。
「潤の彼女なんでしょう?」
結衣は紗佳の言葉に黙って下をむいていた。
さっきからこっちを見ている澄んだ瞳が、自分の醜さをひとつずつ指摘しているようだ。吸い込まれそうなその視線になんとか疲れた目を合わせると、あっという間に自分は彼女の影になる。
キレイな人。
こんな傑作と出来損ないの自分を並べるなんて、神様は酷な事をする。
「潤は私の事なんか、初めから好きじゃなかったのよ。」
紗佳はそう言った。
「彼はなんでも器用にこなすじゃない。何をしても安心できるっていうか。だから、きっと幸せにしてくれるんじゃないかって私の勘違い。ねえ、あなたは潤のどんな所が好き?」
「なんていうか、なんだろう。」
結衣が言葉に詰まっていると、
「不器用ね。潤はこんな子のどこが良かったんだろう。」
少し沈黙が生まれた後、
「ひどい格好ね。せめて髪くらい染めたらどう?」
紗佳からいい香りが漂う度に結衣は恥ずかしくなって、前髪を触わるふりをして顔を隠した。
「最後の恋だって思ったのに。」
紗佳はため息をついた。
「あの、」
結衣は紗佳に言葉を投げかけると、
「振ったのは私よ。それを言いたかっただけ。」
紗佳が言った。
紗佳の車を降りて、自分の車にむかう。
凍ったアスファルトが月の光りに照らされて、キラキラと光っている。
はぁ~っと息を吐いて手を温めると、白くなったため息はぽとりと地面に落ちた。
あんな風にどこから見ても絵になる女性と、不恰好な自分が同じ人を好きになるなんて。城田は本当の気持ちを隠して、自分の所へきたのかもしれない。それはそれで、いいのかな。いや、よくないよ。どうやって城田の気持ちを確かめたらいいのかな。確かめた所で、その先に納得する答えがあるのかな。
土曜日。
溜まっていた報告ものを処理するために、職場へやってきた。
静まり返った庁舎の中は、自分の足音が響いている。早く片付けて、家に帰ろう。今日は城田と会う約束をしているのだから。
パソコンにむかい、カタカタをキーボードを打っていると、元彼の笹本が結衣の方にやってきた。
「よう。」
「あっ、おはよう。」
笹本がここへくる用事はなんだろう。同じ職場と言っても、自分がいる場所は、他の部所の人とは関わりの少ない場所だ。
結衣は素っ気ない態度で笹本に挨拶すると、周りに誰もいないのを見計らって、笹本は結衣の隣りの席に座った。
「残業か?」
「うん。」
結衣は笹本と目を合わせずに答えた。
「お前が普通の格好してるなんて珍しいな。この頃はずっと作業着だっただろ。」
笹本はさっきから自分の方を見ている。
「もう3年になるな。」
自分の方に椅子を引きずって近づいた笹本は、
「先月子供が生まれたんだよ。」
そう言って結衣にスマホを見せた。
「おめでとう。」
結衣はスマホを見てすぐに、パソコンに視線を戻した。
「可愛いなとか、俺に似てるだとか、そんな言葉はないのかよ。」
笹本は結衣の目の前にもう一度スマホをむけた。
「可愛いね。」
結衣はそれだけ言うと、笹本のスマホを避けてるようにマウスを動かす。
「相変わらず冷たいな。別れる時だってもう少し泣くのかと思ったのによ。」
笹本の話しなんかに、乗せられている場合ではない。結衣は引き出しから、書類を出して読み始めた。
「女ってわかんねぇわ。」
笹本はまだ話しを続けている。
「お前、俺の事、まだ好きなのか?」
「もういいでしょう。仕事させてよ。」
結衣は席を立った。
「なぁ、連絡先って今もそのままか?」
結衣のカバンの中から着信が聞こえている。
「今度、2人で会わないか?」
ちょうどそこに岡島が来たので、笹本は去っていった。
「岡島さん、仕事ですか?」
「忙しくて先週の伝票、溜めてたから。」
「伝票打ちなら私がやりますよ。」
「本当に?それなら頼むよ。俺は予算の方を先にやってしまいたいから。」
岡島はそう言って席についた。
昼前に終わると思っていた仕事は、夕方までかかった。急いで玄関を出て家にむかうと、細かい雪が雨の様に降ってきた。
まつ毛の上に雪が乗っかり、瞬きをしているうちに、目に何かが入った。
「やばっ、」
片方のコンタクトが落ちてしまった。雪の中をぼんやりと立っていた時、結衣の前に車が停まった。
「何度も電話したのに。」
城田が結衣の腕を掴んだ。
「ごめん、気づかなかった。」
城田は結衣についた雪をほろうと、助手席に乗せた。
「ぼーっとして、どうかしたか?」
城田が言った。
「コンタクト、落としちゃった。」
結衣は片目を手で覆った。
「どうせ家についたら外すんだろう。」
「うん、そうだけど。」
周りの景色はぼんやりしているのに、雪の白さだけが眩しくてやりきれない。
「なんか食べて帰るか?」
「ううん。夕飯の材料は買ってあるから。」
「そっか。楽しみだな。」
「ねぇ、城田さん。私といてもつまらないでしょう?」
結衣はうつむいてそう言った。
「なんでだよ。急にそんな事いうなんて、なんかあったのか?」
「なんとなくそんな風に思っただけ。」
頭の中には、綺麗な紗佳の横顔が浮かんでいる。紗佳が自分の前に来たと話したら、城田は職場で紗佳の事が振り返ってしまうだろう。これ以上、彼女の事を気にさせてしまったら、こんな自分なんか、すぐに捨てられる。本当、なんで紗佳の同じ人の事を好きになってしまったんだろう。
「つまらないかどうかって言ったら、つまらないかもな。」
「やっぱり…。」
結衣はあぁ~っと思い、目を閉じた。
「心配するなって。そんな浅い感情なんかじゃないから。もっと深い感情で人を想ったら、そう簡単には好きとか言えないよ。」
夕飯を終え、止まない雪をカーテンを開けて見ていると、浴室から城田がやってきた。
「紗佳が来たんだろう?」
城田が言った。
「知ってたの…。」
結衣は城田の顔を見た後、足元に視線を落とした。
「渋谷と会ったって、話していたよ。」
「キレイな人だよね。羨ましい。」
城田はクスッと笑った。
「何?」
「渋谷、紗佳も羨ましいって言ってたよ。」
「なんだろう。からかわれたかな。」
城田は結衣の肩を抱くと、
「少し太ったか?」
そう言った。
「ダメなの、太ったら?」
結衣は少し拗ねてそう言うと、
「嘘だって。」
城田は結衣を抱き寄せた。
「今の言葉、けっこう傷は深かったよ。」
結衣はそう言うと城田から離れ、ストーブの近くに腰を降ろした。
「今日は寒いね。」
結衣は言った。
「けっこう冷えてきたな。」
城田は結衣の隣りに座った。
「城田さんは冬は嫌い?」
「そうだなぁ。どっちかと言えば嫌い。」
「じゃあ、私とは合わないや。」
「渋谷は冬が好きなのか?」
「うん。夏は虫が多いからね。」
「夏は蜂退治とかしてるんだっけ。」
城田は結衣の髪を撫でた。
「蜂だって、嬢王蜂を守ろうとして必死だよ。生まれた時からずっと働き蜂って、泣きたくなるね。」
「仕事、辛いのか?」
「ううん。」
「俺が本庁で休んでた時の話し、聞いてたか?」
「それ、少しだけ聞いた。」
「そっか。」
「本当は、何があったの?」
結衣は城田の顔を覗いた。
「ごめん、嫌だったら話さなくてもいいから。」
結衣はそう言って目をそらした。
「ちゃんと話すよ。紗佳の事もあるからさ。」
城田は結衣の方に体をむけた。
「俺、わりと期待された方だったし、なんでもうまくいってて、仕事なんてこんなもんかなって思ってた時だよ。俺があの親子の家に行って帰る時に、俺の服の袖を掴んだ男の子は、自分が母親に殺されるかもってわかっていたのかもしれないし、俺に助けを求めていたのかもしれないしな。今でももう少しあの親子と話しをしていたら、あの男の子は生きていたのかなって思うと、だんだん辛くなってさ。時々夢に出てくるんだよ。渋谷と一緒にいると、そんな夢を見ても辛くないのに、ダメなんだよ、俺。」
結衣は城田の手を握った。
「そっか。城田さんはその子が言いたかった言葉を探しあげないと。」
「渋谷、この前また夢を見てさ、俺はあの子と同じように渋谷の袖を掴んでた。ずっと過去を離さないのは、俺自身なんだよ。」
「城田さん、」
「ん?」
結衣は城田の服の胸の部分を、自分に寄せた。
「してもいいでしょう?」
そう言って城田の唇に近づいた。
「いいよ、ほら。」
城田は結衣の体を引き寄せた。結衣は城田の肩に手をおくと、ゆっくり城田の唇に近づく。
お互いの唇同士が軽く触れると、城田は結衣の後頭部に手をあてて、深く口づけを交わした。
雪が降っているのも気が付かない静かな夜は、ストーブの明かりが2人を照らしている。
言えなかった言葉は、足元に積もっては溶けてなくなり、また明日の朝には足跡がつくほどに一面にまた白く敷き詰めているだろう。
本当に好きなのかって聞かれたら、なんて答えが正しいのか。運命だとか、真実の愛だとか言われても、それは少し自信がないや。
痛むくらいの恋をしている自分は、これ以上に辛い気持ちなんてないんじゃないかと勘違いをしている。
「城田さん、雪かきしてこないと。」
結衣は思い出したようにそう言った。
「今からか?」
「だって、玄関が開けなくなったら困るし。」
「大丈夫だよ。もうすぐ雪は止むから。」
城田は結衣をきつく抱きしめた。
10
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる