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第三部 青年編
『序・酒場詩人ギルバート』※語り部のエピソード
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イズヴァルトの時代より二百年以上後の事。
かの英雄とその影たる碩学姫を研究していた不遇な歴史学者であり、吟遊詩人のはしくれであるギルバート=カツランダルクは、別の顔も持っていた。
酒場詩人というのがそれだ。世界各地の酒場を巡り、その店の特徴や美味い酒を表する即興詩を作ったり、酒場に関するエッセイを書いたりしていた。特に若い頃は。
「君と飲む、美味い酒をもっと味わい深くしてくれる歌姫がここにはいる」
「シマントスタンの商人達の室内オアシスこそが、この店だ」
「伝説の名酒・『オーガ殺し』は命を削る酒ではない。飲めば、酒精に滅法弱いオーガの理性を殺してしまうぐらいにのめり込む酒だ。これを飲む時はせめて、酒豪のゴブリンになった気持ちでいるといい」
などという文章がちりばめられた本を書いてはそこそこ売り、彼は歴史学者という本職があることを人々からすっかり忘れられてしまう。
彼の死後、その名を知る者は大体、酒場詩人だとかサキュバス狂いのヤリチン作家としかわからないのばかりだ。イズヴァルト研究など所詮、物好きな歴史家が興味を抱くぐらいである。
さて、若い頃のギルバートの話に移ろう。30手前だった頃の彼は、ホーデンエーネンの名門・トリシア大学の新人研究者としてカントニアを旅した。
目的はイズヴァルトの生きていた頃を良く知るエルフ達から話を聞く為だ。よい酒の飲みっぷりで、即興で曲を弾けるギルバートを、亜人達は好いた。
女エルフ達は彼の美声に酔い、ちょっとした恋心を抱いて股を開いた。まあ、そもそも開かれている様なものだったが。寝物語で彼は、イズヴァルトの話を聞き出した。
「とっても気が優しいぼうずだったズラ」
「なんだか昔っからいたような気にさせる男の子だったずらよ」
彼と旅をしたエルフ達も存命だった。出回っている資料にはない、いろいろな話も聞き出せた。
彼等が持っていた日記や映像記録などを借りて、若き頃のギルバートはイズヴァルトの謎に包まれた前半生、特に青年期の頃を知ることが出来た。
イズヴァルト=シギサンシュタウフェンの青年時代。彼が去った後にキンキ大陸で作られた数々の講談では、真っ黒な真空地帯として語られていなかった。
その理由の1つとして、その時代がかれの暗黒時代でもあったのが大きいだろう。少年時代まではホーデンエーネンの麒麟児。青年期の終わりに差し掛かった頃に参加した戦争では、世界の珠玉とまで言われるぐらいに活躍した。
なのだが、何故か知らないうちに一番愛していた恋人と別れ、カントニアに渡ってエルフ達の親しい友人となった青年期前半の彼は、誰も語ろうとしなかった。
あの頃のイズヴァルトさんはまさに生き死人だったずら。重く冷たく寂しい暗黒の時を過ごしていたズラよ。そう、エルフ達はギルバートに語っていた。
(よくわからないな……)
大概、青年期なんてのはありもしない棺桶をしょって過ごしている様なものだとギルバートは思っていた。彼の青春時代、母国のイーガで魔法の才が無いという事でえらく馬鹿にされていた。
そのせいで劣等感を抱いてくすぶり、学問と音楽にばかり打ち込んでいた彼は魔法の才でその人の優劣が決まる様なイーガから去り、留学生として隣国のホーデンエーネンに逃げ込んだのだ。
そしてこれからの語りは、ギルバートが聞き取りや資料で作り出した青年時代のイズヴァルトの物語である。
かの英雄とその影たる碩学姫を研究していた不遇な歴史学者であり、吟遊詩人のはしくれであるギルバート=カツランダルクは、別の顔も持っていた。
酒場詩人というのがそれだ。世界各地の酒場を巡り、その店の特徴や美味い酒を表する即興詩を作ったり、酒場に関するエッセイを書いたりしていた。特に若い頃は。
「君と飲む、美味い酒をもっと味わい深くしてくれる歌姫がここにはいる」
「シマントスタンの商人達の室内オアシスこそが、この店だ」
「伝説の名酒・『オーガ殺し』は命を削る酒ではない。飲めば、酒精に滅法弱いオーガの理性を殺してしまうぐらいにのめり込む酒だ。これを飲む時はせめて、酒豪のゴブリンになった気持ちでいるといい」
などという文章がちりばめられた本を書いてはそこそこ売り、彼は歴史学者という本職があることを人々からすっかり忘れられてしまう。
彼の死後、その名を知る者は大体、酒場詩人だとかサキュバス狂いのヤリチン作家としかわからないのばかりだ。イズヴァルト研究など所詮、物好きな歴史家が興味を抱くぐらいである。
さて、若い頃のギルバートの話に移ろう。30手前だった頃の彼は、ホーデンエーネンの名門・トリシア大学の新人研究者としてカントニアを旅した。
目的はイズヴァルトの生きていた頃を良く知るエルフ達から話を聞く為だ。よい酒の飲みっぷりで、即興で曲を弾けるギルバートを、亜人達は好いた。
女エルフ達は彼の美声に酔い、ちょっとした恋心を抱いて股を開いた。まあ、そもそも開かれている様なものだったが。寝物語で彼は、イズヴァルトの話を聞き出した。
「とっても気が優しいぼうずだったズラ」
「なんだか昔っからいたような気にさせる男の子だったずらよ」
彼と旅をしたエルフ達も存命だった。出回っている資料にはない、いろいろな話も聞き出せた。
彼等が持っていた日記や映像記録などを借りて、若き頃のギルバートはイズヴァルトの謎に包まれた前半生、特に青年期の頃を知ることが出来た。
イズヴァルト=シギサンシュタウフェンの青年時代。彼が去った後にキンキ大陸で作られた数々の講談では、真っ黒な真空地帯として語られていなかった。
その理由の1つとして、その時代がかれの暗黒時代でもあったのが大きいだろう。少年時代まではホーデンエーネンの麒麟児。青年期の終わりに差し掛かった頃に参加した戦争では、世界の珠玉とまで言われるぐらいに活躍した。
なのだが、何故か知らないうちに一番愛していた恋人と別れ、カントニアに渡ってエルフ達の親しい友人となった青年期前半の彼は、誰も語ろうとしなかった。
あの頃のイズヴァルトさんはまさに生き死人だったずら。重く冷たく寂しい暗黒の時を過ごしていたズラよ。そう、エルフ達はギルバートに語っていた。
(よくわからないな……)
大概、青年期なんてのはありもしない棺桶をしょって過ごしている様なものだとギルバートは思っていた。彼の青春時代、母国のイーガで魔法の才が無いという事でえらく馬鹿にされていた。
そのせいで劣等感を抱いてくすぶり、学問と音楽にばかり打ち込んでいた彼は魔法の才でその人の優劣が決まる様なイーガから去り、留学生として隣国のホーデンエーネンに逃げ込んだのだ。
そしてこれからの語りは、ギルバートが聞き取りや資料で作り出した青年時代のイズヴァルトの物語である。
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