動機 ~私を殺人鬼にする10のこと~

木継 槐

文字の大きさ
3 / 11
畏怖と軽率の出会い

2.

しおりを挟む
その夜、華弥子はすぐに行動を起こしていた。
男子の臭を辿って、後を追い草陰に身を隠した華弥子は男子がアルバイト先から出てくるのをじっと待っていた。男子が飲食店から出てくると、その前に華弥子が姿を現した。
「なんだお前。」
「命はとても儚く美しい……人間はかつて紙が生み出した自身のクローンなんですって。」
「は?」
「それなのにどうして皆……美しさを蔑ろにするの?」

直後、華弥子は自らの首に手をかけた。
同時に男子が操られるように自らの首に手をかけた。

「心配しないで。あなたの命は……私が解放してあげるから。」
片手で自ら首を締め上げる華弥子。男子は指の一本も愚か、血管すら自由を奪われたようにミシミシと浮き上がり抵抗ができないまま己の最大の力で自らの首を締めあげていく。
「くッ……か……ハ……」
消えゆく意識の中で、男子はようやく人に向けていた強欲に気が付いた。
男子の眼球がグルンと後ろに回った瞬間、首の骨がボキンと折れる音が静かに響いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の夜、季依は放課後にネットカフェで一つ仕事を済ませた帰り道だった。
高架下を通り道路に出る時、不審なうめき声が聞こえた季依は身を潜め、恐る恐る声のする方を覗き込んだ。うめき声の正体は自らの首を絞める男と同じように首を絞めて微笑む女の姿だった。
そして無言でデジカメを録画セットをした。
……タイミングが良かった……。
季依は心の中でそう歓喜の声を漏らした。
映像越しに見る情景では、男性と女性が同じ行動をとって、同じタイミングでばたりと倒れた。
録画を解除し、季依の表情に笑みがこぼれる。
音をたてないように背を向けた時、プチンという微かな音と髪を一本抜きとられる痛みがした。

「あなた、興味深いシュミを持ってるのね。」
季依が振り返るとそこには、にっこりと微笑んだ華弥子が立っていた。
先ほどまであの男の前に立っていたはずなのに……なぜ……。
「な、なんのこと…?」
「」
華弥子は表情を崩さないまま無言で自分の首に髪の毛を巻き付けて締め上げる。
季依の首にも締められる感覚。
「ッ?!」
髪の毛がプチンと切れる。
その瞬間解き放たれた感覚とともに、季依はその場にしりもちをついた。

「あぁ…切れちゃった。」
虚無感が感じられる表情の華弥子。
季依は自分の置かれた劣勢状態に必死に声を上げた。
「お願い。まだ…死ぬわけにはいかないの。」
「どうして?」
「聞いてくれるの?」
「えぇ、今は儀式の後のすがすがしさに包まれているの。」
「儀式?」
「さっきのね。そのカメラには証拠、何もない思うけど。」
「……え?」
慌ててスマホを見ると、間違いなく撮影がされていた風景に季依はホッと息を漏らした。
「なんだ……ちゃんと撮れて…ッ。」
「うん。よく撮れてる。」
顔を上げると微笑んだ華弥子がともにデジカメを覗き込んでいた。
「あなた、撮るの上手なのね……。」
「」
恐怖で声が出ない季依。
「ねぇ……私たち、お友達になりましょ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...