聖女は誘惑に負けて悪魔公爵の手に堕ちてしまいました。

星華

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盟約

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 ディオンとセリーナはグロンブナー当主だけが入れる公爵家の地下の書庫に向かっていた。
 まるで大きな渦に飲み込まれていく様な石作りの長い螺旋階段をゆっくりと二人は降りていく。

 最深部までたどり着くと、細かな彫刻が施された重厚な扉の前にたどり着いた。
 ディオンはその扉に手をかざすと頭上に魔法陣が現れてスキャンするかの様にディオンの頭から足元まで
魔法陣が身体をすり抜けた。

 パァッと緑色の光が輝き、当主である事を確認できたのか扉がガチャッと開いた。

 中に入るとひんやりとしていて自然と照明に淡い光が灯った。部屋の中は狭く、部屋を取り囲む様に本棚が並べられ部屋の中心にはテーブルとソファーが置かれていた。
 
 整然と並べられた本の中から、一際古びた赤い背表紙の本を一冊取り出しディオンはセリーナに渡した。


「セリーナ、これを読んでくれ」

「はい、ディオン様」

 二人はソファーに座り、セリーナは渡された
「グロンブナー家執事、トマス・フリードマンの手記」と表紙に書かれた本を開いて読み出した。



 『私がお使えする主人、ジュリアス・グロンブナー様は全てにおいて、規格外の方である。

 突如として現れた、災害級の魔物を単身で倒したり。拠点にしていた小さな村で見た事も無い魔導具を作り出し、商売を始めたらあっという間に交易都市となるまでに発展させてしまった。

 私はそんな規格外の主に惚れ込み、ぜひお側で使えさせて下さいと懇願して、長い間小間使いとしてお使えした。主からの信頼を得た私は、主が領主となった際にグロンブナーのお屋敷の全てを取り仕切る執事を任された。

 ある時、なぜ、こんなに素晴らしい能力に溢れているのかと聞いたら、主はコッソリ私だけに教えて下さった。

「ここでは無い世界で生きていた俺は、幼い子供を庇って不慮の事故で死んだ。それで、あの世に行ったら
 実はその子供は、俺が生きていた世界を救う神の神子で悪い奴に襲われていた所を俺が身代わりになって
救ったらしいんだ。
 それで、神様からお礼にって様々な力を沢山貰ってこの世界に転生したんだ。……まぁ、信じないだろうが本当の話だ」

 普通の人間がこんな話をすれば、頭がおかしいとしか思わないが、主の偉業を間近で見て来た私はその話を聞いて納得がいった。

 主はその後も交易都市を更に発展させ、領地も領民も瞬く間に増えていった。
 もはや領地とは言えない程に大きく栄えたこの領地をひとつの国として建国をしようという事になり、当然国王は主がなるかと思っていたのだが……。

「俺は国王なんてガラじゃない。好きな事、興味がある事にしかやる気が出ないタチなんだ。
 他にやりたい事が見つかればこの地を簡単に離れてしまうかもしれない。カレンデュラみたいな領地や領民の事を一番に考えられる奴が国王になった方がいい」

 そう言うと、慌てふためくカレンデュラをあれよあれよと国王に祭り上げてしまった。
 カレンデュラは主の側近の中でも群を抜いて優秀で
領民達の信頼も厚く何よりも主が推薦したのだから
異論が出るはずは無かった。

 建国まではスムーズだったのだが、突如として
国の周りに瘴気を放つ魔獣が現れた。
 国は混乱に陥ったが、主とカレンデュラ国、聖女が力を尽くしなんとかこの騒ぎが収束した頃、主の身体に異変が起きた。

 「英雄病」とも呼ばれる奇病。
石化病にかかってしまったのだ。

 不死身にも思えた主だったが、瘴気を放つ魔獣との
戦いで無理をし続けたのが原因だった。
 何とか治す方法は無いかと藁にもすがる思いであらゆる方法を試し、聖女フェリアにも手紙を送った。
 程なくして手紙を受け取った聖女は護衛騎士を一人だけ連れてグロンブナー公爵家にやって来た。

 聖女フェリアは魔物騒ぎに時に何度か見かけた位だったがその時は美しく溌剌としたイメージだったが、この時は大分やつれて何か思い詰めている様だった。

 聞けば、神殿内で聖女、聖女と崇め奉られ言動や行動も制限されて窮屈な毎日を送っていると聖女は語った。

 主の石化病を見た聖女フェリアは、完治させるには時間がかかるだろうと語った。
 そして、治療をする代わりに、実は護衛騎士の子供を孕っていて、神殿に知られると面倒な事になるからと出産するまでグロンブナー公爵家に滞在させて欲しいと頼まれた。

 もちろん主はそれを了承して聖女フェリアに協力すると誓った。
 グロンブナー公爵家に滞在している間、聖女フェリアは瘴気の魔物がまた現れるかもしれないとグロンブナー公爵家とカレンデュラに協力を要請し瘴気の魔獣の調査を行った。

 それから半年後、主の石化病を治した聖女フェリアは男の子を出産した。
 聖女フェリアの子供は、爵位を与えられていた家族に密かに預けて、同じ時期に妊娠していた姉の子供として育てられる事になった。

 完治した主は聖女フェリアにもっと感謝の気持ちを示したい、何か欲しい物は無いかと聞いた。

「もしいつか、わたくしの子孫が困っている時は手を差し伸べて何かを強要する事はせず、子孫が望む事だけをして下さい」

 主はその言葉を心に刻み聖女フェリアと盟約を結んだ。』


 セリーナは読んでいた本から顔を上げてディオンを
見つめた。

「読んだか?」

「……はい、ディオン様」

「この盟約があるから気持ちを伝える事が出来なかったんだ……俺が何か言えばセリーナきっと断れないからな」

「そうだったんですね……」

 初めて身体を重ねた時も、気持ちを伝えた時も
これまで何も言ってくれ無かった事がもどかしく悲しかった。だが、ディオンはいつだってセリーナを尊重してくれていた。

「……あの、これからは盟約に縛られずにディオン様の気持ちを素直に教えてくれたら嬉しいです」

「あぁ、神殿で衰弱したセリーナを見た時に身体が引き裂かれるかと思った……これからはもう我慢はしない」

「はい……え?あの……」

 ポスンとソファーに押し倒されたセリーナは壮絶な色気を放つディオンに覆い被された。

「我慢、しなくていいんだよな?」

「え?あの、こ、ここじゃダメです!」

「なら、ここでなければいいんだな?」

「え?」

 ディオンに抱き上げられて書庫を出たセリーナは
一瞬でディオンの部屋に移動して、ベッドに降ろされた。

「ずっと我慢してたんだ……俺の気持ちを受け止めてくれセリーナ」

「ちょっと、ま、待って下さい!やあぁ……」

 神殿から帰ってきて、セリーナの回復を待ってずっと我慢をしていたディオンに三日三晩凄まじい程の愛をぶつけられたセリーナだった。

ーーや、やっぱり盟約は必要だったかも……。


 

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