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婚約破棄いただきました
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エカテリーナ・フォン・リーデルブルク、公爵令嬢、16歳。
この国で最も格式高い家門に生まれ、非の打ち所のない美貌と教養を持つ少女。
だが今、彼女の眼差しは冷たく冴えていた。
「……マルチェロ様、婚約を破棄したいのですって?」
彼女の前にいるのは、許嫁である公爵家嫡男、マルチェロ・フォン・グラディウス。
そしてその背後に、意味ありげな勝ち誇った顔の少女――準男爵の庶子、マリア・エスティーレ。
マルチェロは口元を歪め、言った。
「すまない、エカテリーナ。だが俺は、真実の愛を見つけてしまった。マリアこそが、俺の運命の女性だ」
静まり返る学園の中庭。だがエカテリーナは、微笑んだ。
「まあ。それは結構ですわ。では、そのご希望、正式に受け入れましょう」
マルチェロが面食らったように瞬きをした。
「……いいのか?」
「もちろん。むしろ願ったり叶ったりですわ」
エカテリーナは優雅にドレスの裾をひるがえす。
「どうか、追放処分にしてくださいませ。辺境伯領――ガルディナの地に」
その場にいた者たちは息をのんだ。
ガルディナ。それは帝国の果て、魔物と霧に囲まれた未開の地。
だが、エカテリーナにとっては懐かしい土地だった。幼い頃、病弱だった彼女が養生のために滞在し、唯一「自由」を知った場所。
獣人の少年と木登りをし、魔導師の老婆と星を見たあの場所。
「……ご覚悟を?」
マリアが、思わず問いかける。だがエカテリーナは、紅茶でも勧めるような微笑みで応じた。
「ええ。私は『お可哀想な令嬢』として辺境に捨てられるのですもの。さぞ国中の同情を買うでしょうね?」
背筋に冷気が走ったのはマリアの方だった。
「……それに、辺境には“あの方々”がいますから」
彼女の脳裏には、金色の獣の瞳と、霧を裂く雷光の記憶がよぎる。
追放されるのは計画の第一歩。
この国で最も格式高い家門に生まれ、非の打ち所のない美貌と教養を持つ少女。
だが今、彼女の眼差しは冷たく冴えていた。
「……マルチェロ様、婚約を破棄したいのですって?」
彼女の前にいるのは、許嫁である公爵家嫡男、マルチェロ・フォン・グラディウス。
そしてその背後に、意味ありげな勝ち誇った顔の少女――準男爵の庶子、マリア・エスティーレ。
マルチェロは口元を歪め、言った。
「すまない、エカテリーナ。だが俺は、真実の愛を見つけてしまった。マリアこそが、俺の運命の女性だ」
静まり返る学園の中庭。だがエカテリーナは、微笑んだ。
「まあ。それは結構ですわ。では、そのご希望、正式に受け入れましょう」
マルチェロが面食らったように瞬きをした。
「……いいのか?」
「もちろん。むしろ願ったり叶ったりですわ」
エカテリーナは優雅にドレスの裾をひるがえす。
「どうか、追放処分にしてくださいませ。辺境伯領――ガルディナの地に」
その場にいた者たちは息をのんだ。
ガルディナ。それは帝国の果て、魔物と霧に囲まれた未開の地。
だが、エカテリーナにとっては懐かしい土地だった。幼い頃、病弱だった彼女が養生のために滞在し、唯一「自由」を知った場所。
獣人の少年と木登りをし、魔導師の老婆と星を見たあの場所。
「……ご覚悟を?」
マリアが、思わず問いかける。だがエカテリーナは、紅茶でも勧めるような微笑みで応じた。
「ええ。私は『お可哀想な令嬢』として辺境に捨てられるのですもの。さぞ国中の同情を買うでしょうね?」
背筋に冷気が走ったのはマリアの方だった。
「……それに、辺境には“あの方々”がいますから」
彼女の脳裏には、金色の獣の瞳と、霧を裂く雷光の記憶がよぎる。
追放されるのは計画の第一歩。
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