エカテリーナの追放

neko12

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カルディナ再び

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ガルディナ――帝国最西端、辺境伯領。

そこに再び“霧”が現れた。
魔境と呼ばれた時代の名残。かつて消えたはずの瘴気が、三年ぶりに森を覆いはじめていた。

**

「対瘴結界が弱まっている。急がなければ村が丸ごと飲まれるぞ!」

獣人の青年たちが慌ただしく走るなか、薬草庫の奥で冷静に地図を見ていたのは、エカテリーナだった。

「封結陣の魔石が限界ですわ。物資と補助魔導師の派遣を願いたいけれど……帝都は、もう応じてくれないかもしれませんわね」

**

そして帝都。

帝国議会に緊急報告が届いたのは、霧が発生してから4日目のことだった。

議場に張りつめた空気の中で、ある男が立ち上がる。

「辺境伯領ガルディナへの支援を、帝国として正式に承認すべきです」

マルチェロ・フォン・グラディウス。
副議長としての発言に、周囲がざわめく。

「かの地は、今や我が帝国にとって最も重要な薬学拠点です。
疫病のとき、帝都を救った薬も――あの地の者が作ったものだ」

「副議長、私的な感情では?」

「いいえ。これは“信義”の話です」

彼の声は揺るがなかった。

**

翌週、物資と魔石、支援部隊を乗せた騎獣がガルディナに到着した。
先頭にいたのは、鎧を脱ぎ、旅装に身を包んだマルチェロ本人だった。

**

「……まさかあなたが来るとは」

エカテリーナは、最初にそう言った。

責める言葉でも、驚きでもなく。
ただ、風のように静かだった。

マルチェロは微笑んだ。

「君に助けられた帝都の一員として。今度は、こちらが君を助ける番だと思っただけだ」

「あなたがそういう人だったら……あの頃、もう少し違っていたかもしれませんわね」

ふたりの間を、霧の風が吹き抜けた。

**

数日後。帝都の術士団とエカテリーナの知識を合わせた「新結界術」が完成し、霧は押し戻された。

人々は拍手を送り、子どもたちはまた野で遊び始めた。

だが、マルチェロはそれらを背に、ただ一言だけ残して帝都へ帰っていった。

「ありがとう、エカテリーナ。あなたは、いつまでも帝国の誇りだ」

**

その背中を見送りながら、エカテリーナはふと呟く。

「ようやく……ちゃんと手を伸ばしてくれたのですね。
でも――今の私は、誰かに手を引かれずとも、歩いていけますの」

そして、彼女は薬草園に戻っていく。
そこには、ガルディナの空があり、育ちゆく若き命と、彼女の選んだ未来があった。

**

マルチェロの春は戻らなかったかもしれない。
だが、その風はたしかに、エカテリーナのいる地へと向かって吹いた。

――彼女の笑顔を、遠くから守る風として
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