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第2話 前大戦の遺恨
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〈海軍本部長執務室前〉
「はぁ…海軍本部長…苦手なんだよなぁ…」
アンカーはため息をつきながらラートを撫でる。
するとベストロニカは「?」を顔に浮かべながらラートを床へと下ろした。
「そうでしょうか。ほら、ラートは本部長執務室の扉をカリカリしてますよ」
確かにしきりに扉を前足でカリカリしたり体を擦り付けている。
うん確かにラートはあのおじさんが好きだけどそうじゃなくて俺が苦手なんだよと念を送るがどうやら通じてないらしい。
仕方なくアンカーはベストロニカに向かってラートじゃなくて俺。と口に出して伝えると
「あ、そっちでしたか」
と割とマジな顔をされたのでもしかすると彼女は天然なのかもしれない。
さて、苦手な本部長殿に会いたくないなぁと思っていた矢先、いきなりドアが開いた。
「やぁ少年少女!長旅の間に情交を結んだかな!?」
「いいえ」
「してませんッ!」
礼儀知らずの発言に2人共即答で否定した。
もっともベストロニカは落ち着いて、アンカーは顔を真っ赤にしながらだったが。
このはっきり言って変態こそ海軍本部長タンヌ・ヴァ・ド・ドクトラ元帥である。
電球の如く光り輝く禿げ頭に大きな黒目、大きな口。体は引き締まっているが首より上がインパクトのある容貌の為、貴族、平民、奴隷のどの人々にも大きな印象を与える。
そんなドクトラ元帥だったが実はアンカーの義理の叔父である。
「元帥閣下!ふしだらな発言は御控えください!ここは海軍本部ですよ!」
「全然顔を出さない君に言われたくはないね!」
「ぐぬぬ…」
「全く!可愛い甥が来たから出迎えてやったというのに!そういえば君はいつもいつも副官のヴィジョンノに全て丸投げしおって!今日という今日はお説教を…おぉラート、よしよし」
ドクトラ元帥の大声に臆さずラートが体を擦り寄せる。
アンカーが劣勢になると予想してベストロニカがラートを床に下ろしたのが幸いしたようだ。
ちなみにベストロニカはこの変態…もとい元帥を尊敬している。
こんな変態だが前大戦では海軍1個艦隊を率い、敵国であるスカリー帝国の艦隊を2つも壊滅させた名将であるからだ。
こんな変態だが。(3回目)
「まぁ中に入りなさい。春になったとはいえ我が国はまだまだ寒い」
「そうさせて頂きます」
3人は2人掛けの椅子と海軍本部長席に座った。
ラートは中にいたドクトラの副官であるハーレ・ド・ドクトラ中佐にご飯を出されてムシャムシャと夢中になって食べている。
ついでハーレは2人分のコーヒーを出しながら陳謝してきた。
「ごめんね~。この人には後でキッチリとお仕置きしておくから~」
そう言いつつドクトラの首を締めて掛かってるあたりもう彼女のお仕置きは始まっているようだ。
「叔母上、それぐらいにしといてあげて下さい…」
なんで俺が擁護せにゃならんのだ。
被害者なのに。
そんな複雑な気分のアンカーに代わってベストロニカはにこやかにハーレに向かってお仕置きを止めるようにお願いした。
「ハーレ中佐。私も特に気にしておりません。そろそろ解いて頂かないとドクトラ元帥閣下が伸びてしまいますよ」
「た、たすけてぇ…」
「あら、そう?もう!まったくあんたって人は!これ以上迷惑かけないでね!」
「ゴホォッ、ゴホッゴホ。…失礼しました…ゲホ。もうしません…」
そう言って叔父上あんたこれ何回目だよ。
「まぁ貴方達の縁談の話もまとまってきてるし、うちのが騒がしくなるのも分からなくは無いんだけどね~」
「「…」」
先程まではにこやかだったベストロニカもムスッとしていたアンカーもこのことには2人共表情にカーテンを掛け、押し黙った。
それを察してかドクトラがすぐに別の話題を持ち出した。
というより元々の本題を出したにすぎないが。
「それでは、ライン中将。報告を」
「はい。我が第2艦隊は1ヶ月前にアーセアン諸島沖で哨戒、及び第5艦隊との模擬戦を致しました。両任務中にスカリー帝国、カーリス皇国の邪魔立ては特に無く、無事任務を達成出来たと思います。報告書はこれです」
ベストロニカが出した10数枚の報告書をまとめた冊子を受け取ったドレトクは読みながらアンカーに問いかけた。
「奴ら…特にカーリス皇国は何も反応が無かったのだな?」
「はい。うんともすんとも言いませんでした」
「ふーむ。威力偵察も兼ねている哨戒に挑発である模擬戦にも反応無しか。これで3度目だぞ」
「確か明後日には第3艦隊が出るそうですね」
「そうだ。第4艦隊も近海にて同様の任務を行い、最終的に両艦隊での模擬戦を行う手筈だ」
報告書に目を通し終えたドクトラはそれを後ろに立っているハーレに渡し、腕を組んだ。
「奴ら20年前のことを忘れたわけではあるまい。我が国のこれだけの挑発に乗らないあたりだいぶ国力を削がれたとみえる」
「しかし後ろにはスカリー帝国がいます。帝国は第1次オストメニア大戦でもかなりの強敵でした。侮ってはいけません」
「そんなことは言われんでも分かっておる。…奴ら怖気づいたわけではあるまい。仮にも20年前は立派な皇国だった」
今回のルンテシュタット王国による一連の挑発はカーリス皇国と20年前に戦った第1次オストメニア大戦と呼ばれる大戦争の決着をつけようとした軍上層部の指示によるものだ。
正しくは国王が計画したものだがそれを王国軍首脳参謀本部が引き留めきれなかったというのが真実である。
一度終わった大戦をもう一度行うというのは容易ではない。
なので度々挑発を繰り返すことでカーリス皇国の反応に難癖を付け、宣戦の理由としようとしたのである。
「はぁ…海軍本部長…苦手なんだよなぁ…」
アンカーはため息をつきながらラートを撫でる。
するとベストロニカは「?」を顔に浮かべながらラートを床へと下ろした。
「そうでしょうか。ほら、ラートは本部長執務室の扉をカリカリしてますよ」
確かにしきりに扉を前足でカリカリしたり体を擦り付けている。
うん確かにラートはあのおじさんが好きだけどそうじゃなくて俺が苦手なんだよと念を送るがどうやら通じてないらしい。
仕方なくアンカーはベストロニカに向かってラートじゃなくて俺。と口に出して伝えると
「あ、そっちでしたか」
と割とマジな顔をされたのでもしかすると彼女は天然なのかもしれない。
さて、苦手な本部長殿に会いたくないなぁと思っていた矢先、いきなりドアが開いた。
「やぁ少年少女!長旅の間に情交を結んだかな!?」
「いいえ」
「してませんッ!」
礼儀知らずの発言に2人共即答で否定した。
もっともベストロニカは落ち着いて、アンカーは顔を真っ赤にしながらだったが。
このはっきり言って変態こそ海軍本部長タンヌ・ヴァ・ド・ドクトラ元帥である。
電球の如く光り輝く禿げ頭に大きな黒目、大きな口。体は引き締まっているが首より上がインパクトのある容貌の為、貴族、平民、奴隷のどの人々にも大きな印象を与える。
そんなドクトラ元帥だったが実はアンカーの義理の叔父である。
「元帥閣下!ふしだらな発言は御控えください!ここは海軍本部ですよ!」
「全然顔を出さない君に言われたくはないね!」
「ぐぬぬ…」
「全く!可愛い甥が来たから出迎えてやったというのに!そういえば君はいつもいつも副官のヴィジョンノに全て丸投げしおって!今日という今日はお説教を…おぉラート、よしよし」
ドクトラ元帥の大声に臆さずラートが体を擦り寄せる。
アンカーが劣勢になると予想してベストロニカがラートを床に下ろしたのが幸いしたようだ。
ちなみにベストロニカはこの変態…もとい元帥を尊敬している。
こんな変態だが前大戦では海軍1個艦隊を率い、敵国であるスカリー帝国の艦隊を2つも壊滅させた名将であるからだ。
こんな変態だが。(3回目)
「まぁ中に入りなさい。春になったとはいえ我が国はまだまだ寒い」
「そうさせて頂きます」
3人は2人掛けの椅子と海軍本部長席に座った。
ラートは中にいたドクトラの副官であるハーレ・ド・ドクトラ中佐にご飯を出されてムシャムシャと夢中になって食べている。
ついでハーレは2人分のコーヒーを出しながら陳謝してきた。
「ごめんね~。この人には後でキッチリとお仕置きしておくから~」
そう言いつつドクトラの首を締めて掛かってるあたりもう彼女のお仕置きは始まっているようだ。
「叔母上、それぐらいにしといてあげて下さい…」
なんで俺が擁護せにゃならんのだ。
被害者なのに。
そんな複雑な気分のアンカーに代わってベストロニカはにこやかにハーレに向かってお仕置きを止めるようにお願いした。
「ハーレ中佐。私も特に気にしておりません。そろそろ解いて頂かないとドクトラ元帥閣下が伸びてしまいますよ」
「た、たすけてぇ…」
「あら、そう?もう!まったくあんたって人は!これ以上迷惑かけないでね!」
「ゴホォッ、ゴホッゴホ。…失礼しました…ゲホ。もうしません…」
そう言って叔父上あんたこれ何回目だよ。
「まぁ貴方達の縁談の話もまとまってきてるし、うちのが騒がしくなるのも分からなくは無いんだけどね~」
「「…」」
先程まではにこやかだったベストロニカもムスッとしていたアンカーもこのことには2人共表情にカーテンを掛け、押し黙った。
それを察してかドクトラがすぐに別の話題を持ち出した。
というより元々の本題を出したにすぎないが。
「それでは、ライン中将。報告を」
「はい。我が第2艦隊は1ヶ月前にアーセアン諸島沖で哨戒、及び第5艦隊との模擬戦を致しました。両任務中にスカリー帝国、カーリス皇国の邪魔立ては特に無く、無事任務を達成出来たと思います。報告書はこれです」
ベストロニカが出した10数枚の報告書をまとめた冊子を受け取ったドレトクは読みながらアンカーに問いかけた。
「奴ら…特にカーリス皇国は何も反応が無かったのだな?」
「はい。うんともすんとも言いませんでした」
「ふーむ。威力偵察も兼ねている哨戒に挑発である模擬戦にも反応無しか。これで3度目だぞ」
「確か明後日には第3艦隊が出るそうですね」
「そうだ。第4艦隊も近海にて同様の任務を行い、最終的に両艦隊での模擬戦を行う手筈だ」
報告書に目を通し終えたドクトラはそれを後ろに立っているハーレに渡し、腕を組んだ。
「奴ら20年前のことを忘れたわけではあるまい。我が国のこれだけの挑発に乗らないあたりだいぶ国力を削がれたとみえる」
「しかし後ろにはスカリー帝国がいます。帝国は第1次オストメニア大戦でもかなりの強敵でした。侮ってはいけません」
「そんなことは言われんでも分かっておる。…奴ら怖気づいたわけではあるまい。仮にも20年前は立派な皇国だった」
今回のルンテシュタット王国による一連の挑発はカーリス皇国と20年前に戦った第1次オストメニア大戦と呼ばれる大戦争の決着をつけようとした軍上層部の指示によるものだ。
正しくは国王が計画したものだがそれを王国軍首脳参謀本部が引き留めきれなかったというのが真実である。
一度終わった大戦をもう一度行うというのは容易ではない。
なので度々挑発を繰り返すことでカーリス皇国の反応に難癖を付け、宣戦の理由としようとしたのである。
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