戦場立志伝

居眠り

文字の大きさ
上 下
9 / 63

奇襲

しおりを挟む
 帝国軍第十三艦隊はアビスが出没したと見られる宙域、すなわちベルファストという名の場所に停止しあらゆる方向に哨戒艦や偵察機を送り出し情報を収集していた。
しかしなかなかアビスの尻尾は掴めなかった。
「まだか!まだアビスは見つからんのか!」
通信士官にオブライエンは怒鳴り散らしたが返答は淡々としていた。
「少将、落ち着いて下さい。すぐに見つかります。」
するとすぐに哨戒艦から通信が飛んできた。
「こちら哨戒艦T-二十三号!我敵と遭遇す、
直ちに援軍を送られたし!アビスの数は…」
そこで通信が途絶えた。
「哨戒艦T-二十三号、通信途絶!」
オブライエンは少しの間最初の犠牲者達に対して黙祷を捧げた後、勢いよく腕を振って指示を飛ばした。
「アビスが来るぞ!迎え撃つ準備をせよ!全艦、第一次戦闘態勢をとれ!」
それから十数分後帝国軍第十三艦隊とアビスは放火を交えた。
「ファイヤー!」
オブライエンの怒号と同時に帝国軍第十三艦隊百七十二隻の砲塔からビームが発射された。
それを正面から受けたアビスはたいした装甲を持たない宙雷艇がほとんどなので、アビス八十九隻は一撃で半減してしまった。
次々と敵の船が火球に変わっていく様子を見て、喜ぶ部下達を尻目にオブライエンは考えていた。
敵があまりに脆いのだ。
これほど脆いのであればガンダー帝国が前二回の討伐戦で多数の被害を受けることなどなかったはずだ。
「おかしい…」
その声を聞いた者はいなかった。
なぜならオペレーターの悲鳴にかき消されたからであった。
「天頂方向に多数の宙雷艇ワープアウト!それだけじゃない、天底、左翼、右翼、後方までもがアビスの宙雷艇で埋め尽くされました!その数七百隻を超えています!!」
「馬鹿な…そんな数相手にしていたら我が艦隊は全滅だ!」
オブライエンは顔中に汗を流しまくりながらも指示を出した。
「戦艦や重巡、足の遅い船は中央と前面に押し出し駆逐艦と軽巡は周りに展開してアビスの宙雷艇を寄せ付けるな!近付かれたら魚雷を叩き込まれて死ぬぞ!!」
それを聞いた全艦は慌てつつも指示通りに船を動かし始めた。
魚雷はミサイルと違い、誘導性能は一切ないがミサイルよりひとまわり大きく大量の火薬を詰め込むことが出来るため、戦艦の装甲でも簡単に破られることがある。
しかし反面大量に火薬を詰めているせいで速さはミサイルに劣る。
その為仮に発射されたとしても回避がしやすい駆逐艦や軽巡等で対処するのがセオリーである。
しかしそれも魚雷の数が少ない場合であり、
一艦に対して向けられた十以上の魚雷をどう避けろと言うのだろう?
現在も多数の魚雷や宙雷艇から発射された少量のビームやミサイルに一艦、また一艦と駆逐艦と軽巡、中には戦艦や重巡の姿もあった。
「ええい、ちょこまか動き回りよって!」
オブライエンは歯を食いしばりながら艦橋の床を軍靴で蹴った。
たが、なんとか後方の宙雷艇を蹴散らし、艦隊を危地から脱しさせた時、彼はへなへなと自分の席に座りこんだ。
そこへ新たなオペレーターの悲鳴がオブライエンの耳に入った。
「前方にワープアウト反応!数は三百隻はいるぞ!」
しおりを挟む

処理中です...