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34、 その時の心構え (1)

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「え~っ、 先日の全国中学校剣道大会におきまして、 我が校2年生の天野虎太朗くんが見事2位に輝きまして…… 」


 夏休み明け最初の全校集会。

 校長の長い長い挨拶の後で、 コタローが盛大な拍手のなか、 堂々と壇上に上がって行った。


 8月に行われた剣道の大きな大会で、 コタローは準優勝に輝いた…… らしい。


『負けちった…… なぐさめてよ』

 試合から帰ったコタローが部屋に来てそう言ったから、 私はてっきりボロ負けで落ち込んでるものと思い込んで、 ムツ◯ローさんなみに全力で頭をヨ~シヨシしたのだけれど…… 

 な~んのことはない、 日本全国の中学生剣士の中で2番目に強いんじゃん。
 誇りこそせよ、 落ち込むような成績じゃないじゃん。

 …… というか、 コレはコタローよりも、 むしろ私の方が落ち込んでいい案件なのでは?

 全国大会2位という喜ばしい報告を、 他の生徒と一緒に朝礼の場で知らされてる私って一体……。


***


「あのさぁ~、 なんで教えてくれなかったの? 準優勝。 何が『慰めて』だよ。 こっちは慰め損だよ」

「えっ? ああ……  だって実際に最後は負けたわけだからな、 負けは負けだよ。 癒しを求めたっていいだろ」

 いつもの対価交換の場で、 コタローはサラッと答えたけれど、 なんだかに落ちない。


「私は応援に行っちゃダメだわ試合結果も知らされてないわで、 隣に住んでるのになんだかね…… だね」

 腹立ち紛れにグチグチ言ってやったら、 コタローは人差し指で頬をポリポリ掻きながら、 ちょっと困ったような顔をした。


「それは……さ、 もっと強くなるためのハードルっていうか、 自分への誓いというか……さ」
「誓い? 」

「うん。 俺の中で理想の形っていうのがあってさ、 まだそこまで到達してないんだよ。 俺がハナを試合に呼びたいと思ったら拉致らちってでも連れてくし、 本当の本当に大事な事は、 絶対1番にハナに伝えるから…… もう少し待っててよ。 なっ」


 誓い? 理想の形?  大事なこと?

 だから、 それは『何だ?』っていうのをこっちは聞きたいのに、『なっ』で会話をめられてしまっては、 もうそれ以上は追求できない。

 こういう時、 もしも彼女であれば、『恋人なんだから知る権利があるよねっ! 』なんて可愛く問いただせるんだろうか。

 それじゃあ、『幼馴染』なら、 一体どこまで踏み込んでいいんだ?
 そもそも、 こういう時に怒る権利はあるのか?


 分からない…… 自分の立ち位置も、 これからどうしたらいいのかも。


 コタロー、 私さ、 幼馴染ってこんなに中途半端で微妙な立場だったんだって事に、 今更ながら気付いてしまったよ。
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