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11、こいつは俺のだ
それは高校時代の微笑ましい思い出の1ページ。
「よっ、 お待たせ 」
奥の方のいつもの席でノートを広げて勉強していた楓花は、ポンと肩を叩かれて顔を上げた。
涼太が反対側に座りながら座席にカバンを置いて、「遅くなって悪い」と顔の前で手を合わせる。
「ううん、ここは自分ちにいるのと変わらないし、先に宿題を始めてたし。今日は結子は何時に来れるの?」
「試合が近いから6時過ぎかな…… 悪いな、俺たちのことに付き合わせて」
「大丈夫だよ。家で宿題するのも、ここで済ませるのも変わらないし」
コトリ……と目の前に2人分のコーヒーが置かれた。「ごゆっくり」とニッコリ微笑む祖母の八重に2人で御礼を言って、会話を続ける。
「それにしてもさ、恋愛禁止って、バレー部厳し過ぎだよね」
「そうなんだよな~。外で堂々と付き合えないのはキツイわ~。でもさ、ここでアイツの部活終わりまで待たせてもらえて本当に助かってるんだぜ。ここの沿線なら部長の家と反対方向だし、こうしてお店で勉強してれば時間の無駄にもならないし」
『かぜはな』で勉強しながら結子を待つことを提案したのは楓花だった。
強豪バレー部の厳しい規則のせいで付き合っていることを公に出来ず、デートもままならない2人のために何とかしてあげたいと思ったのだ。
幸いというか、楓花の通っていた高校は家からちょっと離れていて、平日にこの辺りで同じ学校の生徒を見掛ける事がほぼほぼ無いうえに、部長の家からは反対方向に位置していたから、デート場所に持って来いだった。
このあと涼太は結子と合流して近所の商店街をブラつく事になっている。
「どういたしまして。親友のお役に立てて嬉しいです。それじゃ宿題やっちゃおうか」
たまにお喋りを挟みながら向かい合って宿題をしていると、時間が過ぎるのはあっという間だ。
「おっ、結子からLINE来た。あと5分で着くって。俺、駅に向かうわ」
「そっか、それじゃ私も家に帰ろうかな。デート楽しんでね」
2人揃って店を出て、そこで手を振って別れた。
*
「結局さ、付き合い始めてからの1年半って顧問にバレなかったんだよね?」
「バレなかった。っていうか、同級生は知ってたけど、顧問と部長には内緒にしてくれてた」
「甘酸っぱい青春だね」
「……だな」
顔を見合わせふふっと笑い合う。
「それで、お前の方はどうなんだよ? 」
「恋愛? ダメダメ、全然だよ!」
「全然って……どうせまだ幼馴染の天にいへの初恋を拗らせてるんだろ? もうこっちで会ったの?」
そう聞かれて、言おうかどうかちょっとだけ迷ったけれど、昔話の勢いもあって、正直に告げることにした。
「うん。実は今日これから一緒に食事に行く約束をしてて……退院祝いをしてくれるの」
「マジか!道理でお洒落してると思ったよ。今日の楓花、めちゃくちゃ綺麗だし」
「えっ、本当? だったら嬉しいんだけど。茜ちゃんにお化粧してもらったんだ」
思わず両手を頬にあてて喜んだら、逆に涼太が渋い顔になる。
「おいおい、めちゃくちゃ浮かれてるじゃん……相手は結婚してるんだろ? 不倫だけはやめとけよ。俺、もうお前が泣くのを見たくはないからさ」
「うん……分かってる」
病院での出来事は絶対に言えないな……と心の中で独りごちる。
「まあ、俺で良ければいくらでも話を聞くからさ、今度ゆっくりご飯でも食べに行こうよ」
「うん、涼太と話せて良かったよ。近いうちにまた連絡するね!」
そのとき急に涼太の顔が曇り、視線が楓花を飛び越えて、その後ろに注がれた。
ーーえっ?
楓花が振り返ろうとした時には、もうその人がテーブルの横に立っていて……。
「天にい!」
白衣姿も素敵だったけれど、私服もカッコいいな。細身のネイビースーツに淡いブルーストライプシャツのコーディネートがキマっていて……
なんて楓花が見惚れている間も、天馬は無言のまま見下ろしている。
「あっ、そうだ……天にい、紹介するね。彼は高校時代の同級生で……あっ!」
楓花が言い終わらないうちに、険しい顔をした天馬にグイッと腕を引っ張り上げられ、そのまま外に連れ出される。
「えっ、あっ、ちょっと!」
天馬は表に停めてあった車のドアを開けると、 楓花を乱暴に助手席に押し込んだ。エンジンはかかったままだ。
「おいたあんた、ちょっと待てよ!」
急な大声に助手席から顔を上げると、追いかけてきた涼太が天馬に抗議をしているのが見えた。
「黙れ、小僧」
「はぁ?あんたこそ……」
「こいつは俺のだ」
言うなりバンッ! とドアを閉め、自分は運転席に回り込む。
「天にい、どうしたの? 何を怒ってるの?」
「シートベルトを締めろよ。舌を噛むぞ」
「えっ? ……キャッ!」
天馬は車を急発進させると、一気にスピードを上げて乱暴に走らせた。
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