62 / 169
61、お前のキスからはじまった (3) side天馬
電話の音で目が覚めた。
ーーくそっ、今何時だよ。病院の呼び出しか?
俺は今超絶二日酔い中だぞ。こんな状態でオペに入ったりしたら医療ミスを起こすだろうが!
そんな事を考えているうちに電話は切れた。
頭も身体も泥のように重く澱んでいる。
昨夜……というかもう時計の針は0時を回っていたけれど……まで結婚式の3次会に付き合った天馬は、大河から楓花の話を聞かされてから強い酒を浴びるように飲みまくって、泥酔状態で家に帰って来た。
椿ともう1人の友達に抱えられるようにしてタクシーから降りたのは薄っすら覚えている。今スウェットを着ているということは、酔いながらも一応シャワーを浴びて寝たのだろう。
ーーあったま痛て……。
手の甲を額に当てて目を瞑っていたら、またしても電話が鳴った。
本当に病院からかも知れない。
仕方なくスマホを手にすると、液晶画面には『颯太』の文字。
ーーえっ?!
慌てて通話に切り替える。
「颯太?」
一瞬の間があってから、『天にい』と呼ぶ小さな声。ああ、懐かしいな。久し振りに声を聞いたな……と思ったら胸がギュッと苦しくなった。
「……颯太、どうした?」
『今、天にいの家の前に来てて……』
「すぐに行く!」
速攻でそう叫んで立ち上がっていた。途端に頭がガンガンして軽い吐き気を覚えたけれど、そんなこと言ってられない。
玄関にあったサンダルを引っ掛けて表に出ると、楓花は黒い門の向こう側でジッとこちらを見つめて立っていた。
なんだか嬉しいような泣きたいような気持ちになって、天馬は目を細める。
門扉を開けるとふわ~っと欠伸をして見せた。これなら瞳が潤んでいたって誤魔化せるだろう。
「ごめん、昨日は大河の3次会まで付き合ってさ…… 」
ニコッと笑ってみせたら、楓花は「そうなんだ……」とぎこちない笑顔を浮かべた。
「んっ? 颯太、どうした?」
「えっ? あっ、ごめん……」
黒いカットソーにチェック柄のミニスカート、黒タイツ。上に千鳥柄のチェスターコートを合わせて他所行きのコーディネートをしている所を見ると、今から東京に行くのだと合点する。
ーーそうか、いよいよ出発するのか……。
恥ずかしそうに俯いた頭の上に手を乗せて、クシャッと撫でる。こんな風にするのは久し振りだ。
最後にこれくらいなら触れたっていいだろう?……と心の中で呟いた。
「そうか……今日出発だったな」
「……知ってたの?」
「ん……親が話してたし、大河からも聞いてたからな。それでわざわざ会いに来てくれたのか?」
切なさをグッと堪え、楓花の頭をわしゃわしゃ撫でながら顔を覗き込んだら、何故か楓花も泣き出しそうな顔をしていた。
そうか、颯太も別れを寂しがってくれているのか……。
「天にい、私…… 」
その時、天馬のポケットから呼び出し音が鳴った。チッと舌打ちしながらスマホの画面を見ると、水瀬椿からだった。
「ちょっとごめん」
何故か後ろめたくて背中を向けた。
「椿、どうした?」
「天馬、体調はどう?酷く酔っ払っていたから……。あなたタクシーに忘れ物をして行ったわよ」
「……えっ、忘れ物?」
「ネクタイ。今から持っていきましょうか?」
「ネクタイ? 今はちょっと……」
「それじゃあ一緒に夕食でもどう?それまでぐっすり寝て酔いを覚ましておきなさいよ」
「ああ、それじゃ今度会った時に……うん、じゃあ」
スマホをポケットに突っ込んで振り返った途端、ギョッとした。
楓花が泣いている。チワワみたいな大きな黒目から涙をポロポロ溢してしゃくり上げて……。
抱き締めてやりたい……と思った。
だけど自分にはそんな資格は無いのだと、両肩を掴んで顔を覗き込んだ。
「おい楓花、お前泣いてるのか? どうした、大丈夫か?!」
楓花は何も言わず、黙って首を振る。
「くっそ~、ハンカチを持ってないんだよなぁ」
ーー俺はなんでスウェット姿なんだよっ!
ダサ過ぎる。こんな最後の時でさえカッコつかない。
「……これで我慢しろよ」
せめてもと、人差し指で目尻の涙を拭ってやった。目尻に触れたら離れがたくて、そのまま濡れた頬を手の平で拭った。
ーーああ、もうこれでお別れか。だけど楓花はこうして会いに来てくれた。これで充分だ……。
「天にい」
「ん?」
名前を呼ばれて顔を下に向けた途端、首に細い手が回されて、グイッと引っ張られた。
ーーえっ?!
次の瞬間には唇に柔らかい感触があり、それはあっという間に離れて行く。
「えっ……」
「お幸せに!」
ーーええっ?!
「おっ、 おい、 颯太! 」
駆け出そうとして、頭に激しい痛みを感じて足が止まった。
ーーくっそ……俺はどうして酒を飲んだんだ、バカヤロー。そしてどうしてサンダル履きなんだよっ!
それでも額を押さえながらヨロヨロと追い掛けると、楓花が乗ったタクシーは、無情にも目の前で走り去って行ったのだった。
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
体育館倉庫での秘密の恋
狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。
赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって…
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】