夏目荘の人々

ぺっこ

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ぽっちゃり女子×犬系男子5

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さっきお店に入ってきたのは陽介くんを含む3人の男の子達だった。


陽介くんは私を見つけると、楠田くんに「あの子達の隣でもいいですか?」と断りを入れて、あれよあれよと私たちの隣に座った。


「よう藤田。久しぶりだな。」


そう言って千紗に声をかけたのは、千紗と高校が同じだったという山岡くんだ。


「ほんとね。ていうか山岡が黒髪ってうけるんだけど。」


ケラケラと笑った千紗は綺麗に整えられた山岡くんの髪をくしゃくしゃにする。


「はっ!おい!やめろよ!」


そんな千紗の手を山岡くんは焦ったように掴む。


何というか…


この2人お似合いだとおもうんだけどなあ。


前にそれを伝えると、千紗は「山岡は友達だからさー。」と寂しそうな顔で笑った。


そんな彼女に違和感を覚えたものの、友達かーと納得したのを覚えている。


「花ちゃん、何食べてるの?」


と、突然横から陽介くんが私のお皿を覗き込んできた。


うわっ!びっくりした。陽介くんは人との距離が近いんだよなー。


どぎまぎしながら少し距離を取り、「ハンバーグだよ。」と笑顔で答える。


「わー!美味しそうだね!!」


キラキラとした瞳で私を見る陽介くん。


そんな彼に新しいお箸を差し出して「食べる?」とお皿を近づける。


「うん!」


大きく頷いた陽介くんは差し出したお箸には目もくれずに口を大きく開けて待っている。


…食べさせろと?


それはさながらエサをいい子にして待っている大型犬のようで。


私は自然と陽介くんの口にハンバーグを入れていた。


「んんー!美味しい!」


そう言ってにっこり笑った陽介くんにはっとする。


これはよかったのか?いや、よくないよね。陽介くん、彼女がいるのに。


ひやひやしながら下を向くと、前から「ちっ」と舌打ちが聞こえてきた。


はい、そうですよねー。


それは山岡くんの隣に座った嶺二くんだった。苗字は知らない。ちなみに山岡くんの名前も知らない。


陽介くんがいつも一緒にいる人の中で、1番苦手な人だ。


陽介くんの周りはただでさえ華やかで美形の人が多いから苦手なのに、嶺二くんは分かりやすく私にすごく冷たい。


特に、陽介くんと私の距離が近い時に。


マネキンのように整っている顔と均一な体の、実際に確かモデルもしたことあるって聞いたことがあるけど、私が見たことのある人の中で1番美しい人だ。


「おい花。陽介にはな、マリがいるんだよ。分かっててやってんのか?お?」


バリトンのいい声でそうなじられる。


あああ迫力があるよー。つらいー。


「ご、ごめんなさい。」


そうだよね、マリちゃんがいるのに軽率だった。


うつむきながらジリジリ陽介くんから距離を取っていると、スパコーンっ!といい音が前から聞こえてきた。


思わず顔をあげると、何かの紙の束を丸めた山岡くんと、頭を押さえている嶺二くんがいた。


「おい、今のはどう見ても陽介が悪いだろ。花ちゃんに謝れ。」


いい音は紙の束で嶺二くんの頭を叩いた音らしい。


ドスの効いた声でそう言う山岡くんを見て、嶺二くんはものすごく不満そうに「ごめんなさい」と小声で言った。


「ううん、私も軽率だったから。」


嶺二くんが私にきついことを言うたびに、誰かしら周りの人がたしなめてくれる。


「あっは!だよな!やっぱ花が悪いわ!」


でも嶺二くんはすぐにまた私をいじる。


そんな彼に思わず苦笑してしまう。


でも、嶺二くんが悪い人じゃないのは知っている。いつも名前で呼んでくれるし、陽介くんから誕生日を聞いたと言って、小顔ローラーをくれたこともある。


実は優しい人なんだろうと思う。


「嶺二、花ちゃんに意地悪なこと言うのやめてって言ってるじゃん。俺のわがままに花ちゃんは付き合ってくれてるだけだよ。」


いつになく真剣にそう言った陽介くんに、私たちはえ?と顔を見合わせる。


いつも陽介くんは嶺二くんの小言の時、一言、でもきっちりと「俺が悪いから、やめて。」としか言わないのに。


今日はなんだか怒っているように聞こえる。


…重い。空気が重いなあ。


オロオロとしていると、


「お客様、ご注文はお決まりですか?」


楠田くんの落ち着いた声が聞こえてきた。


あああナイスタイミングだよ楠田くん!


私はこっそりと息を吐き出した。


「花!食べ終わったよね!私たち、そろそろ行こうか!」


彼らが注文している間に千紗がそう言った。


「うん、そうだね。」


なんだかよく分からないメンバーで時間を過ごすことは少しだけ気が重いから。


私たちは楠田くんがメニューを取り終わったところで声をかける。


「私たち、そろそろ行くね!ごちそうさま!」


そう言って財布を出そうとすると、その手を止められた。


「え?」


不思議に思って楠田くんを見ると、彼は私たちにだけ聞こえるように


「久しぶりに来てくれたから、僕のおごりで。」


メガネを押さえながらそう言った。


「いやいやいや!悪いよ!」


私と千紗はぶんぶんと首を振る。


「じゃあ、文化祭の屋台、ごちそうして?」


ええ!たこ焼き!比べ物にならない!


私は相変わらずオロオロしてしまう。でも、千紗は


「えー!それでいいの?じゃあ好きなだけ頼んでよー?」


素直にお財布を引っ込めた。


そして、楠田くんと千紗からじーっと見つめられ、私も静かに財布を戻した。


「…じゃあ、ごちそうさま。楠田くんのハンバーグ、とっても美味しかったよ。」


そう言って笑うと、楠田くんは「ん。」と柔らかに笑った。


「じゃあ陽介くんたち、お先に失礼します。」


と私たちは彼らに手を振った。けど、反対の手を陽介くんに取られた。


「?」


びっくりして陽介くんを見ると、


「花ちゃん…」


そこには寂しそうな顔をした陽介くんがいた。


「?どうしたの?」


そう聞くと、彼ははっとした表情になり、


「今日の晩ご飯は何?」


ごまかすように笑った。


…どうしたんだろう。なんだか今日の陽介くんは少し変だ。


「唐揚げにしようかなって。」


私たちが住むシェアハウス夏目荘は、みんなが集まると分かる日以外は個人で食事を作って食べる。でも、時間的な問題で、私たち学生か、ずっと夏目荘にいる作家の砂本さんが料理を作り置きしておく。


そうすると、仕事で遅く帰ってくる他の人たちも、すぐにご飯を食べることができる。


「やった。じゃあ、今晩は山岡と嶺二も夏目荘行くから。一緒にご飯食べよう?」


首をかしげながらそんなことをいう陽介くん。


「は?」
「お?」


そして、そんなこと聞いてなかったとでも言うように反応する2人。


夏目荘では、友人などは2週間に一度遊びに来てもいいことになっている。ただし、恋人は泊まることはできない。


「え?」


私も驚きで固まってしまう。


「そうだなー、19時には戻るから!みんなで食べよう!あ、それとも手伝った方がいいよね!」


まだ頼んだ料理も来てないのに、立ち上がろうとする陽介くんを慌てて席に戻す。


「わ、分かった。19時ね!それまでにご飯作っておくから、陽介くんたちはゆっくり来て!」


にっこりと笑ってそう言うと、


「やったー!」


と無邪気に笑う陽介くん。


「あ、うん。ありがとう。今日なんか出費がすげーな。」


戸惑いながらも頷く柔軟性抜群の山岡くん。(ちなみに夏目荘で住人以外がご飯を食べると300円払う必要があります。)


「まずいもん作ったら花に向かって吐くからな。」


相変わらず口の悪い嶺二くん。


なんだろう、本当に。


普段だったらこんな突拍子もないこと言わないと思うんだけど。


首をかしげながら再度手を振って私と千紗はやっとお店を後にした。


晩ご飯食べにくるのかー。と言うことは泊まるよね。


私が想いを寄せている陽介くんに、私のことが嫌いな嶺二くん。そして正直よく知らない山岡くん。


あの3人と食卓を囲むのか…いや、砂本さんがいるかも!


いつも優しいお兄さんのような砂本さんを思い浮かべるけど…


やっぱ不安!


「ねえ千紗…?」


願いを込めて千紗を見ると、


「ごめん、嫌だわ。」


即答で拒否された。


「ていうか、私は正直あんな甘ったるいわんちゃん(陽介くん)より、楠田くんの方が絶対いいと思うのに。」


頭良くて、理性的で、優しい!


1人でうんうんと頷く千紗に私は苦笑いで返す。


「でもどうこうなる訳じゃないから。」


ただ気持ちで好きだなあって思うだけ。


そう言うと、千紗は私に思いっきり肩パンチをした。





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