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ぽっちゃり女子×犬系男子24
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「はなちゃーん!」
最初はただただ人懐っこい性格なのだと思っていた。
「今日は何食べるの?」
「授業は何時まで?」
学部も授業場所もほとんどかぶらない彼だけど…
「最近ほんっとよく会うね!陽介くんたち。」
最近驚くほど会うようになった。
中庭でお昼ご飯を食べながら、私はそう言った。
一人暮らしよりなんとなく安心感があるということで、シェアハウスの生活を始めた花。
聞いた感じシェアハウスというより下宿のような印象を受けるけど、とても楽しそうで何よりだ。
そして花が楽しそうな大きな要因の1つは、陽介くんだろう。
「ほんとだねー。なんか毎回声かけてもらって申し訳ないな。」
嬉しそうに、でも困ったように笑う花に、何とも言えない気持ちがこみ上げてくる。
「あ、花ちゃんだ!」
…またかい。
昨日も会ったのに。
と心の中で呟き、嬉しそうに笑う陽介くんの顔をまじまじと見つめる。
…本当に嬉しそうね。
聞くと、陽介くんは夏目荘でもよく花に話しかけているらしい。
同い年、同じ大学という接点はあるが、そんなに仲良くなろうとするものだろうか?
しかもこの前はお弁当を作ってあげたと言っていた。
大きな瞳を優しげに細めて花を見つめる陽介くんはまさに…
「…恋する乙女。」
そう呟いて妙に納得した。
「…やっぱそうだよな。」
陽介くんに会うと、9割の確率でついてくる山岡がいつの間にか私の側に来ていた。
「うわー、びっくりした!」
高校が一緒だった山岡は、大学に入ってからはたっまーにしか会わなかったのに、花が夏目荘に引っ越してから、陽介くんと同様、頻繁に会うようになった。
「いや、俺もずっとそう思ってきたんだけどさ、ただあの2人を見てると、仲良しの子犬が再会を喜んでるようにしか見えなくて…恋愛感情があるのか最近疑問。」
艶っぽくないというか何というか…
首を傾げながら2人を見つめる山岡につられ、私ももう一度彼らを見る。
柔らかい雰囲気を持つ2人が並んで和やかに笑っている様子に癒され、思わず笑みが浮かぶ。
2人とも一緒にいるのが嬉しそう。
「まあ、確かにね。」
犬に例えるとシーズーとゴールデンレトリバーかしら?
そう言うと山岡は思いっきり吹き出した。
*
「陽介くん、マリちゃんっていう子と付き合い始めたんだって。」
花がそんなことを言ったのは犬の話をしてから2か月後ぐらいだっただろうか。
思わず花を見つめてしまう。
少し口角を上げて話す彼女はいつも通りだ。
喜怒哀楽
大学からの付き合いだが、私は花の、喜と楽しか知らない。
かなしそう?と思う時はあるけれど、怒の感情を読み取るのは不可能に近い。
今回もそうだ。
花はとても分かりにくい。
人当たりが柔らかく、人の悪口は決して言わない優しい花。
穏やかで、感情の起伏が少ない。
そこが一緒にいてとても居心地がいい。
でも、一歩を踏み込ませない壁を感じる。
まるで全てを受け入れてくれそうな雰囲気を持った花は逆に、全てを諦めてしまったような哀愁も感じる。
…この若さで。
でもそれじゃああまりにも寂しすぎる。
大好きな友達にはずっと幸せでいてほしいのだ。
だから私は踏み込みたい。
その壁の一歩向こう側へ。
「花、今どんな気持ち?」
きょとんと目を丸めた花を見て、大きく息を吸い込む。
「陽介くんのこと、特別に思ってるんじゃないかなあと思って。」
人と関係を深めようとする時、とても怖い。
なぜなら相手の心の扉を1つずつ開けてもらわないといけないから。
そして、こちらがいくら親しくなりたいと思っても、相手がそう思ってくれなければその扉は閉まったままだ。
大好きだと思っている相手が心の扉を開けてくれないなら、しばらくは立ち直れない。
恐る恐る花の方を見ると、花は困ったように、寂しそうに笑った。
「…うん、そうだね。好きなんだと思う。」
でも、いいの、私は。
そう言った花の暗い声が、今も耳に残っている。
それからは陽介くんへの気持ちも話してくれるようになって、他にも以前より色んな話ができるようになって…
そして花は想像以上に乙女チックだった。
いつか誰かの特別になりたい。と口ぐせのように言っていた。
そして楠田くんが花に告白して…
花も少し嬉しそうで。
2人が上手くいったらきっと幸せになれるだろうと思った。
でも…
「「楠田くん、花に告白したの。」」
花には悪いけど、試しにそう伝えた時、確かに感じた陽介くんの嫉妬と私に対する苛立ち。
「「陽介くん、マリちゃんと別れたんだって。」」
そしてさっき花から聞いた言葉。
陽介くんは花のことが好きなんだろう。から、やっぱり陽介くんは絶対花のことが好きだと確信した。
*
「ふう…」
お風呂上がりにソファに座ってお水を一気に飲む。
「「きっと楠田くんはお姫様みたいに花を大切にしてくれるよ。花も楠田くんの好意嫌じゃないんでしょ?」」
さっきまで電話していた千紗の言葉が頭の中で繰り返される。
嫌じゃない。嬉しい。
でも付き合うというのは想像できない。
想像しようとする度に陽介くんの笑顔が頭に浮かぶのだ。
…私はもう夢見るような歳ではない。
運命の人はいない。
生活する中で誰かと出会って、自分からつかみとって、そしてお互いに思いやりを持って関係を続けるために努力するのだ。
相手が大切だから。
でも私がそうしても、相手が私にそうしてくれるほど私が価値のある人間だとは思わない。
…分からない。
ぐちゃぐちゃになった頭を整理するように、私は思いっきり頭を振った。
*
楠田くんとのデートから、しばらくたった。
楠田くんとは週に2回ほど電話をしている。
毎回そんなに長くないけれど、楠田くんとの穏やかな時間は私の心を和ませてくれる。
陽介くんとは相変わらずだ。
一緒にご飯を作ったり、テレビを観たり、夏目荘のみなさんとご飯に行ったり…
ただ、前のように突然私の部屋に入ってくることはなくなった。
恥ずかしい場面を見られることが多かったからほっとしているけど、何となく寂しいと感じてしまう。
「陽介、今年の誕生日は何がしたい?」
みなさんで晩御飯を食べていると、夏目さんがおもむろに口を開いた。
…そうだ。
もうすぐ陽介くんの誕生日だ。
11月11日
「ポッキーの日だよ。覚えやすいでしょー?」
そう言って陽介くんはけらけらと笑っていた。
去年は確か、みなさんでちょっと高級なお寿司屋さんに行ったっけ。
ぼんやりと思い出していると、
「わーい!祝ってくれるの嬉しいなあ!」
陽介くんは目をキラキラさせながら言った。
「私、ちょうど11日空いてるわよ。」
梨奈さんはスマホをチェックしてそう言った。
「僕も空いてるよ。」
「私もだねえ。」
みなさんどうやら空いているようだ。
もちろん私も空いている。
私も同意するようにうんうんと頷くと、陽介くんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「嬉しいです。でもごめんなさい。誕生日はちょっと予定が入ってて…」
照れたように笑う陽介くんに何だか胸がざわついた。
…女の子だろうか。
何となくそんな気がした。
そうだね。マリちゃんと別れてもうすぐ1ヶ月たつ。
陽介くんはモテるし、それに、陽介くんに好きな人ができたのかもしれない。
「え、何今の笑顔。」
「若いっていいよねー。」
同じく何かを感じ取った梨奈さん達が次々にからかうように言葉を投げる。
その後の会話は全然頭に入らなくて、「じゃあ夏目荘のお誕生会はその次の週にしよう。」と言った夏目さんの声が、どこか遠くに聞こえた。
「花ちゃん!隣いい?」
ご飯を食べ終わってぼんやりとテレビを観ていると、陽介くんが笑顔でやってきた。
「うん、もちろん。」
陽介くんが側にいることで、さっきの会話がよみがえってくる。
誰と何の予定があるのだろう…
でもそんなこと聞くことはできないし、他の話題を考えていると、去年プレゼントしたお菓子の詰め合わせを思い出した。
去年のこの時期も陽介くんには彼女さんがいたし、形に残らないものがいいと思ったのだ。
でも今年は…
「陽介くんは誕生日プレゼント、欲しいものあるー?」
もう少しいいものをプレゼントしたい。
すると陽介くんはにこにこっと笑ってなぜだか体ごと私の方をむいた。
え、なんだろう。
かしこまった様子の彼にならって私も陽介くんに体ごと向けた。
陽介くんと結構な近い距離で目線が合う。
陽介くんの黒目がちな大きな瞳はいつも優しい。
そう言えば、陽介くんとちゃんと目が合うのはひさしぶりかもしれないと思った。
「あのね、花ちゃん…」
おもむろに口を開いた陽介くんの声は固かった。
「うん?」
私を見たり、視線をぱっと反らしたりを繰り返す陽介くんはなんだか様子がおかしい。
…そんなに言いにくいものが欲しいのだろうか。
それとも高いもの…?
何でも陽介くんが喜んでくれるならいいんだけどなあ。
「あのね、陽介くん、なんでも遠慮せずに言ってね?」
私のその一言で、陽介くんの視線はぴたりと私で止まった。
「本当?」
不安げに私を見つめる陽介くんに大きく頷く。
「うん!」
「…じゃあ、誕生日に花ちゃんとお出かけしたいな。」
大きく息を吸ったと思ったら小さな小さな声が聞こえた。
でも、この距離じゃ一語一句逃さずしっかり聞こえる。
「…え?」
思わぬお誘いに頭が真っ白になる。
「うん。」
恥ずかしそうにはにかむ陽介くんは素敵すぎて普段だったら鼻血ものだけど、今はそれどころじゃない。
…どうして?
「でも陽介くん…誕生日は用事があるって…」
首を傾げながらそう聞くと、陽介くんは気まずそうに顔を反らした。
「…花ちゃんと、出かけたいと思ってたから…。」
これまた小さな声でそう言う陽介くんに私はさらに首を傾げる。
「陽介くん、この日は年に一度の誕生日だよ?え、私?」
「うん、花ちゃんと出かけたい!」
ちょっと食い気味に返事をした陽介くんに驚きながらも、それに押されて頷く。
「…私でよければ、ぜひ。」
「…本当に!?本当に本当?ありがとう!」
ぶつかるんじゃないかという勢いで私の方に体を寄せた陽介くんは嬉しそうにそう言うと、「じゃあまた詳細は今度伝えるね!」とリビングから出ていった。
陽介くんが消えて行ったリビングのドアをぼんやりと眺めながらさっきの会話を思い出す。
…え、陽介くんからお出かけに誘われた?
なんで?
え、陽介くんの誕生日に?私と?
「あ!」
そして1つの可能性を思い付く。
多分私だけじゃないんだ。この前みたいに山岡くんとかがいるんだろう。
なるほどなるほど。
でもさっきの陽介くんの様子を見ると意中の子でも誘うのだろうか。
それで、私も誘われたんだ。
2人より複数の方が緊張しにくいだろうしね。
…なんだ、そっか。
一瞬舞い上がった気持ちはすぐにしぼむ。そして残念だという気持ちと同じくらい、私はほっとした。
最初はただただ人懐っこい性格なのだと思っていた。
「今日は何食べるの?」
「授業は何時まで?」
学部も授業場所もほとんどかぶらない彼だけど…
「最近ほんっとよく会うね!陽介くんたち。」
最近驚くほど会うようになった。
中庭でお昼ご飯を食べながら、私はそう言った。
一人暮らしよりなんとなく安心感があるということで、シェアハウスの生活を始めた花。
聞いた感じシェアハウスというより下宿のような印象を受けるけど、とても楽しそうで何よりだ。
そして花が楽しそうな大きな要因の1つは、陽介くんだろう。
「ほんとだねー。なんか毎回声かけてもらって申し訳ないな。」
嬉しそうに、でも困ったように笑う花に、何とも言えない気持ちがこみ上げてくる。
「あ、花ちゃんだ!」
…またかい。
昨日も会ったのに。
と心の中で呟き、嬉しそうに笑う陽介くんの顔をまじまじと見つめる。
…本当に嬉しそうね。
聞くと、陽介くんは夏目荘でもよく花に話しかけているらしい。
同い年、同じ大学という接点はあるが、そんなに仲良くなろうとするものだろうか?
しかもこの前はお弁当を作ってあげたと言っていた。
大きな瞳を優しげに細めて花を見つめる陽介くんはまさに…
「…恋する乙女。」
そう呟いて妙に納得した。
「…やっぱそうだよな。」
陽介くんに会うと、9割の確率でついてくる山岡がいつの間にか私の側に来ていた。
「うわー、びっくりした!」
高校が一緒だった山岡は、大学に入ってからはたっまーにしか会わなかったのに、花が夏目荘に引っ越してから、陽介くんと同様、頻繁に会うようになった。
「いや、俺もずっとそう思ってきたんだけどさ、ただあの2人を見てると、仲良しの子犬が再会を喜んでるようにしか見えなくて…恋愛感情があるのか最近疑問。」
艶っぽくないというか何というか…
首を傾げながら2人を見つめる山岡につられ、私ももう一度彼らを見る。
柔らかい雰囲気を持つ2人が並んで和やかに笑っている様子に癒され、思わず笑みが浮かぶ。
2人とも一緒にいるのが嬉しそう。
「まあ、確かにね。」
犬に例えるとシーズーとゴールデンレトリバーかしら?
そう言うと山岡は思いっきり吹き出した。
*
「陽介くん、マリちゃんっていう子と付き合い始めたんだって。」
花がそんなことを言ったのは犬の話をしてから2か月後ぐらいだっただろうか。
思わず花を見つめてしまう。
少し口角を上げて話す彼女はいつも通りだ。
喜怒哀楽
大学からの付き合いだが、私は花の、喜と楽しか知らない。
かなしそう?と思う時はあるけれど、怒の感情を読み取るのは不可能に近い。
今回もそうだ。
花はとても分かりにくい。
人当たりが柔らかく、人の悪口は決して言わない優しい花。
穏やかで、感情の起伏が少ない。
そこが一緒にいてとても居心地がいい。
でも、一歩を踏み込ませない壁を感じる。
まるで全てを受け入れてくれそうな雰囲気を持った花は逆に、全てを諦めてしまったような哀愁も感じる。
…この若さで。
でもそれじゃああまりにも寂しすぎる。
大好きな友達にはずっと幸せでいてほしいのだ。
だから私は踏み込みたい。
その壁の一歩向こう側へ。
「花、今どんな気持ち?」
きょとんと目を丸めた花を見て、大きく息を吸い込む。
「陽介くんのこと、特別に思ってるんじゃないかなあと思って。」
人と関係を深めようとする時、とても怖い。
なぜなら相手の心の扉を1つずつ開けてもらわないといけないから。
そして、こちらがいくら親しくなりたいと思っても、相手がそう思ってくれなければその扉は閉まったままだ。
大好きだと思っている相手が心の扉を開けてくれないなら、しばらくは立ち直れない。
恐る恐る花の方を見ると、花は困ったように、寂しそうに笑った。
「…うん、そうだね。好きなんだと思う。」
でも、いいの、私は。
そう言った花の暗い声が、今も耳に残っている。
それからは陽介くんへの気持ちも話してくれるようになって、他にも以前より色んな話ができるようになって…
そして花は想像以上に乙女チックだった。
いつか誰かの特別になりたい。と口ぐせのように言っていた。
そして楠田くんが花に告白して…
花も少し嬉しそうで。
2人が上手くいったらきっと幸せになれるだろうと思った。
でも…
「「楠田くん、花に告白したの。」」
花には悪いけど、試しにそう伝えた時、確かに感じた陽介くんの嫉妬と私に対する苛立ち。
「「陽介くん、マリちゃんと別れたんだって。」」
そしてさっき花から聞いた言葉。
陽介くんは花のことが好きなんだろう。から、やっぱり陽介くんは絶対花のことが好きだと確信した。
*
「ふう…」
お風呂上がりにソファに座ってお水を一気に飲む。
「「きっと楠田くんはお姫様みたいに花を大切にしてくれるよ。花も楠田くんの好意嫌じゃないんでしょ?」」
さっきまで電話していた千紗の言葉が頭の中で繰り返される。
嫌じゃない。嬉しい。
でも付き合うというのは想像できない。
想像しようとする度に陽介くんの笑顔が頭に浮かぶのだ。
…私はもう夢見るような歳ではない。
運命の人はいない。
生活する中で誰かと出会って、自分からつかみとって、そしてお互いに思いやりを持って関係を続けるために努力するのだ。
相手が大切だから。
でも私がそうしても、相手が私にそうしてくれるほど私が価値のある人間だとは思わない。
…分からない。
ぐちゃぐちゃになった頭を整理するように、私は思いっきり頭を振った。
*
楠田くんとのデートから、しばらくたった。
楠田くんとは週に2回ほど電話をしている。
毎回そんなに長くないけれど、楠田くんとの穏やかな時間は私の心を和ませてくれる。
陽介くんとは相変わらずだ。
一緒にご飯を作ったり、テレビを観たり、夏目荘のみなさんとご飯に行ったり…
ただ、前のように突然私の部屋に入ってくることはなくなった。
恥ずかしい場面を見られることが多かったからほっとしているけど、何となく寂しいと感じてしまう。
「陽介、今年の誕生日は何がしたい?」
みなさんで晩御飯を食べていると、夏目さんがおもむろに口を開いた。
…そうだ。
もうすぐ陽介くんの誕生日だ。
11月11日
「ポッキーの日だよ。覚えやすいでしょー?」
そう言って陽介くんはけらけらと笑っていた。
去年は確か、みなさんでちょっと高級なお寿司屋さんに行ったっけ。
ぼんやりと思い出していると、
「わーい!祝ってくれるの嬉しいなあ!」
陽介くんは目をキラキラさせながら言った。
「私、ちょうど11日空いてるわよ。」
梨奈さんはスマホをチェックしてそう言った。
「僕も空いてるよ。」
「私もだねえ。」
みなさんどうやら空いているようだ。
もちろん私も空いている。
私も同意するようにうんうんと頷くと、陽介くんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「嬉しいです。でもごめんなさい。誕生日はちょっと予定が入ってて…」
照れたように笑う陽介くんに何だか胸がざわついた。
…女の子だろうか。
何となくそんな気がした。
そうだね。マリちゃんと別れてもうすぐ1ヶ月たつ。
陽介くんはモテるし、それに、陽介くんに好きな人ができたのかもしれない。
「え、何今の笑顔。」
「若いっていいよねー。」
同じく何かを感じ取った梨奈さん達が次々にからかうように言葉を投げる。
その後の会話は全然頭に入らなくて、「じゃあ夏目荘のお誕生会はその次の週にしよう。」と言った夏目さんの声が、どこか遠くに聞こえた。
「花ちゃん!隣いい?」
ご飯を食べ終わってぼんやりとテレビを観ていると、陽介くんが笑顔でやってきた。
「うん、もちろん。」
陽介くんが側にいることで、さっきの会話がよみがえってくる。
誰と何の予定があるのだろう…
でもそんなこと聞くことはできないし、他の話題を考えていると、去年プレゼントしたお菓子の詰め合わせを思い出した。
去年のこの時期も陽介くんには彼女さんがいたし、形に残らないものがいいと思ったのだ。
でも今年は…
「陽介くんは誕生日プレゼント、欲しいものあるー?」
もう少しいいものをプレゼントしたい。
すると陽介くんはにこにこっと笑ってなぜだか体ごと私の方をむいた。
え、なんだろう。
かしこまった様子の彼にならって私も陽介くんに体ごと向けた。
陽介くんと結構な近い距離で目線が合う。
陽介くんの黒目がちな大きな瞳はいつも優しい。
そう言えば、陽介くんとちゃんと目が合うのはひさしぶりかもしれないと思った。
「あのね、花ちゃん…」
おもむろに口を開いた陽介くんの声は固かった。
「うん?」
私を見たり、視線をぱっと反らしたりを繰り返す陽介くんはなんだか様子がおかしい。
…そんなに言いにくいものが欲しいのだろうか。
それとも高いもの…?
何でも陽介くんが喜んでくれるならいいんだけどなあ。
「あのね、陽介くん、なんでも遠慮せずに言ってね?」
私のその一言で、陽介くんの視線はぴたりと私で止まった。
「本当?」
不安げに私を見つめる陽介くんに大きく頷く。
「うん!」
「…じゃあ、誕生日に花ちゃんとお出かけしたいな。」
大きく息を吸ったと思ったら小さな小さな声が聞こえた。
でも、この距離じゃ一語一句逃さずしっかり聞こえる。
「…え?」
思わぬお誘いに頭が真っ白になる。
「うん。」
恥ずかしそうにはにかむ陽介くんは素敵すぎて普段だったら鼻血ものだけど、今はそれどころじゃない。
…どうして?
「でも陽介くん…誕生日は用事があるって…」
首を傾げながらそう聞くと、陽介くんは気まずそうに顔を反らした。
「…花ちゃんと、出かけたいと思ってたから…。」
これまた小さな声でそう言う陽介くんに私はさらに首を傾げる。
「陽介くん、この日は年に一度の誕生日だよ?え、私?」
「うん、花ちゃんと出かけたい!」
ちょっと食い気味に返事をした陽介くんに驚きながらも、それに押されて頷く。
「…私でよければ、ぜひ。」
「…本当に!?本当に本当?ありがとう!」
ぶつかるんじゃないかという勢いで私の方に体を寄せた陽介くんは嬉しそうにそう言うと、「じゃあまた詳細は今度伝えるね!」とリビングから出ていった。
陽介くんが消えて行ったリビングのドアをぼんやりと眺めながらさっきの会話を思い出す。
…え、陽介くんからお出かけに誘われた?
なんで?
え、陽介くんの誕生日に?私と?
「あ!」
そして1つの可能性を思い付く。
多分私だけじゃないんだ。この前みたいに山岡くんとかがいるんだろう。
なるほどなるほど。
でもさっきの陽介くんの様子を見ると意中の子でも誘うのだろうか。
それで、私も誘われたんだ。
2人より複数の方が緊張しにくいだろうしね。
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