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凌辱の宴 六
しおりを挟む室の外で待ちかまえていた宦官たちは、来たときと同じように前後して四人でアベルとハルムをはさむようにして、廊下を歩く。
(もう少し、もう少しだ……)
アベルは壁の飾り模様から、必死に記憶をさぐった。角のところに薔薇の浮き彫り模様が見える。あそこで曲がれば、ドミンゴの待つ部屋に行けるはずだ。
まさにその模様のところを一行がさしかかった瞬間、アベルは走り出していた。
「伯爵!」
咄嗟のことで、ハルムも宦官たちも出遅れた。
「とらえろ! 逃がすでないぞ!」
命じられた宦官たちがアベルを追ってくる。アベルは全力で走るや、目当ての室にたどりついた。
「開けろ! ドミンゴ、開けてくれ!」
ドアを割らんがばかりに打ちたたくと、なかから驚いた顔でドミンゴが顔を出した。
「いったい、どうしたというのです?」
と言った瞬間、ドミンゴは口をぽかんとあけてアベルを見ている。無理もない。裸も同然の女ものの衣に、化粧までしているのだ。彼の視線にアベルは羞恥のあまり消え入りたくなったが、今はそれどころではない。
「私の剣を出せ! 逃げるぞ!」
「い、いったい、どうしたというのですか? その恰好は?」
「奴ら、私に王女の代理をしろというのだ」
「え? それは、まさか……?」
さすがにドミンゴの顔色が変わった。
「そうだ。王の相手をしろというのだ。そんなことが出来るか! すぐこの城を逃げるぞ」
「で、ですが……」
ドミンゴの青い目は不思議なものでも見るように、化粧をほどこした主の白い顔を見ている。
「なんだ」
「だからといって逃げてしまえば、アベル様は女王陛下のご命令を果たせなかったということになります。そ、それに、我が帝国とグラリオンの関係が悪化してしまいます」
たしかにそれはそうだが、まさか忠実な従者から、この状況で言われるとは予想していなかった。アベルは一瞬、困惑してしまう。
「だ、だが、それならお前は……、私に王の伽をしろというのか? この私に? 女のように身体を差しだせというのか?」
「……ですが、女王陛下のご命令はご命令です」
ドミンゴは悲しげな目でアベルを見る。アベルのことは大事だが、女王の命令に逆らうことはできないのだろう。
「第一、このまま逃げてしまえば、祖国で陛下のご叱責を買うのはアベル様です。それでなくとも、アルベニス伯爵家は先代のこしらえた借金で破産寸前だというのに、このうえ女王陛下のお怒りを買ってしまえば……」
アベルは答えに詰まってしまった。
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