サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織

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通過儀式 一

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「うっ!」
 
 思わず呻いたのはダリクだった。サイラスがダリクの顔めがけて唾棄したのだ。かっとなったダリクは平手でサイラスの頬をぶってしまう。

「くっ!」
 
 短い苦痛の声をあげるサイラスをダリクは睨みつけていた。サイラスは瞳に命をこめるようにして睨みかえしてくる。
 二人の戦いの日々が始まった。

「ここ数日でしっかり路をつけたのだから、今日は本格的に男を知ってもらうことになるわよ、サイラス」
 
 艶然と笑うマーメイをサイラスは憎悪のこもった目で睨みかえしたが、その顔は蒼白である。わずか数日でいっそうやつれたようだが、その様がまるで雨に打たれた薔薇のようでかえって色香が増してみえる。

 サイラスは先日とおなじように卓のうえに全裸で縛りつけられていた。
 室にはマーメイとダリクの他にディリオス、リリ、そしてサーリィーと呼ばれる肌のくすんだ娘がいた。娼婦にしてはひどく陰気な雰囲気だ。

「ダリク、準備はいい?」

 言われてさすがにダリクはばつが悪い。旅のあいだに娼婦を買ったことは幾度かあるし、男娼も一度だけ相手にしたことはある。だが、半陰陽を抱くのは初めてだ。しかもこうして人前でするのはひどく面映おもはゆい。顔に想いが出ていたのだろう。

「嫌なら他の男を呼んでくるけれど」

「いや、やる。やらせてくれ」

 ダリクはとことん悪党になる決意をした。みずから腰紐をほどくと、己自身を扱いた。
 サイラスは無言のまま青ざめた顔でダリクを睨みつけている。
 それは残酷な儀式だった。

「サーリィー、香油を持ってきてちょうだい。なにをぐずぐずしているの? 口はきけなくとも、耳はちゃんと聞こえているでしょう?」
 
 どうやらサーリィーは喋れないらしい。彼女が持ってきた香油の瓶を受けとったマーメイは、それを指にからませ、サイラスに近づく。

「い、嫌だ! よせ、やめろ!」

 どれほど叫ぼうとも、四肢はしっかりと卓に縛りつけられ、大開きにされた箇所に、マーメイがゆっくりと蜜のような油を塗りこんでいく。

「怖がることはないわ。ここはね、『悦楽の園』なのよ。客は勿論、娼婦も男娼もここでは悦びを得るのよ。苦しい想いはさせないわ」

「こ、これほど私を苦しめておいて、何を言う!」

 サイラスの怒鳴り声にマーメイはかるく眉をひそめた。

「あら、嘘ばっかり。苦しんでいるなんて、とんでもない。ほら、ここはこんなに喜んで……」

「あっ! ああ! やめろ、やめて」
 サイラスの口調はか弱げなものになる。
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