紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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ヒポクラテスの欺瞞 二

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 第一「患者に害と知る治療法を決して選択しない」というヒポクラテスの誓いなど、今の医学界ではまったく意味のないものになり果ててしまっている。
 だが、やはり……。
 エウリュアレは思わずにいられない。
(当人の意思を無視して性を変えるなんて……残酷だわ)
 この豪華客船並みの船では、先端の医療器具と薬品がそろっており、ドクターをはじめ、優秀な医師が現在五人乗り合わせている。
 だが、彼らが行うのは祖国の普通の医療機関では、おもてむき許可されない手術である。
 医師だけではなくアシスタントとして働くエウリュアレはじめ使用人たちもみな理由があって祖国にいられなくなった、いわばお尋ね者たちなのだ。
 彼らは闇の世界で生きることを選んだ者たちなのだ。正確に言うと、それしか生きる道がない者たちなのだ。
 ドクター・ルフは数年前までは優秀な医師として大学病院で働いていたが、たまたま携わった手術が現政権の認可を受けなかったもので、譴責された。最初はただ勧告処分だったのだが、警察に呼ばれたときに調べられ、曾祖母が敵性民族であることが発覚し――ルフ自身、それまでまったく知らなかった――、医師免許を剥奪されてしまった。
 職も居場所も失った彼は、この闇のシンジケートが所有する海上病院兼ホテルで働くしか道がなかった。
 警察署の廊下で声をかけてきた男の勧誘をことわれば、その場で収容所送りになるのだ。彼らは、ルフが承諾してくれるなら、ルフの唯一の身寄りである母は、今後もそのまま自宅アパルトマンで平和に生活できることを保障してくれた。
 ルフは母には政府の仕事で海外で働くことになったと伝えて、この仕事をすることになったのだ。
「まぁ、ここでなら好きな研究を続けていいというし、居心地も悪くないしな」
 病院となる地下一階は暗く貧乏くさいが、一階、二階はホテルとなっているので、壁紙は明るく、廊下には赤絨毯が敷きつめられ、装飾は豪華である。
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