紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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悪党たちの城 二

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 人を操る面白さに恍惚となったピロテスの顔が思い浮かぶ。
「なぁ、俺もその調教に協力させてくれよ」
 ヴルブナの茶色の目からは欲がしたたり落ちそうだ。
「それはもう少し待っていただけませんか。さすがに部下だったあなたに今の姿を見られたら、アレクサンダーは屈辱のあまり狂うか自殺してしまうかもしれません」
「ちっ、残念だな」
 心底惜しそうな顔をして、未練がましく言う。
「それなら、少し覗かせてくれないか?」
 この館には窃視趣味のある客のために、覗き見できる部屋もある。すでにヴルブナは何回か館の娼婦と客の情交を見ている。彼が特にこのんだのは女性同士の交わりだ。
 どうしたものかと数秒考えて、マヌエルは口を開いた。
「それなら面白い趣向がありますよ」

「シャルロット? あれを使うのかぇ?」
 ピロテスは少し考えるような表情になった。
 アレクサンダーとおなじときにこの館につれてこられた者たちはそれぞれ調教を受けているが、シャルロットの調教はかなり手こずっていることを、彼女の調教担当者から聞いていた。
 他の者は、抗いはするものの、なかば諦めの境地で自分の立場を受け入れつつあるが、シャルロットは頑として聞き入れようとしない。目をはなすと自殺しようとするので、気が抜けなとも聞いた。
「見た目はおとなしそうな娘なのに、ひどく気位が高くて、そんな真似をするぐらいなら舌を噛み切るというんですよ。いっそ殴ってやろうかとすら思うんですが、商売ものですから、身体を傷つけるわけにはいかないし……、なによりあの玉の肌を傷つけるのも勿体ないですしね」
 シャルロットを受け持った調教師のアレシアを呼ぶと、苦々しい顔で説明した。
 黒革のぴっちりとした特殊なドレスに身を包んだアレシアの声は低い男のものである。腰のベルトにはしなやかな鞭が備えつけてある。鞭はアレシアにとってはアクセサリーであり、ときに武器でもあれば、奴隷を指導するための文字どおりの教鞭でもあり、奴隷が言うことをきかないときは、こらしめるための拷問具でもある。
 だがそのアレシアも、どういうわけかシャルロットには鞭を使わない。
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