紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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暴風 六

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「ちょっと待ってろ」
 卓の上にある水差しからグラスに水を入れると、グラスを片手にアレクサンダーに近づいた。そして、クルーゲ自身がグラスに口づけた。
 クルーゲのしようとしていることがわかり、ヴルブナはまた胸を焦がした。
「ん……」
 脱力しているようなアレクサンダーを抱え起こし、クルーゲは口うつしで水を飲ませる。
 アレクサンダーは、よっぽど疲れていたのか、喉がかわいていたのか、驚いたことにクルーゲのすることにさからわない。ヴルブナはやきもきしてしまう。
 一口、二口、三口。アレクサンダーの方からもとめるように唇をひらく。クルーゲはそれに応えた。
 やがて渇きがいやされたのか、求めることをしなくなったアレクサンダーの目にかすかに意志の光がもどってきた。
「可愛い……」
 クルーゲが実感をこめて呟き、アレクサンダーの上半身を抱きしめる。
「本当に、可愛い。こんなにあんたが可愛いなんて……。学生時代は想像もできなかった。あんたはあの学院では絶対権力者だった。下級生もあんたの同級生もだれもあんたに歯向かう奴はいなかった。まぁ、俺はべつだけれど」
 ふふふふふ。笑いながら、クルーゲは続ける。
「甘やかされた貴族の三男坊だった俺は、はじめて誰かに罰せられ、鞭で打たれるということを経験したんだ。俺の両親は、兄たちには貴族の子弟としての躾に厳しかったが、歳がはなれて生まれた俺には甘かった……というか、無関心だったんだな。お互い好き勝手なことをしていたし。召使の噂じゃ、俺は親父の子じゃないかもしれないと言われていてね」
 亡羊としていたアレクサンダーの目に少しずつ知性がもどってきている。
「俺は子どものころから癇癪持ちで我慢知らずだった。うるさいことを言う家庭教師はメイドとできていることを家令に告げ口して追い出し、おせっかいが過ぎる乳母は盗みの疑惑をでっちあげてやはり追い出した。誰も俺には逆らわず、兄たちも俺に無関心。大きな屋敷のなかで部屋も遠く、食事もべつべつにとっていた。家にいるときから、顔を見ない日の方がおおいぐらいだ。兄弟喧嘩もほとんどしたことがない。興味がないからな、お互いに。俺を打ったのは、あんたが初めてだったんだ……アレクサンダー=フォン=モール……」
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