波乱万丈って言葉、私のためにある?

宵森みなと

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第36話

クラウスとレイモンドを伴い、アリスティアは会場の中を歩いていた。
目指すのは、クレーント王国での父――デュパール子爵家当主サイモン、そしてマックエル伯爵家のライザルと妻イザベル、従兄弟のカイン。
さらに、マリンの妹であるアジェルダ侯爵夫人シーラと、その夫ダリオ、そしてもう一人の従兄弟モーリス。

挨拶のためでもあったが、何よりも会いたかった。
この場にいると分かっていても、顔を見なければ落ち着かない。胸の奥が自然と熱を帯び、足取りは少し速まっていた。

遠目に彼らの姿を見つけ、その場所へ向かおうとした――が、途中で別の貴族たちに呼び止められる。
「王女様、本日は……」
「おめでとうございます」
そんな言葉をアルカイックスマイルでやり過ごしながら、少しずつ距離を詰めていく。あと数歩というところで――立ちはだかる二つの影。

ナジエル公爵家三男レイジル、その父ナジエル公爵。そして隣にはカージェス侯爵家次男ハロルドとカージェス侯爵。

クラウスとレイモンドが即座に前へ出て壁となる。
しかし、ナジエル公爵が言葉を放った。
「アリスティア王女様、お誕生日おめでとうございます。……ですが残念でなりません。なぜ、そのような身分も低く年も離れた者を王配に迎えようとされるのか。私には理解できません。我が息子は、婚約を解消してまで王女と共に歩もうとしたのですよ?」

続けてカージェス侯爵も、わずかに声を荒げた。
「そうです。年の近い息子のほうが、王女には相応しいはず。なぜ遊びの女がいただけで候補から外されたのか……今も納得がいきません」

後ろでレイジルとハロルドは、口元を歪めてニヤついている。
アリスティアは二人に軽く触れ、静かに前へ出た。

アルカイックスマイルを浮かべたまま、澄んだ声で言う。
「ナジエル公爵様、カージェス侯爵様。このたびはお祝いにお越しいただき感謝いたします。ですが――王家が決めたことに異を唱えるお言葉、聞き捨てなりませんわ。……まさか、王家に反逆の意志があってのことかしら?」

二人の顔色が一瞬で変わる。
「そ、そんなつもりはありません。ただ、理由を知りたいだけです」ナジエル公爵が慌てて言い、
「ええ……反逆の意図などありません。我が息子は自慢の子です。その息子が外された理由を知りたいのです」カージェス侯爵も同調する。

引く気配がない――ならば、はっきりと言うしかない。

「そうでしたの。理由は簡単ですわ。お二人は、わたくしの求める王配ではないと判断しただけのこと。国を治める重責を共に担い、背中を預けられる方でなければ、苦難は乗り越えられません。ですが……あなた方の息子さんは、目先のことしか見ていない。幼い頃からの婚約者を大切にできない方が、私と上手くやれるとお思いで?」

声は静かだが、言葉の刃は鋭かった。

「侍女に都合の良いことを言って側に置き、不要になれば捨てる――そんな人物を、どう信頼しろと? しかも、城内でまるで自分こそ王配だと振る舞うその傲慢さ。観察していて……正直、吐き気がいたしましたわ」

場の空気が張り詰める。
「元老院の推薦ゆえに、しぶしぶお会いしましたが……やはり不満をお持ちだったのですね。分かりました。今後、王家主催の夜会や催しには出席なさらなくて結構です」

その言葉が会場全体に重く響き、沈黙が落ちた。
アリスティアは表情一つ変えず、もとの目的――サイモンたちの元へ歩を進める。

だが、背後でレイジルが怒気を含んだ動きを見せた。
次の瞬間、彼が後ろからアリスティアの肩を掴もうと手を伸ばす――だが、その腕は逆に取られ、見事に投げ飛ばされる。

「衛兵! 不届き者を連れて行け」
凛とした声が響き、衛兵たちが即座に動いた。

騒然とする場に、アリスティアは視線を巡らせ、はっきりと言葉を放つ。
「皆に伝えておきます。私はクレーント王国で暮らしていました。ここで王女として生きると決めたのは、ただ責務のためです。もし私がいなくなれば、この国は再び荒れるでしょう。それを避けるため、祖国に大切な人を残してでも、ここに立つ覚悟を選びました」

会場の空気が変わる。
「王女という地位に未練はありません。人の欠点を責める前に、自らの責務を果たすべきです。――私は、何もできない王女ではありません。自らの足で立てる者です」

その言葉は、聞く者の心に重く落ちた。
王女が国を去ることに躊躇しない――それが意味するのは、彼女を怒らせれば国そのものが揺らぐという事実だ。
貴族たちは、王女を軽んじてはならないと改めて悟り、背筋に冷たいものが走った。

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