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第14話 変わらぬ想いと、新たな約束
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馬車の中での話し合いを終えたアリスたちは、サージェン公爵家には立ち寄らず、そのままフィニス侯爵家へと向かった。夕暮れが近づく中、柔らかな橙の陽がカーテン越しに揺れる。
フィニス家に到着すると、クラウスは重々しく頭を垂れた。長年の気心知れた間柄だからこそ、その一礼に込められた真剣さはひしひしと伝わってくる。
「アリスを、必ず幸せにします。どうか、わしの妻として迎えさせてください。――頼む」
それを聞いたロゼットは、あきれたように肩をすくめて、口元に微笑を浮かべながら言った。
「アリスはそれでいいの? せっかく若返ったんだから、もっと若くて格好いい男の子と恋愛して、結婚するっていう選択肢もあったでしょうに。こんなおじいちゃんじゃなくても」
するとアリスは、苦笑まじりに首を傾げた。
「仕方ないわ。若返っても、中身は変わらないもの。私は私……だから、やっぱりクラウス様を忘れて、他の誰かと結婚なんて、できないのよ」
その言葉に、ロゼットは少しだけ真面目な表情になって、ふと問いかけた。
「ねぇ、一つだけ聞いてもいいかしら? アリスティアの頃から……あなた、クラウスのこと、どう思っていたの?」
アリスは、少し目を伏せてから、微笑んだ。
「ふふふ……一応、夫ですもの。好きでしたよ。でも……『愛していたか?』って訊かれたら、どうかしら。そこまではなかった、のかもしれない。けれど……今の私になって、クラウス様ときちんと向き合うことができて……ようやく、自分の気持ちに気づいたの。――ああ、私、愛してるんだなって。……こんな答えじゃ、だめかしら?」
「いいんじゃない。むしろ、そういうのが、いちばん信じられる気がするわ」
ロゼットが軽く頷くと、マイエルが静かに言葉を継いだ。
「アリス。クラウス様と結婚しても……君はミレイヌと私の娘だ。毎日じゃなくていい、たまには、帰って来てほしい。母も……寂しがるだろうから」
「もちろんよ、お父様。ロゼットが寂しくて、しわが増えないように、ちょくちょく顔を出すつもりよ」
「ちょっと! 私は寂しくなんか……」
「でも私は、寂しいの。ロゼットと離れるなんて、やっぱり心細いわ。お仕事も、今まで通り手伝いたいし、帰ってくる理由なんて、いくらでもあるわよ」
小さな笑いと、あたたかな空気が家の中を包み込む。その場にいたロゼットもマイエルも、ゆるやかに頷き、娘の決意を受け入れた。
だが、シルビアとロイドの反応は、やや複雑だった。今までは、すぐそばにいたのだ。手を伸ばせば届く距離に。これからは、そうもいかなくなる。
そんな二人に向かって、アリスは少し肩をすくめながら笑った。
「ロゼットの仕事を手伝う日は、お泊まりするわ。それで……いいかしら?」
しばしの沈黙の後、二人は渋々ながらも頷いた。その目は、やはり少しだけ寂しげで――けれど、それもまた、家族としての愛情の証なのだろう。
その日のうちに、アリスはフィニス家を後にして、サージェン公爵家へと向かった。家族へ、改めて報告するためだった。
家にいたのは、セレノとレイブン、ティセリアだけだったが、再びクラウスと夫婦に戻ると聞かされたセレノは、言葉を発するより先に涙をこぼした。
「おかえりなさい……お母様……」
若返っても、母は母。どれだけ外見が変わっても、その温もりも、言葉の調子も、変わらなかった。セレノにとって、それは何よりの救いだった。
レイブンもティセリアも、アリスがまたこの家に戻ってくることを心から喜び、そして、すぐにセレノは領地にいる兄・ルヴェルトへ、また仕事から戻ってきた弟ミロワールと、その妻リナリアにも知らせを伝えた。
ミロワールも、リナリアも、瞳を潤ませながらアリスに駆け寄った。
「お義母様……お帰りなさい。本当に……本当に、嬉しいです」
「ありがとう、こんなに喜んでもらえるなんて……」
アリスは、思わず目を丸くし、その後ふわりと優しく微笑んだ。人の心がこうもあたたかく迎えてくれるとは、正直、想像していなかった。
その夜は、そのままサージェン公爵家に泊まることとなり、アリスはフィニス侯爵家へ連絡を入れてもらった。
寝室に戻ろうとしたとき、ふいにクラウスが声をかけてきた。
「……アリス。今夜は……一緒に、眠ってもらえないだろうか」
その声には、かつての威厳ではなく、どこか少年のような、不器用な懇願が混じっていた。
アリスは、ふと小さく笑って、頷いた。
「……わかりました。ご一緒します」
そうして、二人は静かに、かつての――けれど新しい夫婦の寝室へと歩を進めていった。
まるで、時を越えてようやくたどり着いた、ほんとうの夫婦としての、最初の夜のように。
フィニス家に到着すると、クラウスは重々しく頭を垂れた。長年の気心知れた間柄だからこそ、その一礼に込められた真剣さはひしひしと伝わってくる。
「アリスを、必ず幸せにします。どうか、わしの妻として迎えさせてください。――頼む」
それを聞いたロゼットは、あきれたように肩をすくめて、口元に微笑を浮かべながら言った。
「アリスはそれでいいの? せっかく若返ったんだから、もっと若くて格好いい男の子と恋愛して、結婚するっていう選択肢もあったでしょうに。こんなおじいちゃんじゃなくても」
するとアリスは、苦笑まじりに首を傾げた。
「仕方ないわ。若返っても、中身は変わらないもの。私は私……だから、やっぱりクラウス様を忘れて、他の誰かと結婚なんて、できないのよ」
その言葉に、ロゼットは少しだけ真面目な表情になって、ふと問いかけた。
「ねぇ、一つだけ聞いてもいいかしら? アリスティアの頃から……あなた、クラウスのこと、どう思っていたの?」
アリスは、少し目を伏せてから、微笑んだ。
「ふふふ……一応、夫ですもの。好きでしたよ。でも……『愛していたか?』って訊かれたら、どうかしら。そこまではなかった、のかもしれない。けれど……今の私になって、クラウス様ときちんと向き合うことができて……ようやく、自分の気持ちに気づいたの。――ああ、私、愛してるんだなって。……こんな答えじゃ、だめかしら?」
「いいんじゃない。むしろ、そういうのが、いちばん信じられる気がするわ」
ロゼットが軽く頷くと、マイエルが静かに言葉を継いだ。
「アリス。クラウス様と結婚しても……君はミレイヌと私の娘だ。毎日じゃなくていい、たまには、帰って来てほしい。母も……寂しがるだろうから」
「もちろんよ、お父様。ロゼットが寂しくて、しわが増えないように、ちょくちょく顔を出すつもりよ」
「ちょっと! 私は寂しくなんか……」
「でも私は、寂しいの。ロゼットと離れるなんて、やっぱり心細いわ。お仕事も、今まで通り手伝いたいし、帰ってくる理由なんて、いくらでもあるわよ」
小さな笑いと、あたたかな空気が家の中を包み込む。その場にいたロゼットもマイエルも、ゆるやかに頷き、娘の決意を受け入れた。
だが、シルビアとロイドの反応は、やや複雑だった。今までは、すぐそばにいたのだ。手を伸ばせば届く距離に。これからは、そうもいかなくなる。
そんな二人に向かって、アリスは少し肩をすくめながら笑った。
「ロゼットの仕事を手伝う日は、お泊まりするわ。それで……いいかしら?」
しばしの沈黙の後、二人は渋々ながらも頷いた。その目は、やはり少しだけ寂しげで――けれど、それもまた、家族としての愛情の証なのだろう。
その日のうちに、アリスはフィニス家を後にして、サージェン公爵家へと向かった。家族へ、改めて報告するためだった。
家にいたのは、セレノとレイブン、ティセリアだけだったが、再びクラウスと夫婦に戻ると聞かされたセレノは、言葉を発するより先に涙をこぼした。
「おかえりなさい……お母様……」
若返っても、母は母。どれだけ外見が変わっても、その温もりも、言葉の調子も、変わらなかった。セレノにとって、それは何よりの救いだった。
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ミロワールも、リナリアも、瞳を潤ませながらアリスに駆け寄った。
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アリスは、思わず目を丸くし、その後ふわりと優しく微笑んだ。人の心がこうもあたたかく迎えてくれるとは、正直、想像していなかった。
その夜は、そのままサージェン公爵家に泊まることとなり、アリスはフィニス侯爵家へ連絡を入れてもらった。
寝室に戻ろうとしたとき、ふいにクラウスが声をかけてきた。
「……アリス。今夜は……一緒に、眠ってもらえないだろうか」
その声には、かつての威厳ではなく、どこか少年のような、不器用な懇願が混じっていた。
アリスは、ふと小さく笑って、頷いた。
「……わかりました。ご一緒します」
そうして、二人は静かに、かつての――けれど新しい夫婦の寝室へと歩を進めていった。
まるで、時を越えてようやくたどり着いた、ほんとうの夫婦としての、最初の夜のように。
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