想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと

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第23話 ふたつの光、そして愛する人々の腕のなかに

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美咲のお腹は大きく膨らみ、もう自分の足で庭を歩くのも辛くなってきていた。けれど彼女は、日課である庭の散歩をやめなかった。むしろ、そのひとときが心を整える大切な時間になっていた。

今では、レインとジルベルトが交互に彼女をお姫様抱っこのように抱えて散歩を付き合ってくれるのが日常だった。抱かれて運ばれる恥ずかしさよりも、その腕の温もりが安心を与えてくれて、まるで愛で包まれているようだった。

「外に出たい」という欲は元からあまり強くない。だから、ずっと屋敷で過ごす生活も、美咲にとっては心地よかった。

そして、もう一つの大きな支え――それは、サンダーボルトからの手紙だった。交わした手紙はすでに百通を超えようとしていた。時に拙く、時に真っ直ぐすぎて笑ってしまうような言葉の数々。でも、どれも彼の不器用な真心がにじんでいた。

「そろそろ産み月だろうから、一度戻る」と届いた最新の手紙には、文字通りの温もりが滲んでいた。



そして、その夜――。

サンダーボルトが戻る前夜、美咲の身体が静かに、しかし確実に変化を告げてきた。下腹部に広がる重く鈍い痛み。眠っていたレインにそっと声をかけ、皆に伝えてもらった。ジルベルトはすぐさま医師を呼びに駆け出した。

ほどなくしてアイザックとレイモンドが部屋に駆けつける。

「産まれそう……」

美咲が不安げに呟くと、アイザックが彼女の手をそっと握った。

「大丈夫です。俺たちがついています」

レイモンドも優しく言葉を重ねる。

「何があっても、そばにいるから――安心して、ミサキ」

その後すぐ、医師が深夜にもかかわらず駆けつけ、診察を始めた。

「もうすぐですね。すぐに準備に入ります。旦那様方、手伝いをお願いします」

それぞれが出来ることを必死にこなしながら、美咲は繰り返す痛みの波に必死で耐えた。レイモンドが右手を、レインが左手を握りしめてくれている。その手の温かさが、どれほど心強かったことか。

額を拭われ、背中をさすられ、時に腰を押されながら、彼女は静かに、そして全身全霊で命を産もうとしていた。

痛みがピークに達するたび、叫び出したくなる。けれど、そのたびに彼女は涙を流しながらも必死に声を堪えた。

そして――。

「ひとり目、出ました!」

医師の声とともに、産声が響いた。

続いて、二人目の産声が重なる。

その瞬間、美咲の意識はふっと遠のいて、気を失うようにベッドに倒れ込んだ。

けれど、響くふたつの元気な泣き声に目をうっすらと開け、彼女は小さく呟いた。

「赤ちゃんたち……無事?」

周囲にいた全員の目が涙で濡れていた。レインとレイモンド、それぞれが抱いた赤ちゃんの髪は、レインが抱く子は赤みのある黒、レイモンドの子は透き通るような青。

「ふふ、父親は皆だって言ったけど、これは分かりやすいわね。……男の子かしら、女の子かしら?」

美咲の問いに、レインが赤ちゃんの顔をそっと見せた。

「……ミサキ、女の子だよ。俺を、父親にしてくれてありがとう」

彼の腕の中で眠る小さな命――産まれたばかりとは思えないほど整った顔立ちをしていて、美咲は優しくその額にキスをした。

「産まれてきてくれて、ありがとう」

続いて、レイモンドも涙をぬぐいながら言葉を紡いだ。

「ミサキ、僕との子も、女の子だった。ありがとう……本当にありがとう」

その言葉に、美咲はまた小さな命にキスを落とした。



その後、赤ちゃんたちは身を清められ、美咲と同じ部屋に設置されたベビーベッドにそれぞれ寝かされた。

名づけは、父である二人が考えてくれた。レインの子は「アイリ」、レイモンドの子は「クラリス」。

母の乳をたっぷり飲んだ後のふたりは、すやすやと静かに眠っていた。



夜が明け、ふとした赤ちゃんの泣き声で美咲が目を覚ますと、そばではレインとレイモンドがあやしてくれていた。そして、その傍らには――見慣れた赤い瞳。

「お帰りなさい、サンちゃん。急いで戻ってきたのね。髪、ぐちゃぐちゃだよ」

彼の髪を優しく撫でながら、くしゃっと整える。サンダーボルトは泣いていた。

「……赤ちゃんたちが女の子だったことも嬉しいけれど、何より……ミサキに会えたことが、一番嬉しい」

彼の腕が美咲の身体をぎゅっと包み込む。

「……私も、サンちゃんに会えて嬉しいよ」

そう言って、美咲は唇を重ねた。久しぶりのキス。けれど、愛しさと魔力補填が混ざったそのキスは、熱を帯びて深く、しばし二人だけの時間が流れた。

「医師の許可が出たら……真っ先に、ミサキを抱きたい」

耳元で囁く声に、思わず頬が緩む。

「この一年、少しは頑張れた?」

「……他人がどう思ってるかは分からない。でも俺なりに、できる限りのことはしたつもりだ。だから、もう一度……ちゃんと、夫婦になりたい」

まっすぐな眼差し。昔のサンダーボルトではない、覚悟と優しさを抱いた彼が、そこにいた。



それからの日々は、愛と命に満ちていた。

双子の娘たちは日に日に表情が豊かになり、少しずつ顔立ちもはっきりしてきた。どちらも美咲に似て、とても愛らしい。紫色の瞳は、まるで女神の祝福そのもののようだった。

医師の許しが下り、ようやく美咲とサンダーボルトは“夫婦”としての一歩を踏み出した。

夜も昼も、授乳と育児に追われ、ゆっくり過ごす時間はなかったけれど、サンダーボルトはそれでも「ようやく家族になれた」と、満ち足りた顔をしていた。

半年が過ぎ――彼は再び王城へ戻る時が来た。

「また、すぐ帰ってくるから……」

そう言いながらも、馬車へ乗り込む直前、彼は声をあげて泣いた。

泣き顔も、もう美咲には愛おしかった。

「また手紙、書いてね」

「……うん。毎日でも、書く」

涙の別れの中、彼は背筋を伸ばして、愛する人と娘たちに背を向けた。

この世界に来て、美咲が手にした宝物。それは、奇跡のような命と、真っ直ぐな愛に囲まれた、にぎやかで温かい日常だった。
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