手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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19 合言葉は「鼻」

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あかりを解放させた三日後、ロジュは馬鹿正直にクリスタの受付に電話してみた。
畑里あかりに取次を願う、と。
そうしたら、すぐに個人の端末に回されて驚いた。

しかも、開口一番、聞き覚えのある声が、
「どこで会いましょうか?」
と、のたまう。
畑里あかり。
3年近く前、キュニの、いや、ホゴラシュの敵呼ばわりされていた女だ。

見せしめにされるはずだった。
拉致されてきた時に聞いただけの声を、覚えている自分にロジュは驚く。
電流で焼かれながらマワされるはずだった私刑の生贄は、一瞬でロジュとケモルの派閥があるのを見抜き、最終的にケモルを倒してキュニを割った。

ロジュにとっては鮮烈だった。
「・・・キュニの砦に来いと言ったら来るつもりか?」
ロジュはあの時、まごうかたなきあかりの敵だったし、卑劣に映ったろうし、恐怖と苦痛を与えたはずだ。
それなのに敵地に乗り込んでくると?

「構いませんが、秘匿管理が徹底できないようなら、二度とビジネスのお話には出向きませんよ?」
あかりの声には、恐れも確執もなく、込められていた思いは、純粋に『バカなら相手にしない』だと気づけたロジュは柔軟なのかもしれない。

「忠告に感謝する。指定してくれ、俺が出向く」
ケモルの派閥は瓦解し、キュニはロジュ1強となったが、キュニのかじ取りは困難を極めている。
ホゴラシュの中心はゼルダで、ゼルダの総帥はタキュ人のシューバで、シューバの存在が
あまりに大きすぎるからだ。
「では、『きゅーぶ』のホゴラシュ支部にいらしてくださいな」

そしてロジュは。
内戦地で戦うしか能がないと思っていた自分の躰をスーツなるものに押し込んで、セジスタン地区の応接室でソファーに座り、コーヒーをいただいている。
軽いノックで開いたドアの外には、畑里あかり。

私刑の生贄として、埃っぽい床に引きずり倒されていた時ですら回転し続けていただろう頭脳と、それを映す油断ならない瞳。
ホームグラウンドで自信に満ち溢れた完全な状態のあかりをみたロジュは思う。

こんな行動の予測をしにくいものを拉致って来るんじぇねーよ、ぼけ老人が!

ロジュ主体だったなら、絶対この女は狙わなかっただろう。
拷問だろうが自白剤だろうが、吐かせた情報に罠があると疑わなければならないタイプだ。

おまけに、助けに来るだろう仲間が全員自分の頭で考えて臨機応変に動くようなグループの要人など、生贄にも人質にも捕虜にも向かない。

殺されたケモルは、鼻を食いちぎられ、盆の窪を切り裂かれて、下半身丸出しの状態で布の上に転がっていた。キュニ一と言われた戦闘能力を持ちながら、死にざまを隠されなければならないような情けない死にっぷりだった。

合言葉は、鼻、な。
知っているわけだ、キュニの部族の半数を従え、強靭な肉体と精神力で崇拝されていたケモルが、死に顔を隠してこそこそと火葬され、死因も隠され、派閥の瓦解を早めたこと。
死んだケモルに鼻がなかったと知っているのは、死に際に立ち会った人間位だ。レノとロジュと親しかった部族長が3人、せいぜいそんなもので。

ロジュは善人ではない。生贄のあかりを助けようともしなかったし、気は進まないが、どうしてもやれと言われれば強姦だろうが殺人だろうが参加した。
当然あかりに恨まれている自覚はある。

それでものこのこと言われたとおりの場所に一人で出向いたのは。
あかりがロジュに何を求めているかを聞きたかったから。
この女が、タキュ人の裏切りに気づいていないはずがない。
シューバを好きに操れるのだろうに、ゼルダでレノと通じている工作員も、クルラも泳がせたままだ。

「お待たせしました」
3年前の鮮烈な印象そのままに、あかりが笑う。

ロジュにとって初めてのビジネスミーティングなるものは、たった15分で終わった。
なんとも明快な、WIN-WIN連携のなれた作戦会議だった。

その数時間後から、キュニ人のロジュがあかりをエスコートする姿が、あちこちの公の場で見られるようになった。
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