手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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28 ポプリ・トラップ

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独占発信する『きゅーぶ』から無事に「ホゴラシュを国としてオフィシャルに招いた各国に『ホゴラシュ使節団』が派遣される」という企画花火が打ちあがり、クリスタとゼルダに注がれる外界からの注目度は指数関数的に増えていた。

いつの間にか、ホゴラシュの女たちは、単に先進国のお茶の間に話題を提供する国際的な合コンもどきに参加する一般人ではなく、使節団になっていた。
いつの間にか、『ホゴラシュ政府』と招待国が呼ぶグループがあり、そこから何人もが『国の代表として』同行することになっていた。
いつの間にか、招待国と2国間で国際結婚に関する取り決めの二国間条約を締結する段取りになっており、近々にいくつかの国際条約に参加できるようそれぞれの議長国への働きかけがはじまっていた。

そしてこのニュースが駆け巡るやいなや、海外投資家は狂乱した。ホゴラシュを国家として扱う国の多さを確認できたから。

『きゅーぶ』、クリスタ、ゼルダはもとより、ホゴラシュ関連企業だと言うだけで、セジスタン地区に支社があると言うだけで、株価が高騰し、世界中の目を引いたのだ。

これだけ金の流れが起きれば、楽観論は実体を持つ。

シューバはこれにかぶせるように、新技術を発表してゼルダの株価を高騰から暴騰まで持って行った。

一方で、ホゴラシュの交戦当事者だの、武装勢力が軸足の自称暫定政府だのの高齢層は、『追認バイアス』など、言葉上すら無縁な世界を生きて来たのだ。
世界的な感情で荒れ狂う金の暴虐に、とてもではないがついて行けるはずがない。

風にも波にも流れにも乗れない旧来勢力は、人々の記憶からも、経済からも、時代からもこぼれ落ちようとしていた。

揺り返しを、警戒していなかったわけではない。
だが、クリスタの面々にとって、ここしばらくはあまりにも対処することが多くて。

物理的な脆弱さを思い出すのに苦労するほど、経営者としてのシューバは強かったから、ゼルダまで心配する余裕は残らなかった。
国際承認の鍵を握るあかりに、手を出せる勢力が激減したから、防御は単発のゲリラ攻撃向けになった。

シューバの父ラノンが死んで3年半が過ぎ、ゼルダは創業者であるラノンを偲ぶ会を設けた。
日本でいうところの三回忌のようなものだろうか。
長い晩年を狂人として過ごしたが、若い頃は間違いなくホゴラシュの誇る英雄であったから、かつての崇拝者が個人的な贈り物を送ってくる人間も多い。
SPが開封し、問題のないものはシューバの屋敷内にも持ち込まれてくる。

はじめにクルラの様子がおかしいと気づいたのはマッドで、シューバの様子がおかしいと気づいたのはあかりだった。

ふたりとも額に汗が浮いていることが多くなり、クルラに至っては呂律が回らない時もある。だからと言って体内に毒物や薬物の反応があるわけでもない。

マッドとあかりは、時間が許す限りシューバの屋敷を訪ねるようになったが、警戒しても他人の屋敷内では限界がある。

本人たちの了承のもと、要所に防犯マイクやカメラを設置して様子を見るつもりだった。マイク類のセットがおわり、屋敷外からでも聞こえるかテストしようと、あかりとマッドがスイッチをオンにした途端、とんでもない声量の悲鳴が響き渡った。

クルラが、半狂乱、いや全狂乱レベルで叫んでいる。
顔すら見合わせることなく、今出て来たばかりの屋敷に向かって、マッドとあかりは全力で駆け戻った。

「クルラ!シューバ?!」
屋敷の中は、さっきよりも花の香りが濃くなっていた。

さっきまでは、ラノンの法事もどきで花がたくさん運び込まれたからだと思っていた。だが、が、少しスパイシーな香りが入っていて生花ではないようだ。

「ポプリの匂いなの?」
あかりが鼻をひくつかせる。
叫び声は、断続的に続いていて、辿ると客間についた。
シューバとクルラは二人ともそこにいて、同時にふたりとも、心はそこにはいなかった。

マッドがクルラの前に回って呼びかける。
だが、クルラは、マッドの声に反応することはなかった。
クルラは、壊れた蓄音機のように、同じ内容を繰り返し、しばらくすると、そこから飛び火したように、次の内容を再生する。

『母親を、電流で、やきころす、気分はどうだ?高揚、するか?おまえは、ほんとうに、わたしに似ている。クルラも、やいて、いいぞ』

『畑里あかり、は、自分からケモルさまに、いちばんに犯してと願います。もう電流を流さないで。シューバはすてます、から、ゆるして、キュニの部族だいひょう全員とよろこんでねます、命だけは、たすけて』

『おなじように、ころす。シューバが母を殺した方法で畑里あかりを、ころす。しゅーばは、電流を流すのがすきか?女を汚しながら焼くのは楽しいか?母がお前に向けた恨みを思い出すか?』

内容の不穏さに。マッドは啞然とする。
どこからの攻撃だ?!
これを、何らかの精神操作で意識レベルが落ちたシューバの前で繰り返したのか?!

シューバの方にはあかりが駆け寄ったが、こちらも外界からの働きかけに反応がない。呼吸が浅く、透明な目で自分の手を見つめ、何度見てもあかりが慣れることのできないシューバの涙が頬を流れていく。

あかりの理解はマッドよりも早かった。
ネタのセットと人間のチョイスから考えて、キュニ人のレノ主導でほぼ確定だ。
幼少期の母親ネタでシューバとクルラをえぐろうなんて、ふざっけるなよ。
怒りが突き抜けそうになるのを、呼吸二回で逃がして、あかりはマッドに声をかける。

「マッドさん、このポプリ、キツすぎて変。匂い使った催眠暗示みたいのってある?これ、レノからの心理攻撃でほぼ確定。まずはこの子達外に出そう」

シューバの頭を抱いたあかりに冷静な声で話しかけられて、マッドは自分の理性側の脳を奮い起こす。我ながら情けない。

シューバをかき乱すのが目的だろうが、かなり悪意を持って貶められているあかり本人の方がよっぽど頭が回っているというのはどうなのだ。

おまけに、あかりはその辺の記憶をホワイト・プログラムで操作した。真っ先に気遣われるべき存在だ。

「あかりさん、記憶・・」
「私の方は記憶もショックも問題ない。私がクルラおぶうからシューバ頼んでいい?」

マッドは、心の底からあかりを頼もしいと思う。つらいかとか傷ついているかの問題とは別に、事実として『大丈夫』なのだ。
この子が居れば、きっとシューバは倒れない。
「了解です、出ましょう」
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