常夏

アテネ

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常夏

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常夏
今日も変わらず蝉の声が響いている。そして俺たちは縁側にいる。まさに「夏」と言った感じだ。スイカなんか用意しちゃえばいいんじゃないかと思う。

今日は夏祭りの日だ。夏祭りと言っても、家の中でワイワイすることだけの事だけどな。同居しているかえでの要望により去年から始めた。「あすかちゃーん!かき氷食べよー!すずも食べたいよねー!」今日もかえでがうるさい。このうるささも別に嫌いでもないが。第一、猫がかき氷なんて食べられるのか?「うんうん!夏らしいよね~」とあすかが返す。この、かえでが投げてあすかがキャッチするような会話の仕方がほとんどだ。もう聞き飽きたくらい。毎回勢いよく話せるかえでも凄いが、それをうまくキャッチできるあすかが1番凄い。「氷買ってくるね!」とかえで。あすかが「わかった~」と言い終わる頃にはもう家を出ていた。相変わらず恐るべき行動力だ。その間は俺とあすか、そしてあすかとかえでにはあっくんと呼ばれている俺の兄貴、篤史はゲームをして待っていた。もう15分ほどたった頃だろうか。かえでが帰ってきた。いつもの西島商店で買ってきたらしい。「氷買ってきたよー!」とかえで。「シロップは?」と聞くと「あ!忘れちゃった!」と返してくる。相変わらずおバカさんだなぁ。まあいい、代用するとするか。俺とあすかで、かき氷を作る。しょうがないからスイカの汁で代用したが、当然美味くはない。ただの冷やして薄めたスイカ汁じゃないか。その後の夏祭りは、みんなでボードゲームをしたりして過ごした。そして3時、時報が鳴る。夏祭りの終了予定時刻だ。すかさずかえでが「お疲れ様ー!」と言ってクラッカーを鳴らす。心のどこかにうるさいなぁという気持ちは絶対にある。そして、すずの餌やりタイムだ。1年半ほど前にかえでが拾ってきた子猫だ。あすかが用意して、かえで中心にみんなであげる。やっぱり猫は可愛い。だが、かえでのすずに対する気持ちは計り知れない。パッと見た時はすぐそばに居たりする。そんな中餌をやり終わってボーっとしていると、ドアノックの音が聞こえた。「西島でーす」どうやら西島商店の店主が野菜を持ってきてくれたらしい。こんな田舎だからよくある事だ。この辺の近所と言っても、仲良くしてくれるのは西島さんしかいない。こういうのはいざとなった時に重要なんだろうなぁと考えると、大切にしておきたくなる。そんな中かえでは気にせずゲームをしている。もうちょっと大切にしてくれないものなのだろうか。西島さんが持ってきてくれた野菜はネギとレタス、トマトなどだ。気にしていなかったかえでにも、一応「西島さんが野菜持ってきてくれたぞー」と言っておく。かえでは「どんなのー?」と聞く。それに対し「ネギとレタ...」と呟くと「ネギ!?かえでネギが入った卵焼きが大好物なんだよ!」と目を輝かせて言ってくる。もうその話は100万回ぐらい聞いた。何も言われなくても作りますよ、と。料理に関しては俺が手伝える所は手伝うが、やはりあすかには敵わない。あすかが作ってくれたネギ入りの卵焼きと、アドリブの焼きそばを今日の晩御飯とすることにした。「いっただっきまーす!」とかえでの声がリビングに響く。なんでそんなに元気なんだ。それに続いて俺含め3人も、「いただきます。」と言う。かえでの大声食レポと、話が上手いあすかの雑談が聞こえる。そんな中俺と兄貴は黙々と食べ進め、そして「ごちそうさまでした!」とかえでの声がする。だいたい男の方が早く食べ終わるから、風呂は男から入るということになっている。無事に風呂に入り、夜を迎えた。こんな田舎じゃ夜なんて何もすることがない。すずもとっくに寝ているし、俺たちも早く寝ることにした。電気が暗くされ、4人揃って寝る。しかし、その日は運動など全くしていないため、寝つきが悪かった。もうどのくらいだった頃だろうか。なかなか寝れなかった俺はかえでを見て「やっぱりみんな寝てるなぁ」と呟く。そして、あすかの顔が見えた。寝ているかと思ったら、起きているようだ。軽く微笑み、「おやすみ」と口ずさんだような気がした。あまり気づいていなかったが、あすかは結構可愛いのかもしれない。そう思う頃には、俺はもう眠りについていた。

翌日、今日も虫と鳥の鳴き声で目を覚ます。自然ならではの目覚ましだ。今日もいつも通り起きる。少しあすかと兄貴が早起きしていた。「にゃ~ん」ついでにすずも。そしてしばらくして、かえでも起きた。これで全員起きたことになる。かえでが冷蔵庫の中身を見て、「みんな~もう食べ物がないよ~!そんな時はこのかえでちゃんに、まかせなさい!」相変わらず張り切ってるなぁ。俺はそんなことできやしないぞ。一応サンドイッチとか言っておいた。

かえでを待っている間ゲームをしていると、電話のベルがなった。何事かと思ってゆっくり体を起こして出た。かけてきたのは西島商店の店主だった。「もしもし!?急にごめんね!」急いでいるようなので、何か嫌な予感がした。食い気味に店主が「今、庭の掃除をしてたんだけど、かえでちゃんが…交通事故に逢っているの!」と言う。嘘だろ。あんなに元気だったかえでが。「とりあえず私は救急車を呼んだから!」と乱暴に切られた電話を前に、俺は呆然と立ち尽くす事しかできなかった。とりあえずこの事をあすかと兄貴に伝え、西島商店の方へと向かう。西島商店の周りに着くと、救急車に担架でかえでと思われる人物を運んでいるところを見た。かえでは、いつものかえでとは思えないほどぐったりしている。幸いにも外部的な損傷はないようだ。周りにいる人に声をかけ、同居人だと伝えると、1人だけ救急車に同乗してほしいと言われた。ここはあすかにしようと思ったが、兄貴がすかさず「ここは俺が行く。俺、こういうのには詳しいから。」と言い、同乗して行った。そういえば、兄は医者志望だった。こんなところで役立つとは思わなかった。専門の人の指示により、俺とあすか2人、そしてすずは家で待つことにした。生活こそ変わらなかったものの、かえでがいない夜はやはり寂しい。こんなにも大切なものだったのかと、思い知らされた初めての日だった。翌日、一通の手紙が届いた。同じようなタイミングで、兄貴も帰ってきた。手紙を見ると、病院からだった。かえでのことだろうと確信し、中身を見た。内容は、かえでの被害のことで、軽い擦り傷と複数箇所の骨折との事だった。全治4ヶ月らしい。ここから、かえでの居ない夏が始まった。

かえでの居ない夏は、とても想像もできなかった、寂しい4ヶ月だった。あの時、守れていたら。そう感じることもあったが、胸に留めておいた。この4ヶ月の中で、俺が思い出したことがある。昔じいちゃんが教えてくれた言葉だ。「だいたい人というのは、今あるものの素晴らしさに気づけないでその物を失う。失ってから気づいたのじゃ遅い。」というもの。まさに今、当てはまる言葉だ。この言葉の通り、今後悔したのじゃ遅い。俺たちはかえでを待つことにした。

1週間ほどたった頃、かえでと俺たちは文通をするようになった。「元気?」と書くと、「元気じゃないから病院にいるんだよ。」と帰ってくる。なんともかえでらしい。かえでらしい言動が見れただけで、少し落ち着けるような気がした。

文通をしながら、4ヶ月の間、俺たちは待った。待ち続けた。それが俺たちにできる最前の行動だ。そして、かえでが好きそうなものをたくさん買っておいた。恥ずかしいから、退院祝いという名目にしておく。実際は違うのだが。

3ヶ月と3週間。予定よりも早く病院から電話がかかってきた。かえでが退院できるとの事だ。俺たちは目を合わせて微笑んだ。やっとかえでがいる日常が戻ってくる。期待を胸に寄せながら、俺たちは病院に行くことにした。病院に着くと、かえでの部屋に案内された。病室の扉を開けると、笑顔のかえでがいた。いつものかえでと全く変わらない、あの元気なかえでが帰ってきた。俺の目からはいつの間にか涙が流れていた。かえでの笑顔はいつもより可愛く見えた。かえでを含め俺たちは、家に戻ることにした。4ヶ月ぶりの4人揃っての帰宅。話したいことは溢れるほどあったが、今は心の中に留めておくことにした。家に着くと、変わらない風景が広がっていた。あすかがいて、かえでがいて、兄貴がいて、すずがいて、そして俺がいる。この景色がある、当たり前であることの素晴らしさを、俺はこの4ヶ月で知った。一日一日、一人一人を大切にしていこうと決めた。俺はかえでを抱きしめた。「かえで、ごめんな。そして、ありがとう。」かえでは少し照れていた。そんな俺たちを、夕日が包んでいた。
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