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皇都恋愛奇譚(3)
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「んー。ジャンヌちゃん。良く似合ってる。これならヴァロワ皇と並んだって問題無いでしょうねっ」
「あー……はい、どうも……」
ルカヨの手放しの褒め言葉。
それを受け一條は、苦虫を噛みつぶした様な表情を浮かべるのが精一杯であった。
「でも、本当に素敵ですよ。ジャンヌさん」
「ルッテモーラさんも、そこまで褒めなくても……」
気恥ずかしさがこみ上げてくる。
逃げ場を求める様に、着付けを手伝ってくれた侍女へ声を投げた。
「えぇと。シレニアさんも、ありがとうございます」
シレニア・ミレハは、言葉に所作のみで応える。
肩口で揃えられた白い髪が、その動きにつられて揺れた。
口数も少ない上、表情もあまり変化がないので、思考がいまいち読み辛い。
――まぁ、嬉しそうなのは伝わるけど。
元々はルカヨ専任で身の回りの世話をしていたが、一條が来て暫くの後は此方の専任となった。
当初は困惑したものの、今ではある程度察しがつくし、シレニアの方からも時々話し掛けてくれる位には打ち解けてきたのだと思いたい。
要するに、単なる恥ずかしがり屋なのだ。それすら顔には殆ど出ないが。
「それにしても、これは腹括らなきゃダメかな……」
自身の格好を改めて確認し、一條はため息を吐く。
普段着る物とはまるで違う、傍目にも質の良い代物である。
「こういうのなんて言うんだっけ。なんとかドレス?」
「いや、もうドレスで良いでしょ……」
ふわり、と踵丈の裾を翻す。
社交行事に向かう為の礼服。
昼間からのものでもあり、肌の露出を極力抑えたもの。
色合いも一條の印象的な薄紫色の髪に寄せられており、これだけでも相当の苦労が窺える。
と言うのも、こういう高級礼服も基本的には例の大蜘蛛、グァダコの糸が使用される事が多いからだ。
糸の色は基本的には白なのだが、グァダコは育てる環境を変える事でその色味が変化する種である。
当然、どの個体がどんな色合いの糸を出すかは運に左右される為、気に入った色合いを出す個体を探すのは、育て屋、客側双方共に並大抵の事ではない。
それ故、安定した値段で取引されるのは白色のみ。
それ以外の色は、種類や量によって金額が乱高下する事態となるのが通例だった。
気に入った色合いを揃えるのに四苦八苦する一方、このお陰で色の流行に変化も生まれる上、珍しい色合いはそれだけの注目度を有する事となる。
だが、一條の活躍もあり、あまり人気の無かった紫色が、今や脚光を浴びる最先端の色合いだった。
特に女性達の間では、こぞってこの色を使った衣服や小物類を注文していると聞く。
鑑みれば、やはり、一條の着ている服も努力の結果であろう。
「そっか。じゃあドレスも似合ってるわよジャンヌ姉……こういう場合の言い回しあったわよね。えーと……」
紀宝が考え込んだ。
直後、
「立てば春菊っ」
「アタシ、茹でられるのかな?」
「あれ違った? ……新香……新薬。瞬間?」
「花の要素消えたぞどうなってんだ」
「まぁ、いつもより美人さん、って事で」
「凄い適当でお姉さんびっくりだよ……」
からからと笑う彼女はいつも通りであった。
「て言うか、私よりジャンヌ姉でしょ。大丈夫? これお見合いみたいなものなんじゃない?」
「みたいな、と言うか、そのものじゃないかなぁ……」
一條はため息一つ。
立派な衣服に袖を通さざるを得ない状況になったのには、それなりに事情がある。
十日程前の事。
ランス家を訪ねてきた一団があった。
クントゥー・ファウス。
巨漢を有し、ウネリカでは共に戦った人物。
そして、ヴァロワ十二皇家、ファウス家の当主にして長男。
彼と、その血筋と分かる程に恰幅の良い面々。
その集団を見た瞬間、一條ですら察してしまった。
「是非とも我が家に招きたい」
との台詞に、果たして、一体誰が拒否の言葉を出せたろうか。
一応、食事会の様な感じではあるらしいが、そうはならない事は明らかである。
しかし、一條としても、断わるにしても全てを無下にする訳にもいかない。
ちなみにその時知ったが、彼は未婚である。
「親が出てくるもの程断り難い事はないね……」
「確かに、ばっさり斬るのも少し躊躇っちゃうわね」
「少しなんだ……」
本来であれば、こういう形で他の十二皇家の麾下にあたる者を誘う等、考えられない事態ではあるらしい。
つい先日の、『フラド・ホリマー結婚申請事件』は笑っていたアルベルトですら、今回は心底驚いていた事からも推察は出来る。
とはいえ、一條も立場としてはほぼ同格なのだが、同時に微妙な立ち位置だった。
十二皇家に次ぐものの、現状はランス家の食客が正しい。
更には、クラウディー家として戦場に立つ羽目にもなっているのが、殊更にややこしい状態にあると言えた。
――何か、俺一人で十二皇家しっちゃかめっちゃかにしてるんだけど。
内部抗争が起きていない分、まだ平気ではあるだろう。
「テーブルマナーとか頭に入れるだけ入れたけど……どうかなぁ……」
「そこは平民って事で壁ぶち壊して一直線に行けば良いのよ。ジャンヌ姉なら大抵の事は許される……筈っ! きっと! 多分!」
「ありがとう。何の慰めにもなってねぇや」
兎も角、またしても平穏無事に、とはいかなかった。
――厄介事が向こうから音速で飛んできやがる。
心中で愚痴る。
「大急ぎで仕立てた甲斐があったわ。これから必要になるかも知れないし、色々用意しておかないと」
「ルカヨさん……あの、大丈夫ですから。気にしないで下さい」
「ジャンヌちゃん。女性は準備に気を使わなくてはいけないのよ。勿論、貴女達の使命、は、分かっているつもりだけど……。皇都に。いいえ。この家に居る間くらいは、もっと毎日を楽しんで欲しいのよ」
「ルカヨさん。……本音は?」
「もっと可愛い服を着るべきねっ。私が着ない様な服でもきっと似合うわっ。今度裾丈の短い服とかどうかしらっ」
「ちくしょうっ! 欲望に忠実かこの人!」
「仲良いわねぇ……」
紀宝は、まるで他人事の様にそんな事を宣った。
「ジャンヌ姉一人は不安だけども、ま、こればかりは仕方ないわね。断わるにしても、失礼の無い様にしてきなさいな」
「うぅ……」
「嘘泣き下手か」
ばっさりと言われ、一條は軽く一息。
「それにしても、ジャンヌ姉ってば、ホントに人気者ね。何人目これ?」
「ここまで本気出してきたのは初じゃないかな……。いや、ホリマーさんとこのも、本気と言えば本気だったけど」
ついでにどこぞの戦闘馬鹿も矢鱈と突っかかって来ていたの思い出す。
本人はやはり最前線が好きな様で、すぐに引き返して行った。
が、一度会った奥方は本当に気の強い女性であり、口調や行動もそうだが、一條の前だと言うのに関係無く旦那を張り手しまくっていたのだ。
言動の端々からも、二人の仲は良好だと言うのは伝わってきたが。
「どいつもこいつも個性の塊しかいねぇ」
「それは……私も少し同情する」
紀宝にしては、複雑そうな苦笑。
「ジャンヌさん。そろそろファウス様が来る頃では?」
「う……はい。無駄に緊張してきた……」
「はい深呼吸してー。掌に人って字を書いて。そんで、口に放り込んで食う」
「化け物じゃねぇか」
「誰が化け物だって?」
「えぇ……?」
幽霊が効かない格闘家としては、それが普通なのかも知れない。
怒られる前に、一條も真似して動作をしていく。
少しは気が楽になった様に感じる。妙に肌寒さも感じるが気のせいだろう。
「ジャンヌさん。流石に帯剣はしなくて宜しいかと……」
「あ、そっか……。スフィに会う度指摘されてたからつい……」
変わった常識を元に戻すのは難しいとしみじみ思う。
それ以前に、今の正装姿に帯剣と言うのは流石に違うと言わざるを得ない。
そんな事をしている間に、扉が控え目に叩かれ、
「失礼します。ジャンヌ様。ファウス様の使いの方が見られました」
しずしずと入ってきたのは、茶色がかった黒の髪をツーサイドアップ状にした女性、ランス家の接客担当筆頭、レンカーナティである。
全体的に黒を基調とした色合いに、踵丈の侍女服とセーラー服の様な上部分とを組み合わせた様な衣服は、彼女達の専用侍女服と言えた。
整った顔立ちをした美人であるが、紀宝の愛弟子の中で最も筋が良いと褒められいる逸材でもある。
実際、あの服装のまま大立ち回りを演じられるのは彼女位なものだ。
「ではジャンヌさん。行きましょうか」
「あい」
ルッテモーラに適当な返事をしつつ、一條はゆっくりと歩みを進める。
幸い、身長のお陰で踵を高く見せる必要はないが、
――このドレス、高級だと思うと途端に動き鈍るぅ。
どうにも歩き辛さを感じてしまった。
これからを考えると、早速暗雲が立ちこめて来そうである。
「お、漸く出てきた……な……」
「……これはまた……」
「……。いや、もっとあるでしょ、言う事」
部屋の外で待機していた高井坂とアランの反応に、一條も逆に煽る様な台詞がついて出た。
この辺りも、女性としての過ごした時間故なのかも知れない。
最初に反応したのは、高井坂。
両手を構えると、指を忙しなく動かし始める。
――気持ち悪いなぁ。
と心中で感想を持っていると、
「強調されたメロンがヤバ、いんぐっ」
言い終える前に反射的に、無言で手刀を上から叩き込んだ。
無防備な脳天への一撃だったが、残念ながら中身はまろび出ていない。
「ジャンヌ殿は、どんな服も似合いますね。綺麗ですよ」
「えっ!? ……あっ、はい……」
ボケた弟に対して手刀を叩き込んだ事もあって、アランの率直な褒め言葉は少々、気恥ずかしい気分である。
「チョロ過ぎんかうちの姉……」
妹からの突っ込みはあえて聞かない振り。
「さて、殿方を待たせてはいけませんわ急ぎますわー」
一條は裾を軽く持ち、その場から逃げる様に早歩きで屋敷を駆け抜けた。
「あー……はい、どうも……」
ルカヨの手放しの褒め言葉。
それを受け一條は、苦虫を噛みつぶした様な表情を浮かべるのが精一杯であった。
「でも、本当に素敵ですよ。ジャンヌさん」
「ルッテモーラさんも、そこまで褒めなくても……」
気恥ずかしさがこみ上げてくる。
逃げ場を求める様に、着付けを手伝ってくれた侍女へ声を投げた。
「えぇと。シレニアさんも、ありがとうございます」
シレニア・ミレハは、言葉に所作のみで応える。
肩口で揃えられた白い髪が、その動きにつられて揺れた。
口数も少ない上、表情もあまり変化がないので、思考がいまいち読み辛い。
――まぁ、嬉しそうなのは伝わるけど。
元々はルカヨ専任で身の回りの世話をしていたが、一條が来て暫くの後は此方の専任となった。
当初は困惑したものの、今ではある程度察しがつくし、シレニアの方からも時々話し掛けてくれる位には打ち解けてきたのだと思いたい。
要するに、単なる恥ずかしがり屋なのだ。それすら顔には殆ど出ないが。
「それにしても、これは腹括らなきゃダメかな……」
自身の格好を改めて確認し、一條はため息を吐く。
普段着る物とはまるで違う、傍目にも質の良い代物である。
「こういうのなんて言うんだっけ。なんとかドレス?」
「いや、もうドレスで良いでしょ……」
ふわり、と踵丈の裾を翻す。
社交行事に向かう為の礼服。
昼間からのものでもあり、肌の露出を極力抑えたもの。
色合いも一條の印象的な薄紫色の髪に寄せられており、これだけでも相当の苦労が窺える。
と言うのも、こういう高級礼服も基本的には例の大蜘蛛、グァダコの糸が使用される事が多いからだ。
糸の色は基本的には白なのだが、グァダコは育てる環境を変える事でその色味が変化する種である。
当然、どの個体がどんな色合いの糸を出すかは運に左右される為、気に入った色合いを出す個体を探すのは、育て屋、客側双方共に並大抵の事ではない。
それ故、安定した値段で取引されるのは白色のみ。
それ以外の色は、種類や量によって金額が乱高下する事態となるのが通例だった。
気に入った色合いを揃えるのに四苦八苦する一方、このお陰で色の流行に変化も生まれる上、珍しい色合いはそれだけの注目度を有する事となる。
だが、一條の活躍もあり、あまり人気の無かった紫色が、今や脚光を浴びる最先端の色合いだった。
特に女性達の間では、こぞってこの色を使った衣服や小物類を注文していると聞く。
鑑みれば、やはり、一條の着ている服も努力の結果であろう。
「そっか。じゃあドレスも似合ってるわよジャンヌ姉……こういう場合の言い回しあったわよね。えーと……」
紀宝が考え込んだ。
直後、
「立てば春菊っ」
「アタシ、茹でられるのかな?」
「あれ違った? ……新香……新薬。瞬間?」
「花の要素消えたぞどうなってんだ」
「まぁ、いつもより美人さん、って事で」
「凄い適当でお姉さんびっくりだよ……」
からからと笑う彼女はいつも通りであった。
「て言うか、私よりジャンヌ姉でしょ。大丈夫? これお見合いみたいなものなんじゃない?」
「みたいな、と言うか、そのものじゃないかなぁ……」
一條はため息一つ。
立派な衣服に袖を通さざるを得ない状況になったのには、それなりに事情がある。
十日程前の事。
ランス家を訪ねてきた一団があった。
クントゥー・ファウス。
巨漢を有し、ウネリカでは共に戦った人物。
そして、ヴァロワ十二皇家、ファウス家の当主にして長男。
彼と、その血筋と分かる程に恰幅の良い面々。
その集団を見た瞬間、一條ですら察してしまった。
「是非とも我が家に招きたい」
との台詞に、果たして、一体誰が拒否の言葉を出せたろうか。
一応、食事会の様な感じではあるらしいが、そうはならない事は明らかである。
しかし、一條としても、断わるにしても全てを無下にする訳にもいかない。
ちなみにその時知ったが、彼は未婚である。
「親が出てくるもの程断り難い事はないね……」
「確かに、ばっさり斬るのも少し躊躇っちゃうわね」
「少しなんだ……」
本来であれば、こういう形で他の十二皇家の麾下にあたる者を誘う等、考えられない事態ではあるらしい。
つい先日の、『フラド・ホリマー結婚申請事件』は笑っていたアルベルトですら、今回は心底驚いていた事からも推察は出来る。
とはいえ、一條も立場としてはほぼ同格なのだが、同時に微妙な立ち位置だった。
十二皇家に次ぐものの、現状はランス家の食客が正しい。
更には、クラウディー家として戦場に立つ羽目にもなっているのが、殊更にややこしい状態にあると言えた。
――何か、俺一人で十二皇家しっちゃかめっちゃかにしてるんだけど。
内部抗争が起きていない分、まだ平気ではあるだろう。
「テーブルマナーとか頭に入れるだけ入れたけど……どうかなぁ……」
「そこは平民って事で壁ぶち壊して一直線に行けば良いのよ。ジャンヌ姉なら大抵の事は許される……筈っ! きっと! 多分!」
「ありがとう。何の慰めにもなってねぇや」
兎も角、またしても平穏無事に、とはいかなかった。
――厄介事が向こうから音速で飛んできやがる。
心中で愚痴る。
「大急ぎで仕立てた甲斐があったわ。これから必要になるかも知れないし、色々用意しておかないと」
「ルカヨさん……あの、大丈夫ですから。気にしないで下さい」
「ジャンヌちゃん。女性は準備に気を使わなくてはいけないのよ。勿論、貴女達の使命、は、分かっているつもりだけど……。皇都に。いいえ。この家に居る間くらいは、もっと毎日を楽しんで欲しいのよ」
「ルカヨさん。……本音は?」
「もっと可愛い服を着るべきねっ。私が着ない様な服でもきっと似合うわっ。今度裾丈の短い服とかどうかしらっ」
「ちくしょうっ! 欲望に忠実かこの人!」
「仲良いわねぇ……」
紀宝は、まるで他人事の様にそんな事を宣った。
「ジャンヌ姉一人は不安だけども、ま、こればかりは仕方ないわね。断わるにしても、失礼の無い様にしてきなさいな」
「うぅ……」
「嘘泣き下手か」
ばっさりと言われ、一條は軽く一息。
「それにしても、ジャンヌ姉ってば、ホントに人気者ね。何人目これ?」
「ここまで本気出してきたのは初じゃないかな……。いや、ホリマーさんとこのも、本気と言えば本気だったけど」
ついでにどこぞの戦闘馬鹿も矢鱈と突っかかって来ていたの思い出す。
本人はやはり最前線が好きな様で、すぐに引き返して行った。
が、一度会った奥方は本当に気の強い女性であり、口調や行動もそうだが、一條の前だと言うのに関係無く旦那を張り手しまくっていたのだ。
言動の端々からも、二人の仲は良好だと言うのは伝わってきたが。
「どいつもこいつも個性の塊しかいねぇ」
「それは……私も少し同情する」
紀宝にしては、複雑そうな苦笑。
「ジャンヌさん。そろそろファウス様が来る頃では?」
「う……はい。無駄に緊張してきた……」
「はい深呼吸してー。掌に人って字を書いて。そんで、口に放り込んで食う」
「化け物じゃねぇか」
「誰が化け物だって?」
「えぇ……?」
幽霊が効かない格闘家としては、それが普通なのかも知れない。
怒られる前に、一條も真似して動作をしていく。
少しは気が楽になった様に感じる。妙に肌寒さも感じるが気のせいだろう。
「ジャンヌさん。流石に帯剣はしなくて宜しいかと……」
「あ、そっか……。スフィに会う度指摘されてたからつい……」
変わった常識を元に戻すのは難しいとしみじみ思う。
それ以前に、今の正装姿に帯剣と言うのは流石に違うと言わざるを得ない。
そんな事をしている間に、扉が控え目に叩かれ、
「失礼します。ジャンヌ様。ファウス様の使いの方が見られました」
しずしずと入ってきたのは、茶色がかった黒の髪をツーサイドアップ状にした女性、ランス家の接客担当筆頭、レンカーナティである。
全体的に黒を基調とした色合いに、踵丈の侍女服とセーラー服の様な上部分とを組み合わせた様な衣服は、彼女達の専用侍女服と言えた。
整った顔立ちをした美人であるが、紀宝の愛弟子の中で最も筋が良いと褒められいる逸材でもある。
実際、あの服装のまま大立ち回りを演じられるのは彼女位なものだ。
「ではジャンヌさん。行きましょうか」
「あい」
ルッテモーラに適当な返事をしつつ、一條はゆっくりと歩みを進める。
幸い、身長のお陰で踵を高く見せる必要はないが、
――このドレス、高級だと思うと途端に動き鈍るぅ。
どうにも歩き辛さを感じてしまった。
これからを考えると、早速暗雲が立ちこめて来そうである。
「お、漸く出てきた……な……」
「……これはまた……」
「……。いや、もっとあるでしょ、言う事」
部屋の外で待機していた高井坂とアランの反応に、一條も逆に煽る様な台詞がついて出た。
この辺りも、女性としての過ごした時間故なのかも知れない。
最初に反応したのは、高井坂。
両手を構えると、指を忙しなく動かし始める。
――気持ち悪いなぁ。
と心中で感想を持っていると、
「強調されたメロンがヤバ、いんぐっ」
言い終える前に反射的に、無言で手刀を上から叩き込んだ。
無防備な脳天への一撃だったが、残念ながら中身はまろび出ていない。
「ジャンヌ殿は、どんな服も似合いますね。綺麗ですよ」
「えっ!? ……あっ、はい……」
ボケた弟に対して手刀を叩き込んだ事もあって、アランの率直な褒め言葉は少々、気恥ずかしい気分である。
「チョロ過ぎんかうちの姉……」
妹からの突っ込みはあえて聞かない振り。
「さて、殿方を待たせてはいけませんわ急ぎますわー」
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