よくある令嬢物語の婚約者たちの話

とある令嬢たちの幕間

多くの人がごった返す酒場にて
2人の女性と少女が食事をしていた。

「よお姉ちゃんたち俺らと一緒にどうだ？」
「「あﾞ」」

下品な笑い顔で彼女たちに寄ってきた酔っ払い男をドスの効いた声で応対した。
女性は戦い慣れした服装と顔に少し傷があり、睨んだ目付きは今にも殴ってきても不思議ではないほどである。少女の方も可愛らしい顔ではあるものの、相手をしたくないという意思表示を全面に出し更に侮蔑のある視線で睨んでいた。2人の対応に一瞬でビビったのか男はすごすごと先程いた席へと戻った。周囲にいたの野郎達も同じような事を考えていたのか、やや静かになっていたた。馬鹿な事考えるんだったらサッサと食って寝な!!っと酒場の女将が周囲の男たちを空になったお盆で叩いて回った。それを冷やかす他のもの達がどっと笑った。それらを見ていた彼女たちも釣られて笑った。

「いや～笑った笑った。」
「見事に出しにされた感はあるけどね」
「まぁね。でも1番面白いのはアンタらだけどね」
「そお？」

ニンマリと笑う女性は、少女を見た。
この少女は別の国でとある貴族の養子になっていた。理由は容姿が可愛らしく、保護欲がそそられる見た目は政治や様々な事に利用する為に打って付けであったので引き取られたのだ。そして引き取った貴族の命令で学園にて特定の子息を篭絡していった。そんな中で、ある篭絡した子息の婚約者である令嬢との出会いにより、少女は現在に至ったのである。

「だってさぁ。篭絡した奴の婚約者と一緒に逃亡するなんて、おかしな話だろ」
「それは、……まぁそうね」
「本来なら、敵対してどちらかが地に落ちるか攻撃し合うか落とし合うか、はたまた、これ以上損害がないように絶対に近づかないように距離を置くかあたりが想像つくね」
「確かに」
「でも、アンタはあの子の事が気になった」
「……そう。あの子の態度と様子が気に食わなかったわ。だって、あの子に酷い事をしたのに、淡々としたあの態度が」
「そうしているうちに、絆されちゃったのね」
「べっ、別にそうじゃあなくて……」

もごもごと口篭る少女に、女性は暖かい目で見ながら酒を飲んだ。
しばらくして、フードを被った人物が酒場にやってきた。顔を上げた女性はその人物が誰なのか分かり微笑んでこっちだと手を上げた。フードの人物は彼女たちと同じ席に座るとフードをとった。そこには、酒場には場違いな整った顔つきの恐らく貴族の令嬢であろう。しかし、その髪は男の子のように短く切ってあった。

「お待たせ」
「おう、おかえり」
「遅かったわね。……どうだった？」
「なんとも言えないけど、何とかなりそうだわ」
「例の要注意人物を渡したおかげで？」
「そう、それの功績のおかげで上手く交渉が出来るかもしれないわ」
「ここからが本番なのね」
「えぇ」

令嬢は頼んだ飲み物を口して喉を潤した。


「これからの交渉によって、私たちの逃亡先の生活が掛かっているわ」


かつて2人の少女が通っていた学園の時は令嬢は人形のようであったが、今は生き生きとした瞳をした令嬢がそこにはあったのだ。