罪状は【零】

毒の徒華

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第2章 絶対的な力

第20話 虐げられる人々

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 僕はなんとか聞き込みをして、治癒魔術の最高位の魔女が『シャーロット』という名前であることだけは解った。
 だが、その魔女は最高位魔女会サバトにとらえられて半ば強制的に働かされているということで、僕が接触する機会というのは自然にはやってこないことを覚悟した。

 ――困ったな……

 最高位魔女会サバトと言ったら僕の翼をむしり取ったゲルダの直下の組織。
 対峙するほかないのだろうか。
 しかし流石の僕でも高位の魔女が何人もいたら下手したら殺されかねない。
 最高位魔女会サバトの拠点は街の中心の城だが、僕の姿を知っている魔女ばかりだろう。

「大丈夫かな……ご主人様…………」

 ――駄目だ駄目だ……!

 弱腰になっている場合じゃない。
 なんとかしないと。
 自分を懸命に奮い立たせるが、不安が気持ちから消えることはない。
 ずっと僕はご主人様のことで頭がいっぱいだ。

 さすがの魔女の総本部がある場所だけあって、人間の奴隷も多ければ魔女も多い。
 魔女なんて誰もかれもが敵に見える。
 ガーネットもずっと苛立ちを感じているのか、猫のくせに険しい顔をしている。レインもきっと鞄の中で怯えているだろう。

「ちょっと!! なにしてんの!? 立ちなさいよ!!」

 金切り声に驚いてビクッと僕は身体を震わせた。
 振り向くと、急に大声を上げた魔女が筋骨隆々の男の奴隷を蹴飛ばしている。

「申し訳ございません! 申し訳ございません……!!」
「どうしたの? 女に手も足も出せない自分が情けないんじゃなくて!?」

 その魔女はしばらく男を蹴ったり殴ったりしていた。男は一切抵抗しないで謝っている。
 魔女に反抗したら即座に殺される。だから男のあの態度は仕方がないが、それにしても凄惨だ。

「ふん、ざまぁないわね」

 その魔女は暴力を振るう事に飽きたようで、男を蹴るのをやめてどこかへ消えてしまった。男はうずくまって震えている。
 それに見かねた僕は男の元へ足を運んだ。男は息を荒げながら腹部を押さえている。

「これ、良かったら傷に貼ってください」

 僕は昨日調合してみた新種の傷薬をその男に渡した。

「あり……がとう」

 男は一瞬柔らかい声を出したが、僕を見てビクリと身体を硬直させる。やはり魔女であるということは人間にとっては恐怖でしかないものらしい。
 周りの人間たちは僕らをジロジロと見ていた。
 魔女が人間に優しくするのは珍しいのだろう。

「あんた……シャーロット捜している他所よその魔女だろ……?」

 男は身体をなんとか起こして僕の方を見た。街の外れの方にいた奴隷とは違ってまだ眼に輝きがある。

「……あぁ、はい。そうですけど」

 奴隷同士のコミュニティでもあるのか、噂が広まるのが早いなと感じた。
 そうでもなければ魔女から逃れることもできないのだろう。

「あの魔女なら、たまに街に降りてくるよ。俺らみたいなのを治療しに……ゴホッゴホッ!」

 咳をするその男をみて、ご主人様の姿と重なった。
 こんなにご主人様と離れているのは初めてだ。その男とご主人様がダブって僕の視界にちらつく。僕が背中を摩ってあげようと手を伸ばした時点で、僕は手を止めた。
 駄目だ。
 僕はご主人様以外の人間に心を砕いてはいけない。

「次はいつ降りてくるか、解りますか?」
「あぁ……大体二週間に一回程度だが。そろそろきてもいい頃だ。いつも各所の教会で治療をしてくれている……」

 ――教会……

 魔女教の教えを信仰している人間が経営しているところだ。
 魔女を崇めているなんてどうかしている。
 そう吐き捨てるのは簡単だが、魔女に生かされている人間はそうでもしないと今日食べる食事にも事欠く次第なのは明白だ。
 如何にご主人様たちが良い生活を手に入れたかが解る。

「そうですか、ありが――――」

 僕がそう言い終わる前に、僕の身体に魔術で操られている植物の蔦が絡まった。


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