罪状は【零】

毒の徒華

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第6章 収束する終焉

第181話 犠牲

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 飲み込まれたアナベルの核が、ゲルダと同化しようとしているようだった。しかし、強大すぎるゲルダの力に彼女は抗うように話している。

「今の……うち……に翼を…………そう長くは……おさえ……られ……な……」

 ゲルダの身体がぎこちなく動き、抵抗するように暴れる。
 アナベルにも抑えきれないようだ。

「今しかない……」

 ガーネットが無理矢理起き上がり、僕から手を離してゲルダに向かって行く。

「ガーネット……死んじゃう……動かないで……」

 涙が溢れだして止まらない僕は、かすれた声でそう彼に懇願するが、それでも彼はゲルダへと向かって行く。
 止血のために凍らせている部分から尚も血が溢れだしてしまっていた。
 ガーネットはゲルダの背後に回り込み、そしてゲルダについている翼を掴みあげる。

「早……く……もう……抑えられ……ない……!」

 アナベルのその言葉と同時に、ゲルダのぎこちない動きは解かれた。

「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 ゲルダが最期の力を振り絞るように雄叫びをあげた。
 ゲルダは振り払おうと暴れる。ガーネットも懸命に翼を離すまいと手に力を籠める。

「ノエルの翼……返してもらう!」

 ガーネットは思い切りその翼を根元から引きちぎった。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 すると、アナベルの推論が正しかったと証明された。
 ガーネットの手についた僕の血に翼が反応しているのか、ゲルダに深く根ざしていた翼がゲルダから離れ、執拗に再生を繰り返していたのが止まった。
 これなら、翼を軸に再生できない。

 これなら殺せるかもしれない。

 しかし、それと同時にガーネットは肉塊に絡めとられてしまった。

「ガーネット!」

 急いでで切り離そうと、僕は懸命に立ち上がり魔術式を構築する。

 ――駄目だ……

 切り離そうに距離が近すぎる。満身創痍の僕ではまともに狙うことすらできない。暴れているから尚更だ。

「ノエル! 何をしている!? 私ごとこの魔女を殺せ!」
「そんなこと……できないよ! できるわけないよ!!」

 ゲルダは翼を取り返そうとガーネットに掴みかかる。
 しかしその手を逃れてゲルダを後ろから羽交い絞めにした。

 ――今、殺す勢いで魔術を撃ったら、ガーネットまで…………

「何を迷っている! 私は放っておいてもこのまま死ぬ……! 早くしろ…! 抑えていられない……!!」

 ゲルダは銀の針を何十本もガーネットの身体に刺した。

「アァアアアッ!! ノエル……! 早くしろ……! お前は本当に正気じゃないな……」

 ――正気じゃないのはガーネットの方だよ……!!

 自分の身を切るよりもずっとずっと僕は苦しかった。
 痛かった。
 涙で度々視界が霞む。
 それでも僕はやるしかなかった。

 ――恨むよ……ガーネット……僕にこんなことさせるなんて

 僕は泣きながら特大の魔術式を構築した。
 僕の魔力を察知したのかゲルダはガーネットを振り払おうとするのをやめて僕に針を構築して撃ってくる。
 僕は翼で身体を庇ったがその針は僕の身体のあらゆる部分に突き刺さった。
 翼に針が刺さるたびに僕は気絶しそうになるくらい激痛を感じた。
 腕や脚にも針が突き刺さる。
 しかし痛みなんて僕は気にしていなかった。

 ガーネットのことをなんとかして助けたくて、でもそれが無理だってことは解っていた。だからこのまま僕も撃つしかない。
 魔術式を構築し終えた僕は痛む身体を動かし、ゲルダに向かってそれを向けて放った。
 それと同時にゲルダも僕に向けて構築していた特大の魔術を撃ってくる。

 ――翼が剥がれても、まだこれだけの魔術が使えるのか……!

 空間が歪むほどの高エネルギーだった。
 網をやっと抜けられた魔族たちはその圧力に城の壁ごと外へ飛ばされる。
 城はもうただの瓦礫になっていた。
 僕らを中心に城が崩壊した。
 もう日が落ちようというほど外は暗くなっていた。

 ――くっ……なんて魔力だ……まだこんなに魔術を使えるなんて……

 あまりの魔力の強さに僕は身体が後ろにジリジリと下がっていく。
 ガーネットはゲルダを抑えていられなくなり、扉があった方向とは逆の方向に吹き飛ばされて、はるか後方の瓦礫に身体を打ち付けたのが見えた。

 僕はそれを見逃さなかった。

 ――あぁ……やっぱり甘いって怒られちゃうかな。正気じゃないって……

 でも僕は迷っていて本気を出せずにいたんだ。
 でももうその必要はない。

 ――終わりにしてやる。この命の引き換えになってもかまわない

 僕は最大出力で魔術を放った。
 均衡していた力が崩れ、ゲルダが押され始める。

 ――身体が痛い……魔道孔が痛む……

 でもこれで終わりにしたい。

 その強い気持ちで僕は本気で魔術を放ち続けた。
 城の半面どころか、その城の後ろにあった街の残骸すらも完全に吹き飛ぶ。
 ゲルダも細胞すら残らないくらいにバラバラに分解された。
 

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