文の継承者〜偉大なる先祖の陰を超えて〜

天月セツナ

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第弐刷 文豪の断片

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 僕がかすかな違和感を感じ取った日の放課後。

 僕はいつも通り一人で帰路についていた。

 初夏にもかかわらず猛烈な熱波が僕の皮膚をじりじりと焼いていた。

「あれあれ?君今一人?」

 前方から聞き覚えのないがどこか安心感を覚える声が聞こえてきた。

「だれだ?」
「私?私は芥川あくたがわ 美緒みお。名前である程度察しが付くと思うけど『羅生門』とかで有名な芥川龍之介の子孫」
「へぇ」
「それで?君は?」
「僕は津島 綾人。太宰治の子孫にあたる人間だ」

 突然現れて誰かと思ったが、自分と同じ文豪の血を継ぐものと分かった今となっては、不思議と抵抗感も薄れている。

「ってことは君も作家魔術師リテラリストなの?」
「リテラ?リスト?」
「ありゃその反応は想定外だなぁ」

 ん?リテラリスト?突然何のことやら。新手の宗教勧誘か?それとも中二病の戯言か?

 しかし、ここで逃げるように去るのもいくら相手が異常者だとは言え後味が悪い。勧誘に乗る気もないので僕は、物語を聞くような感覚で彼女の話を聞くことにした。

「とりあえず最初から説明する必要がありそうだね」
「まあいい。手短に頼むよ」
「まず、もともとこの世界は『物語』によってうごいていたんだ」
「そうか」
「それでね、その物語は決して空想なんかじゃなくて世界を動かす『力』そのものなんだよ」

 今のところ少し設定の凝っている異世界転生物のラノベの導入にしか聞こえないがいったいどんな物語なのか聞かせてもらおうじゃないか。

「そして太古から、物語を書く運命にある人間は『作家魔術師リテラリスト』と呼ばれてきたんだ。彼らは『言葉』を操り、世界の裏側でひそかに脅威と戦い続けていた」
「つまり、歴史上の文豪は皆、リテラリストってやつだったってわけか?」
「簡単に言うとそうだね。君の親族の太宰治も私のひいひいおじいちゃんの芥川龍之介もみんなリテラリストだったんだよ」

 いくら文豪の才能を受け継いでいたとしても、初心者がこんなに設定の凝った小説の導入を書けるとは思わない。

 ということは恐らく、ライトノベルに感化されたただの中二病の妄言…いや。あるいは本当……

 いやそんなわけがないか。

「そしてその文豪の子孫はみなリテラリストになる資格を持っているんだよ」
「資格?」
「資格は所有している本人が資格の存在を認知しない限り発動しないちょっと厄介な特性があるんだけどね、簡単に言ってしまえば特殊能力さ」
「…今僕は資格の存在を認知したわけだけど、もしかして僕にもその特殊能力とやらがあるのか?」
「もちろん!君は文豪の子孫だからね!」
「でも、今のところ変化はないぞ?」

 適当にでたらめを言っているだけだろう。僕はそう思っていた。だが今日が僕自身を

 書くことは裁くことと同義であり、
 語ることは奪うことである。

 そんな摩訶不思議で幻想にすら思える不思議な世界へ突き進む始まりの日だとは知らずに。

「一旦、この原稿用紙に短編小説を書いてよ」

 芥川がそういうと持っていたバッグから原稿用紙と今どき珍しい羽ペンを取り出して僕に渡してきた。

 僕は言われたとおりに自分なりの短編小説を原稿用紙三、四枚を使用して書き込んだ。

 小説を書くのは日ごろから行っているので、それ程時間をかけることなく書ききることができた。

「ふむふむ」

 原稿用紙を芥川に手渡すと、かなりのスピードで読み進めていった。

 数分が経過し、その間の沈黙を割って芥川が話し出した。

「えっとね、いいお知らせと悪いお知らせ1つずつあるんだけど、どっちからききたい?」
「そういうのは悪いほうから聞くのが相場だ」
「わかった。じゃあ悪いお知らせはね。君の持っている資格。つまり特殊能力は戦前から利用してはならない禁忌の力といわれていた能力なんだ」
「?」
「どんな能力かというと、『書いた物語が現実になる能力』通称、現実執筆ワールドライト
「ワールドライト?」
「うん。この能力を覚醒させた君は、この瞬間神に等しい存在となったんだ」

 ここに来てやっとぼろがでた。

 そんなうまい話があるわけがない。

 いくら僕が本に囲まれ、本とともに育った世間知らずだったとしても、流石にこの話が現実離れしている事くらいはわかる。

 はっきり言ってきく価値はないと思うが、一応聞いてあげないとかわいそうだ。

 俺は「いいお知らせ」とやらを聞くことにした。

「ほーん。そんなうまい話があるものかね。まあとりあえず、残りのいいお知らせとやらも教えてくれないか?」
「いいお知らせはね…ついさっき覚醒した能力を生かすチャンスがまさに今訪れたということだよ!!」

 芥川がニヤリと笑ったその瞬間。

 周囲の空気がガラス越しに見る世界のようにぐにゃりと歪む。

 あの時、原稿用紙に謎の言葉を綴った時と全く同じ感覚だった。

 ──僕はまだ知らない。これが、物語の始まりだと言うことに。
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