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《ピコン》
聞き慣れない音に意識がそれた。
音の根源を辿るとハルさんの携帯からだった。
普段鳴らない携帯が鳴っている。それだけでも気になるのに、電話派のハルさんがメッセージのやりとりをしている。それが余計に俺の好奇心を刺激した。
なぜメッセージを。相手は誰なのか。
ダメだと分かっていても手は無意識に携帯へと伸びていた。
裏返しで置かれていたそれを取り画面をみる。
ーーーーーーーーーーー
[ゆき]
そうなの?
ありがとう。私も愛してるわ。
ーーーーーーーーーーー
「ゆき…?…あいしてる…」
ドクンドクンと心臓が嫌な音をたて始めた。
考えたくないと思考が放棄したがっている。
それでも、俺は、ひとつの結論に辿り着く。
恋人なのでは、と。
決してハルさんも俺と同じ気持ちだなんて言わない。
けれど、多少なりとも気に入ってもらえてるんじゃないかとは思っていた。
なのに恋人がいたなんて。それも女の人の。
…知らなかった。
結局俺達はただのセフレに過ぎなくて、ハルさんにとって俺なんて何でもない切ろうと思えばすぐにでも切れる存在だったという事だ。寧ろ、愛し合っているふたりをずっと邪魔していたんだ、俺は。
確かに、昨日からやたら携帯触ってるなと思っていた。仕事かなと呑気に考えていた自分を殴ってやりたい。
だってきっとハルさんはこの【ゆき】って人とずっと甘いやり取りをしていたのだから。
心臓が痛い。
醜い汚い感情が溢れ、涙まで出てきた。
恋人がいるならセフレと関係持つなよ。そう思うのにこの関係があったからこそ俺は彼の傍にいられたのだ。
セフレになれて、たとえ遊びだとしても好きな人に抱いてもらえてよかったじゃないか。
そう区切りをつけようとしても俺の心は嫌だと叫ぶように締め付けてくる。
そうだよ。あの格好良いハルさんに恋人がいないわけない。その可能性を考えなかった俺が馬鹿だっただけ。
手が震えて携帯を持っていられなくなり、
元にあった場所に裏返しで戻す。
流れていた涙もゴシゴシと乱暴に拭う。
……これからどうしよう。
もうこれ以上思い合っているふたりの邪魔をしたくない。
悩み始めた時、昨日の学食での出来事が思い出された。
『押してダメなら引いてみろ』
佐藤から聞いた時は出来ないと思った。ハルさんと距離を置くなんて耐えられないし今でも毎日会いたいと思っているから。
けど、これはいいアイデアかもしれない。
俺が身を引いたらハルさんは【ゆき】さんと幸せに暮らせるだろう。かねてより、ハルさんの幸せが俺の幸せだから佐藤の考えとは違うものの、ここは潔く離れるのが良案だと思う。
あの時はその場しのぎで”できれば”なんて返したけれどまさか本当に実行する日が来るなんて。…恋人になれるとか言ってたけどやっぱり俺はその立ち位置になれないんだ。だからこそ、ハルさんの幸せのためにも俺から離れよう。
今日まで【ゆき】さんが何も言ってこなかったって事はまだ俺の存在は知られていないのかもしれない。けど、きっと知られたら修羅場になる。そうなったら不利なのは俺。ただのセフレならまだしも男のセフレとか特に。
蔑まれるのならまだいい、もし【ゆき】さんが別れると言って二人が別々になってしまったら…俺は罪悪感で死んでしまう。
いい、頃合なのかな。
神様がそろそろ現実を見ろって言ってくれているのかも。
「よし、気を引き締めろ!俺!泣いてお別れなんて男じゃない!笑顔だ笑顔!」
パンッと自分に喝を入れる。
ジンジンと痛む頬に落ち込んでいた気分が少しマシになった気がする。
あれから俺は、いつも通り昼頃までハルさんの家にお邪魔していた。
急に帰ると言ったら心配されるだろうと思ったのもあるけれど、これで最後なんだからちょっとでも長く一緒にいたいという俺の我儘を優先した。お陰でたっぷりハルさんを補充できたと思う。
家に着いてすぐ、これまでのハルさんとの思い出が頭を巡った俺は泣いて泣いてそれはもうみっともない程泣いた。
崩れ落ちた拍子にぶつけた膝が痛みを主張していたけれど動く気力はなかった。
泣いてはボーッとして、思い出してまた泣いてを繰り返しどれだけ経ったか。
漸く涙が止まった俺は下げたままだったリュックから携帯を取り出し時間を確認した。
午前3時。
泣きすぎだ。
メッセージが何件か来ており見るとハルさんと佐藤と友人らからだった。
とりあえず佐藤にだけはこれまで相談に乗ってもらった事だし報告すべきかと考え《アドバイスをありがとう。気持ちの区切りがついた》とだけ送った。
すぐ既読になって《どういうことが説明しろ》って返事が来たけどまた泣いてしまいそうだから無視した。
友人らからは《このテレビ見たか》とか《今テレビに出ている子が可愛い》だとか重要じゃない内容が来ていたので、申し訳ないけれど未読のまま放置することにした。
ハルさんからは《家に着いたか》と毎回会った日に聞かれる定型文が送られてきていた。
いつもなら《着いたよ!おやすみ》と返していたけれどもう俺とは終わったのだ。セフレが図々しくも連絡先を持っておくべきじゃない。
というのは建前で、この恋を引き摺る事は絶対分かっていた俺は、気持ちの整理をつける為にもそのまま返事はせず連絡先からハルさんの名前を消した。
その後また泣いたのは言わずもがなのこと。
聞き慣れない音に意識がそれた。
音の根源を辿るとハルさんの携帯からだった。
普段鳴らない携帯が鳴っている。それだけでも気になるのに、電話派のハルさんがメッセージのやりとりをしている。それが余計に俺の好奇心を刺激した。
なぜメッセージを。相手は誰なのか。
ダメだと分かっていても手は無意識に携帯へと伸びていた。
裏返しで置かれていたそれを取り画面をみる。
ーーーーーーーーーーー
[ゆき]
そうなの?
ありがとう。私も愛してるわ。
ーーーーーーーーーーー
「ゆき…?…あいしてる…」
ドクンドクンと心臓が嫌な音をたて始めた。
考えたくないと思考が放棄したがっている。
それでも、俺は、ひとつの結論に辿り着く。
恋人なのでは、と。
決してハルさんも俺と同じ気持ちだなんて言わない。
けれど、多少なりとも気に入ってもらえてるんじゃないかとは思っていた。
なのに恋人がいたなんて。それも女の人の。
…知らなかった。
結局俺達はただのセフレに過ぎなくて、ハルさんにとって俺なんて何でもない切ろうと思えばすぐにでも切れる存在だったという事だ。寧ろ、愛し合っているふたりをずっと邪魔していたんだ、俺は。
確かに、昨日からやたら携帯触ってるなと思っていた。仕事かなと呑気に考えていた自分を殴ってやりたい。
だってきっとハルさんはこの【ゆき】って人とずっと甘いやり取りをしていたのだから。
心臓が痛い。
醜い汚い感情が溢れ、涙まで出てきた。
恋人がいるならセフレと関係持つなよ。そう思うのにこの関係があったからこそ俺は彼の傍にいられたのだ。
セフレになれて、たとえ遊びだとしても好きな人に抱いてもらえてよかったじゃないか。
そう区切りをつけようとしても俺の心は嫌だと叫ぶように締め付けてくる。
そうだよ。あの格好良いハルさんに恋人がいないわけない。その可能性を考えなかった俺が馬鹿だっただけ。
手が震えて携帯を持っていられなくなり、
元にあった場所に裏返しで戻す。
流れていた涙もゴシゴシと乱暴に拭う。
……これからどうしよう。
もうこれ以上思い合っているふたりの邪魔をしたくない。
悩み始めた時、昨日の学食での出来事が思い出された。
『押してダメなら引いてみろ』
佐藤から聞いた時は出来ないと思った。ハルさんと距離を置くなんて耐えられないし今でも毎日会いたいと思っているから。
けど、これはいいアイデアかもしれない。
俺が身を引いたらハルさんは【ゆき】さんと幸せに暮らせるだろう。かねてより、ハルさんの幸せが俺の幸せだから佐藤の考えとは違うものの、ここは潔く離れるのが良案だと思う。
あの時はその場しのぎで”できれば”なんて返したけれどまさか本当に実行する日が来るなんて。…恋人になれるとか言ってたけどやっぱり俺はその立ち位置になれないんだ。だからこそ、ハルさんの幸せのためにも俺から離れよう。
今日まで【ゆき】さんが何も言ってこなかったって事はまだ俺の存在は知られていないのかもしれない。けど、きっと知られたら修羅場になる。そうなったら不利なのは俺。ただのセフレならまだしも男のセフレとか特に。
蔑まれるのならまだいい、もし【ゆき】さんが別れると言って二人が別々になってしまったら…俺は罪悪感で死んでしまう。
いい、頃合なのかな。
神様がそろそろ現実を見ろって言ってくれているのかも。
「よし、気を引き締めろ!俺!泣いてお別れなんて男じゃない!笑顔だ笑顔!」
パンッと自分に喝を入れる。
ジンジンと痛む頬に落ち込んでいた気分が少しマシになった気がする。
あれから俺は、いつも通り昼頃までハルさんの家にお邪魔していた。
急に帰ると言ったら心配されるだろうと思ったのもあるけれど、これで最後なんだからちょっとでも長く一緒にいたいという俺の我儘を優先した。お陰でたっぷりハルさんを補充できたと思う。
家に着いてすぐ、これまでのハルさんとの思い出が頭を巡った俺は泣いて泣いてそれはもうみっともない程泣いた。
崩れ落ちた拍子にぶつけた膝が痛みを主張していたけれど動く気力はなかった。
泣いてはボーッとして、思い出してまた泣いてを繰り返しどれだけ経ったか。
漸く涙が止まった俺は下げたままだったリュックから携帯を取り出し時間を確認した。
午前3時。
泣きすぎだ。
メッセージが何件か来ており見るとハルさんと佐藤と友人らからだった。
とりあえず佐藤にだけはこれまで相談に乗ってもらった事だし報告すべきかと考え《アドバイスをありがとう。気持ちの区切りがついた》とだけ送った。
すぐ既読になって《どういうことが説明しろ》って返事が来たけどまた泣いてしまいそうだから無視した。
友人らからは《このテレビ見たか》とか《今テレビに出ている子が可愛い》だとか重要じゃない内容が来ていたので、申し訳ないけれど未読のまま放置することにした。
ハルさんからは《家に着いたか》と毎回会った日に聞かれる定型文が送られてきていた。
いつもなら《着いたよ!おやすみ》と返していたけれどもう俺とは終わったのだ。セフレが図々しくも連絡先を持っておくべきじゃない。
というのは建前で、この恋を引き摺る事は絶対分かっていた俺は、気持ちの整理をつける為にもそのまま返事はせず連絡先からハルさんの名前を消した。
その後また泣いたのは言わずもがなのこと。
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