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21(ハル)
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大通りから少し外れた駐車場に車を停めて向かった先は、大学。
奏多に会うためだ。
「ここか…大学なんて久しぶりだな…」
懐かしむ気持ちは一瞬で過ぎ去り、
襲ってきたのは俺の中で月日を増すごとに増えていた、嫉妬という感情。
みっともないほど、薄暗い感情が止まらない。
辻原さんから貰ったもうひとつの報告書には、奏多のセフレ兼友人の情報が記載されていた。
はじめは目を疑ったその情報は、読み進めていくうちに辻原さんがそういう結論に至った根拠が分かり、認めざるを得なかった。
あいつは、俺ではなく友人を選んだ。
ずっとあいつの話題に上がっていた、田所、佐藤、石田、中西。
まさかそのうちの二人と寝ていたなんて。考えもしていなかった。
同い年で同じ大学の、それも自身の友人と…なんて。
いや、むしろ年の離れたおっさんより同い年で気の合う友人の方が、あいつにとって最善なのかもしれない。
週末の短い時間じゃなく平日の多くの時間を共にしてきた友人たちは、俺よりも奏多のことを理解しているはずだから。
だから、はなから勝ち目のない俺は辻原さんも言っていた通りスッパリキッパリあいつを諦めたほうがいい。
連絡を絶ったあいつの意思を汲み取って…。
そう思っているのに、俺の足は自然とここへ来ていた。
「ひとこと…交わすだけ…」
それで諦められるのか。
分からない。
なぜなら恋を自覚したのも経験したのも奏多が初めてだから。
失恋の癒し方なんて未経験の俺が知るはずもない。
「きっついな…」
振られる覚悟を決め門の前で待ち伏せる俺の傍を、学生はチラチラと見ては通り過ぎていく。その中に探し求めている人物の姿はない。
あいつの講義が何限目からなのか、講義があるのかさえ知らない。
無意味に待つだけになるかもしれないのに、哀れな俺はもしもを想像して”奏多に会える”という期待を捨てられず、過ぎ行く人々をじっと眺め続けた。
朝早くから待ち続けていくらか経った頃、
探し求めていた姿が遠くに見えた。
イヤホンを付けこちらに歩いてくる、愛しい人の姿が。
ドキドキと早鐘を打つ心臓をぎゅっと握りしめ落ち着かせる。
額に汗が伝うのがわかった。柄にもなく緊張しているのだ。
まだあいつは気付いてない。
しかも運良くあの邪魔な友人らもいない。
チャンスだ。
前のめりになって今にも駆け出しそうになっている足を何とか踏みとどまらせる。
まだ早い。もう少し距離が縮まってから…。
奏多がイヤホンを外すのが見えた。
どう気付いてもらうか考えていたのに、その姿を見た瞬間、声が勝手に出ていた。
「か、奏多!」
声が詰まり聞こえたか分からない小さな音だったと思う。
だけどあいつは立ち止まってキョロキョロと辺りを見渡した。
俺だ、俺が声をかけた。こっちを向け。
そう思う気持ちと、
俺を視界に捉えてあいつはどんな顔をする?顰められたら?拒絶されたら?
目が合う…そう思ったとき、臆病な俺は奏多の視線に怯え、自分が呼んだにも関わらず顔を背けた。
ヘタレ。情けない。意気地無し。
後悔が後を絶たない。
向き合うことをせず自らそのチャンスを逃したのだから。
再び歩き出した奏多。でも顔はやはり上げられない。
奏多の口から聞きたいと願っていたはずなのに。
いつも履いている奏多のお気に入りの靴が視界の端に見えた。
すぐそこに、いる。
もう一度、
チャンスが、
と思うのに臆病な自分に囚われた体は全くと言っていいほど、動かない。
その時、手元の調査報告書が目に写った。
友人とあいつの仲を証明する、俺がここに来た原因だ。
グシャッと握りしめたのは資料か、それとも俺の惰弱な心か。
それまで抑えられていた嫉妬心がふつふつと湧き上がってくるのがわかった。
気付いた時には、彼を家に連れ込んでいた。
奏多に会うためだ。
「ここか…大学なんて久しぶりだな…」
懐かしむ気持ちは一瞬で過ぎ去り、
襲ってきたのは俺の中で月日を増すごとに増えていた、嫉妬という感情。
みっともないほど、薄暗い感情が止まらない。
辻原さんから貰ったもうひとつの報告書には、奏多のセフレ兼友人の情報が記載されていた。
はじめは目を疑ったその情報は、読み進めていくうちに辻原さんがそういう結論に至った根拠が分かり、認めざるを得なかった。
あいつは、俺ではなく友人を選んだ。
ずっとあいつの話題に上がっていた、田所、佐藤、石田、中西。
まさかそのうちの二人と寝ていたなんて。考えもしていなかった。
同い年で同じ大学の、それも自身の友人と…なんて。
いや、むしろ年の離れたおっさんより同い年で気の合う友人の方が、あいつにとって最善なのかもしれない。
週末の短い時間じゃなく平日の多くの時間を共にしてきた友人たちは、俺よりも奏多のことを理解しているはずだから。
だから、はなから勝ち目のない俺は辻原さんも言っていた通りスッパリキッパリあいつを諦めたほうがいい。
連絡を絶ったあいつの意思を汲み取って…。
そう思っているのに、俺の足は自然とここへ来ていた。
「ひとこと…交わすだけ…」
それで諦められるのか。
分からない。
なぜなら恋を自覚したのも経験したのも奏多が初めてだから。
失恋の癒し方なんて未経験の俺が知るはずもない。
「きっついな…」
振られる覚悟を決め門の前で待ち伏せる俺の傍を、学生はチラチラと見ては通り過ぎていく。その中に探し求めている人物の姿はない。
あいつの講義が何限目からなのか、講義があるのかさえ知らない。
無意味に待つだけになるかもしれないのに、哀れな俺はもしもを想像して”奏多に会える”という期待を捨てられず、過ぎ行く人々をじっと眺め続けた。
朝早くから待ち続けていくらか経った頃、
探し求めていた姿が遠くに見えた。
イヤホンを付けこちらに歩いてくる、愛しい人の姿が。
ドキドキと早鐘を打つ心臓をぎゅっと握りしめ落ち着かせる。
額に汗が伝うのがわかった。柄にもなく緊張しているのだ。
まだあいつは気付いてない。
しかも運良くあの邪魔な友人らもいない。
チャンスだ。
前のめりになって今にも駆け出しそうになっている足を何とか踏みとどまらせる。
まだ早い。もう少し距離が縮まってから…。
奏多がイヤホンを外すのが見えた。
どう気付いてもらうか考えていたのに、その姿を見た瞬間、声が勝手に出ていた。
「か、奏多!」
声が詰まり聞こえたか分からない小さな音だったと思う。
だけどあいつは立ち止まってキョロキョロと辺りを見渡した。
俺だ、俺が声をかけた。こっちを向け。
そう思う気持ちと、
俺を視界に捉えてあいつはどんな顔をする?顰められたら?拒絶されたら?
目が合う…そう思ったとき、臆病な俺は奏多の視線に怯え、自分が呼んだにも関わらず顔を背けた。
ヘタレ。情けない。意気地無し。
後悔が後を絶たない。
向き合うことをせず自らそのチャンスを逃したのだから。
再び歩き出した奏多。でも顔はやはり上げられない。
奏多の口から聞きたいと願っていたはずなのに。
いつも履いている奏多のお気に入りの靴が視界の端に見えた。
すぐそこに、いる。
もう一度、
チャンスが、
と思うのに臆病な自分に囚われた体は全くと言っていいほど、動かない。
その時、手元の調査報告書が目に写った。
友人とあいつの仲を証明する、俺がここに来た原因だ。
グシャッと握りしめたのは資料か、それとも俺の惰弱な心か。
それまで抑えられていた嫉妬心がふつふつと湧き上がってくるのがわかった。
気付いた時には、彼を家に連れ込んでいた。
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胸がキュンキュンしました💕
ありがとうございます😊
更新ありがとうございます😊
楽しみにしておりました💕
受け攻めのすれ違いが愛しいです!
続き楽しみにしてます!