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第五章

アヤメ

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 アヤメ!? あいつ、何をやっている?

 壁に耳を当てていったい?

 もしかして、あいつを苛めていた奴が、この家の子供だったのだろうか?

 俺はアヤメの肩に止まった。

「え!? なに!?」

 アヤメが驚いて俺を見る。

「鳥さん?」
「ピー!」

 アヤメは俺の嘴に人差し指を立てる。

「可愛いね。おまえ」
「ピー!」
「ちょっと、静かにしてもらっていいかな?」
「ピー!?」
「この家に集まっている人達の話を聞いて、報告しなきゃならないの?」

 なんだって!? どういう事だ?

「ピー!?」

 不意にアヤメは涙を流し出した。

「ごめんね。私、本当はこんな事をしたくないの……こんな事……」

 俺は中庭に戻って、レンゲの肩に止まった。

「うわ!? なんだ! 鳥?」

 驚いているレンゲに俺は話しかけた。

「チョットコイ、チョットコイ」
「え? あなたは? まさか?」

 気が付いてくれたようだ。

「隊長。ちょっと、用を足しに」

 そう言って、レンゲは肩に俺を止めたまま家の中に入った。

「ランドール殿ですか?」
「ソウダ」
「何かあったのですか?」
「家ノ外、アヤメ、立チ聞キシテイタ」
「ええ!?」
「今ハ、泣イテイル」
「分かりました。様子を見に行きます」

 レンゲは街道に出た。

「アヤメ。そこで何をしている?」
「あなたは?」

 アヤメはレンゲの姿を見て驚いていた。

「泣いていたのか?」

 アヤメは慌てて涙を拭いた。

「いえ……ただ、目にゴミが……」
「そうか」

 いや、絶対違うだろ。

「……」

 アヤメが何か小声で言った。

「どうした? アヤメ」
「裏切って、いませんよね?」
「裏切る? 誰が、誰を?」
「先生は、フィリス様を、裏切っていませんよね?」

 フィリス? なぜアヤメがフィリスを?

「フィリス? 誰だ? それは」
「先生を雇っていた人です。もし、先生が都に帰ってきたら、様子を見に行くように、私命令されていたのです」

 なんだって?

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