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第五章

アルベルトキャノン スタンバイ

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 新兵器の名称が決まったちょうどその時、ウッド・ゴーレム隊が視認可能距離に入った。

 今、少しでも移動要塞の足を上げれば、敵に発見される。

 こっちは鳥分体で向こうの様子は見えているが……

 現れたウッド・ゴーレムは二体。一体は、二キロほど手前で停止している。

 恐らく、先行した二体が俺と接敵したら、あの一体が都に戻って報告をするのだろう。

 俺としてはそれに気が付かないふりをして、都へ報告に行かせればいい。

 後方の奴はいいとして、いよいよ先行する二体が射程距離に入った。

 ところで後方の一体は、前回のウッド・ゴーレムとほとんど変わらないが、先行する二体は少し形状が違う。

 ウドウ砲と思われる筒状物体が、両肩に一本ずつついている。

 まるで、ガ○キ○ノンだ。

 見とれている場合じゃない。攻撃準備。

「アルベルトキャノン、スタンバイ」

 俺は二門の砲身を一体のウッド・ゴーレムに向けた。もちろん木々に遮られて直接は見えないが、鳥分体のおかけで方向は分かる。

「徹甲弾装填。薬室チャンバー内圧力上昇、エネルギー充填八十%……九十%……百%……ん?」

 しいちゃんが、ふいに俺の裾を引っ張った。

「なあに? しいちゃん」
「ランドール。その手順、あんたが一人でやっているのでしょ? いちいち、声に出して読み上げる必要あるの?」
「いいじゃないか! こういう時、手順を読み上げるのは男のロマンだよ」
「そうなの。本当に男って馬鹿ね」

 悪かったな……いや、しいちゃんは戦争の犠牲で死んだんだったな。あまり、こういうのに感心しないのか。

「ランドール。一つだけ言っておくわ。人間が生きていくために戦いは避けられない。だから、あたしは戦いそのものを否定する気はない。でも、戦いを楽しむようになってはダメよ」

 楽しむ? いや……確かに俺は、この戦いにわくわくしていた。いつの間にか、楽しいと思っていた。

「水をさしてゴメンね。続けて、ランドール」
「ああ」
「戦いを楽しむなと言っても、無理がある事は分かっているわ。でも、戦いを楽しむために、無用な戦いを引き起こすような事はやらないでね」

 しいちゃんは、いつになく悲しげな顔をしていた。
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