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第七章

立ち聞き

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 やっと終わったか。では、そろそろ声をかけるか?

 いや、しばらく時間を置いてからにしよう。でないと覗いていたのが、バレバレだからな。

「フィリスや」

 ウドウ王子は、膝の上にいるフィリスに声をかけた。

「ワシは今回の事で、よく分かった。ワシにとっておまえがどれだけ大切か」
「え? そんなウドウ様。もったいない」
「まあ、聞け。おまえがスライムであった時、おまえをサクヤに変化させたな。あの時は、おまえをサクヤの代用品としか考えていなかった」
「……」
「だが、今のおまえはサクヤの代わりではない。フィリスという一人の女だ。金でも力でもなく、ウドウという男を慕ってくれている一人の女だ」
「ウドウ様……しかし……サクヤ様は」
「ワシは、ずっと思い違いをしていたようだ」
「思い違い?」
「サクヤは、ワシを慕ってくれていると思っていた。ただ……おまえとの行為を見てしまったショックで、ワシを避けるようになったと……時間を置いて頭を冷やせば、いずれは関係を修復できると……だが、違った。サクヤはワシの事を最初から嫌っていたのだ。嫌っているくせに、慕っているフリをしていた酷い妹だ」

 そんなの、嫌われている事に気が付かないお前が悪い。

「ワシはもうサクヤなどどうでもよくなった。フィリス。おまえさえいればな」
「ウドウ様! 嬉しい」
「しかし、ワシを愚弄したサクヤと、フィリスを苛めたランドールにはいつか復讐せねばな」

 やはり、そう来るか。

「だが、その前に、火の国の馬鹿王を片付けねばならぬ。あの馬鹿は火薬を手に入れただけで、ウッド・ゴーレムに勝てると錯覚してしまったようだ」
「申し訳ありません。ウドウ様。私が製法を、漏らしてしまったばかりに……」
「心配ない。この世界でウッド・ゴーレムに勝てるのは、エリスの力を得たランドールだけだ。次の戦いで、火の国の王には、火薬を使えば勝てるなどという幻想を打ち砕いてやる。二度と我が国に攻め込もうなどという気を起こせないようにな」
「では、ランドールへの復讐はその後ですね?」
「ふふふ……ランドールか。休戦期間を半年から三か月に値切ってやったが、三か月の間に周到な準備を整えているだろうな」
「ええ。ウドウ様。何か策があるのですか?」
「ある」

 なに? それはぜひ聞いておかないと……

「三か月の間に城壁を築き、武器を作り、兵士を鍛えている事だろう。ウッド・ゴーレム用の落とし穴も作っているかもしれんな」

 落とし穴か。それは作る予定だ。

「だが、ワシは行かん」

 なに?

「あの……行かないと言うのは?」
「ワシは休戦期間を三か月にしろと言ったが、三か月経ったら、攻めていくなどと約束した覚えはない」

 こいつ……侮れない奴だ。

「だが、奴は三か月経ったら、いつ攻めてくるか分からないワシの陰に怯えて軍備を整え続けるだろう。そして、作ったばかりの国の国力を疲弊させていく事だろう」
「それではウドウ様」
「ワシが攻めていくのはその時だ。それも正面から攻めるのではなく、疲弊した奴の国に間者を送り込み、内乱を起こさせてその隙に攻め込むのだ」
「素晴らしいお考えです。ウドウ様」

 そんなの全然素晴らしくないよ。ていうか、俺がそれを知ってしまった以上、もう無理だけどね。

「それにしても、いつまでも『奴の国』では呼びにくい。ランドールの奴、さっさと国の名前ぐらい決めんか」

 おっと! 肝心に事を忘れていた。しかし、ここで出ていくわけにいかんな。
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