クラーゲン短編集

クラーゲン

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バイク旅行

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 しばらくして、俺は大蛇の開けた穴から外へ出た。

 雨はすっかり止んで日の光がさしている。

 振り向いて俺が出てきた家を見ると、崩壊寸前のボロ家がそこにあるだけだった。

「無事だったのですね」

 声の方を見ると、ライダースーツに身を包んだ髪の長い女の子がいた。

 さっきガソリンスタンドでお守りをくれた巫女さん?

「君……あのお守り袋には、いったい何が入っていたんだ?」
「式神ですよ。蛇神様の」
「蛇神?」
「式神はもう消しましたが、その腹からはあれが出てきました」

 少女の指差す先にあったのは、巨大な蝦蟇ガマガエルの死骸。

「蝦蟇の妖怪は、昔から殿方の精気が好きでしてね。人の女に化けて殿方をたぶらかすなんてよくやるのです」

 じゃあ、俺はあの蝦蟇の化け物とやっていたのか!?

「最近この辺りで被害に遭う人が多かったので、張り込みをしていたのです」
「という事は、君は妖怪退治をするために、俺を囮にしたのか?」
「まあ、そういう事になるけど……それじゃあ、私があのガソリンスタンドで『この先で妖怪が出るから行くな』と言ったら信じましたか?」

 いや……信じなかっただろうな。

「それに蝦蟇妖怪の結界は、女は入れないし、男性の退魔士を呼ぶ暇はなかった。だから、あなたには護身用に式神を持たせたのですよ」

 いずれにせよ、彼女に助けられた事に代わりはなかったという事か。

 俺は彼女に礼を言うと、再びバイクに跨って気ままな旅に戻っていった。


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