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玖
人であるためには
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「あの人、千代ちゃんて言うの?」
俺の質問に、四方津夫人はニヤッと笑って答えた。
「知らないね。今日、初めて会ったばかりさ」
「そうだと思った」
「まあ、あの刑事も、本気でそんな事信じちゃいないさ。ちょいと事務所で、油を搾ってやろうって事だろ」
少し、可哀そうな気もするが……
「それより、あたしはいつまで手を上げていればいいんだい? いい加減手が疲れるんだけどね。手錠をかけるか、釈放するかどっちかにしてくれないかい」
そうだった。もちろん釈放するわけはないが……
「抵抗の意思は?」
「あるわけないだろう。ピストル持った保安官に、弓矢を構えた怖い小娘、投げ矢を構えた怖いお兄さんに囲まれて、か弱いあたしに何ができる」
いや、あんたか弱くないだろう。
「では、手錠をかけるから後ろを向いて」
「その前に、一分だけ時間をくれないか。逃げたり抵抗したりはしないから」
なんのつもりだ? しかし、なぜか信用していいような気がした。
「いいだろう」
四方津夫人は、床に横たわっている竜二のところへ行き、開いたままの瞼を閉じさせた。
そこで、手を合わせる。
「馬鹿だね。あんたは。物は盗っても、命は盗るなとあれほど言ったのに、とうとうこんな姿になって」
この人と、竜二の間に何があったんだろ?
「保安官。竜二を殺して、心は痛はまないのかい?」
「な!」
くそ! 何が言いたい……殺したくて殺したわけでは……
「その様子じゃ、そうとう痛いようだね。くくくく」
痛くて悪いか! 罪悪感があって何が悪い!
「それで、いいんだよ」
え?
「痛みを感じている間は、あんたはまだ人間だよ。痛みを感じなくなったら、あんたは人間じゃなくなる。人でなしだ。覚えておきな」
四方津夫人はこっちを向いた。
「竜二が、最初に殺したのは誰だと思う?」
「さあ?」
「自分の母親だよ」
「な?」
「男にだらしない、子供には暴力をふるう、ろくでもない母親だったけどね。いつの間にか、竜二の身体が自分よりでかくなっている事に気が付かないで、殴っていたら反撃されて死んじまった。馬鹿な女だったね。それ以来、竜二は人でなしになってしまった。人殺しても痛みを感じなくなってしまった。あたしは、あいつに盗みのテクニックを教えながらも、なんとか人間に戻してやろうとしたのだけどね。あたしには無理だった」
四方津夫人は、腕時計に目をやった。
「とっくに一分過ぎていたね。さあ、どこにでも連れて行きな」
四方津夫人が差し出した手に、俺は手錠をかけた。
俺の質問に、四方津夫人はニヤッと笑って答えた。
「知らないね。今日、初めて会ったばかりさ」
「そうだと思った」
「まあ、あの刑事も、本気でそんな事信じちゃいないさ。ちょいと事務所で、油を搾ってやろうって事だろ」
少し、可哀そうな気もするが……
「それより、あたしはいつまで手を上げていればいいんだい? いい加減手が疲れるんだけどね。手錠をかけるか、釈放するかどっちかにしてくれないかい」
そうだった。もちろん釈放するわけはないが……
「抵抗の意思は?」
「あるわけないだろう。ピストル持った保安官に、弓矢を構えた怖い小娘、投げ矢を構えた怖いお兄さんに囲まれて、か弱いあたしに何ができる」
いや、あんたか弱くないだろう。
「では、手錠をかけるから後ろを向いて」
「その前に、一分だけ時間をくれないか。逃げたり抵抗したりはしないから」
なんのつもりだ? しかし、なぜか信用していいような気がした。
「いいだろう」
四方津夫人は、床に横たわっている竜二のところへ行き、開いたままの瞼を閉じさせた。
そこで、手を合わせる。
「馬鹿だね。あんたは。物は盗っても、命は盗るなとあれほど言ったのに、とうとうこんな姿になって」
この人と、竜二の間に何があったんだろ?
「保安官。竜二を殺して、心は痛はまないのかい?」
「な!」
くそ! 何が言いたい……殺したくて殺したわけでは……
「その様子じゃ、そうとう痛いようだね。くくくく」
痛くて悪いか! 罪悪感があって何が悪い!
「それで、いいんだよ」
え?
「痛みを感じている間は、あんたはまだ人間だよ。痛みを感じなくなったら、あんたは人間じゃなくなる。人でなしだ。覚えておきな」
四方津夫人はこっちを向いた。
「竜二が、最初に殺したのは誰だと思う?」
「さあ?」
「自分の母親だよ」
「な?」
「男にだらしない、子供には暴力をふるう、ろくでもない母親だったけどね。いつの間にか、竜二の身体が自分よりでかくなっている事に気が付かないで、殴っていたら反撃されて死んじまった。馬鹿な女だったね。それ以来、竜二は人でなしになってしまった。人殺しても痛みを感じなくなってしまった。あたしは、あいつに盗みのテクニックを教えながらも、なんとか人間に戻してやろうとしたのだけどね。あたしには無理だった」
四方津夫人は、腕時計に目をやった。
「とっくに一分過ぎていたね。さあ、どこにでも連れて行きな」
四方津夫人が差し出した手に、俺は手錠をかけた。
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