ケモノ

五十嵐 柚木

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プロローグ

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 歩いていた、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、そうして、僕はたどり着く。そんなここは全てが始まった場所。そこで僕は今から身を投げる。

 電灯が道を弱々しく照らす。そんな中、僕は、歩いてとある場所を目指す。
 歩いていると近くの学校から、騒がしい声が響いてくる。あぁ、懐かしいものだ。ちょうど今から1年ほど前ぐらいだろうか、僕も学舎で勉強をしていたものだ。そんな僕も今では世間一般で、「大人」と呼ばれる年となってしまった。
「時が経つのは早いな」
 自嘲気味に僕は呟き、歩くスピードを早める。
 そこに着く頃には、あたりを紅く染めていた日は完全に落ち、あたりを闇が支配していた。
「やっと着いた。でも、これで終わる」
 そう呟いて僕はとある廃ビルに入る。廃ビルを登って、登って、登って、登った後重々しい扉を押し開ける。
 扉を開けると冷たい風がこちらへ吹いてきた。
「うぅ、さぶい。パパッと終わらせよ」
そんなことを呟くと、カランと音が僕の耳に入る、先客がいたのか、と僕は嘆息しながら、音の方向を見る。そこには少女がいた、小柄で歳は僕とさほど変わらないぐらいだろうか、顔は辺りの暗さのせいでよくわからない。
「やぁ、ここで何をしてるのかな?ここは寒いし危ない、早くお家に帰りなさい」
少女の後ろには足場が無いため、いざという時のために、僕は少しずつ少女との距離を縮めていく。
「来ないで!」
少女が僕に叫ぶ、
「来ないでって言ったって、僕が行かなかったら多分、君、ここから身を投げるでしょ?」
「あなたには関係ないことでしょう」
「うーん、関係はあるかな」
「どんな関係ですか」
「それを話すためにこっちにおいで、少なくとも、今の状況で話す気はないし、君を身投げさせる気もないよ」
僕が彼女の気を逆撫でしないように言う。が、彼女は「わかりました」と言うと、軽く後ろに飛ぶ。
「バカ!」
 言葉より先に体が動いた。ここで僕が彼女を助ける義理はないのだが、それでもこの場所で死なれるのとは話が違う。
 間一髪のところで僕は彼女の手首を掴む事ができた。
 「バカ」
「何故助けたんですか」
「この場所で人が死んでほしくないから」
「別の場所ならいいんですか」
「別の場所で、尚且つ僕の目に入らない所ならいい」
そう言って僕は渾身の力を込め彼女を引き上げる。
 流石に久しぶりにこんな力を出した。僕は肩で息をし、引き上げた彼女を見る。暗がりで、あまり見えなかった顔はとても整っており、その容姿はまさに、「美少女」と言う言葉がピッタリだった。
 「で、美少女くん、何故、投身自殺なんてしようとしたんだい?」
「あなたには関係ないです」
「そんな冷たいこと言わないで、ほら、僕に言ってご覧?」
にこやかに僕が微笑みながら、彼女の答えを待っていると、
「貴方は、何故、この場所で人が死んでほしくないんですか?」
そんな質問が返ってきた。そんな問いに僕は、
「それはね」
そうして語り出す、ここで起きた事を。
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