ケモノ

五十嵐 柚木

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6.たった一度の人生

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 そんなこんなあり、僕らは、再びスタジオに戻ってきていた。
「お前にしては珍しいじゃん」
そんな、不機嫌そうな声で僕に話しかけてくる南。
「ごめん」
僕の謝罪の後、少し静寂が走る。その静寂を破ったのは僕たちのバンドのドラマー麻枝 未玖マエダ ミクだった。
「みゆちゃん、私、南ちゃんから聞いたよ」
「そっか、ごめん。ほんとに、僕、ガキだったよ」
「いいや、そんな悩みに気づけずにずっといた私達も悪かったから、、、」
「御幸、今日撮るって考えでいいんだよな?」
南が美玖と僕の会話を遮りながら話してくる。
「うん、迷いも晴れた。色々ごめん」
「はん、今回の件は私も悪かったからな」
そうして僕の仕事、レコーディングが始まる。

 「~~~~__」
突然歌うのをやめる南、
「???南?どうしたの?」
私と未玖が近くに寄りながら話しかけると、
「ごめん、ここのパートちょっと難しくてさ。一人で練習してきてもいい?」
そんなことを聞いてくる。
「いいよ、それにしても珍しいね。南が難しいって言うって」
「まぁ、私だって普通の人間だし、難しいって思うことぐらいあるよ」
そう言って別室へと向かう南、
「南ちゃん、珍しいね。難しくて一人での練習なんて」
「ね、久しぶりじゃない?」
そんなことを未玖と話していると、
「あの、御幸さん」
雪ちゃんが話しかけてくる。
「ん?どうしたの?」
「南さんの行った場所って検討つきますか?」
そんな突拍子もないことを聞いてくる。
「あの子があんなこと言い出して行く所って言ったら、屋上?」
「確かによく屋上に行ってたよね、自分の好きな歌と課題曲を交互に歌いながら」
そう僕と美玖が言うと、雪ちゃんは「ありがとうございます」と言い残しながら部屋を後にする。
「雪ちゃん、どうしたんだろ」

 息が上がる、少しの疲労がドッと、体に広がる。立ち止まるな、進め、やれる全てをやれ、芦澤雪、お前は覚悟を決めたんだろ。
 気がつくと屋上前の扉まで来ていた。鉄の扉の重みが手、腕、体全体へと広がって行く。
「、、、いた」
私がそうやって呟くと、目の前の女性が私の方へ振り返る。
「誰!?」
大きな声に驚いてしまって、私は手を挙げるポーズを咄嗟に取ってしまう。
「なんだ、雪ちゃんか、びっくりした」
そんな事を南さんが言う。
「南さん、南さんって多分ですけど、」
私の中で引っ掛かっていた疑問を南さんに話そうとすると、
「待って、大丈夫、本当に大丈夫。ごめんね。急に出て行って心配したんでしょ。本当に何もないから心配しn、、、」
「嘘はやめにしませんか、南さん」
南さんの言葉を遮りながら、私は、私の中の推測を話す。
「南さんって、歌う事を無理してませんか?」
「なんでそう思ったの?」
「御幸さんや未玖さんは、南さんの背中しか見えてなかったので気付いてないかもしれませんが、私は正面から見ていたのでわかりました」
「何がわかったって言うの?あんまり大人をからかうものじゃないよ」
「喉の動きです、歌ったり声を出したりする動きとは違うような動きが見えました。多分今南さんのポケットを漁ったら多分ですけど、血のついたハンカチ、出てきませんか?」
俯く南さん、そうして訪れる静寂。
「よく見てたね、雪ちゃん。正解だよ」
南さんが静寂を破り、真実を話す。
「私ね、声を失うか、死ぬかの選択を迫られててね、今それで悩んでるんだ」
先ほどまでの軽快な声での会話とはうって変わって、とても気持ちの沈んだような声で話し始めた。
「それで血を吐いたと言うわけですね、理解しました」
「このことは絶対御幸や未玖に言わないで。お願い」
「なんでですか?」
「あの二人、あの二人は、私の初めての100%信頼をおける人達なの、その二人に心配をかけたくない」
そんな事を言う南さんに、私は、
「それって本気で言ってますか?」
「え?」
「知ってますか?大切に思ってた人が目の前から消える時の気持ち、目の前から、自分の掌からこぼれ落ちる時の気持ち、後悔を」
「雪ちゃん?」
私は、、、私は、御幸さんにひとつだけ嘘をついていた。それは、私の両親は私の幼い頃、事故死したのではなく、去年、私がバイト終わりの帰宅時、首を吊っていたのだ。
「もっと、何かしてあげればよかった。とか、もっと、お手伝いをすればよかった。もっと、感謝を伝えたりすればよかった。とか、上げればあげるだけキリがないぐらいの後悔が背中にのしかかって離れないんですよ。それをそんなに大切に思っているお二方に、あのお二方に背負わせる気ですか?」
私は、私の今の気持ちを感情的にぶつける。
「私は、せっかくの美玖の夢を壊したくないし、私たちの繋がりをここで断ち切るような事をしたくない。でも、でも、、、」
南さんの声に嗚咽が混じり始める。
「でも、それ以上にそんな後悔を背負わせたくない」
そうして私は大人の弱さをその目に焼き付けることになる。
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