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第147話 人体実験

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『さて…聖属性の魔道具を作り始めるか…』



この際下見に来る商人分は最低限のノルマとして、今度のためにも作れるだけ作って置こうと思う。

しかし聖属性は適合する素材が少ないため、なかなか大量生産が難しいらしい。



『材料は聖属性適合があって、かつ簡単に手に入るもの…銀だな。』



この前試しに地面に手を当てて”錬成”の、特に石炭の抽出を意識して行使した。

すると、なんと地面から石炭の塊だけをきれいに抽出できたのだ。



『この前の感覚を思い出して…”錬成”!!』



しかし、銀はほんの少ししか抽出できなかった。



『…どうしてだ?…まあ銀山にいるわけでもないからそりゃあそうか。』



今は手を付いた部分から半径100mほどを抽出したので、今度は半径10kmでやってみよう。

消費MPが膨大だが、俺の最大MPからしたら大したことないので気にしなくていいだろう。



『…”錬成”!!』



すると、今度は大量の銀が採れてしまった。

どれくらいかというと、大体150kg分くらいだ。



『半径10km以内に銀山があるのか…?いや、地質調査はまた今度にしよう。』



ひとまずただの銀塊から聖属性を帯びた銀塊にしよう。

俺は”魔力念操作”で聖属性の魔力を銀塊に流し込んだ。



『おっ…!初めて銀を扱ったが…結構魔力通りやすいんだな!!』



簡単に魔力を流せたので、あっという間に聖属性を帯びた銀塊に変化した。

あとは”錬成”と”エンチャント”だけだ。

”エンチャント”は色々な身体の大きさにピッタリ合うように”自動調整”を付与するつもりだ。



『まずは一つ試してみるか…!!”錬成”、”エンチャント自動調整”!!』



見る見るうちに銀塊がリング状に形が変化していき、そしてエンチャントも付与された。

”鑑定”結果は”自動調整”のエンチャントが付いた聖属性魔道具と出てきたので、成功だ。



『さて…問題はこのブレスレットだけで死の魔力を中和できているかだな…』



実験をする必要があるのだが、死の魔力を帯びていない、即ち人族を使う必要がある。

…流石に誰でもいいというわけにはいかない。



『…奴隷商館かどこかで重罪人連れてくるか。』



俺は”偽装”で自分の姿を偽った後、王都の中で一番治安が悪い奴隷商館に”転移”した。



「…いらっしゃい旦那。どういった奴隷をお探しで?」



「安くて被検体に使える重罪人を。」



「ほぉ…やりますね旦那!今連れてくるぜ!」



数分後、奴隷商人は三人をピックアップしてきた。

三人の犯罪歴をそれぞれ”鑑定”してみた。



中年の太った男は殺人、同じく中年だが体格がいい男は窃盗・殺人の二つ、三十代くらいの男性は拉致・監禁・強姦・窃盗・殺人の五つだ。

もはや選択の余地はない。



「…そこの若いのを。」



「かしこまりましたぜ旦那!銅貨7枚で!」



ぴったり支払った。

それから奴隷契約を終え、目隠しをしてヴァルハラ帝国の外に”転移”した。



「…このブレスレッドを付けて前に進め。これは命令だ。」



奴隷の絶対命令権を行使して強制的に歩ませた。

一歩、また一歩と結界に近づいていく。



そして、ついに結界内に足を踏み入れた。

何も体に変化が起きていないようなので、聖属性魔道具の生産は成功のようだ。



「…よし。命令だ、こちらに戻ってこい。」



だが、問題が一つできてしまった。

それはこの重罪人の処遇だ。



ステータス値もゴブリン並みの、重罪人は殺処分がいいだろう。

しかし、ただ殺してしまってはもったいない。



『…聖属性魔道具の耐久実験もするか。』



俺は男に向かって、死の魔力の濃度を少しづつ上げて放った。

結果、全力の四割くらいでブレスレットが壊れて男は静かに息を引き取った。



『…せっかくの被検体なのにすぐに死んじゃったな。…あ、そうだ!』



これは死者への冒涜だが、聖属性魔法”リザレクション”を試してみよう。

重罪人の死後なら気にしなくてもいいだろう。



『後遺症とかあるのか…?まあ物は試しだ。”リザレクション”!!』



すると、死後硬直をしていた身体が少しずつ柔らかくなっていった。



「…うおぉ!!はぁ…はぁ…俺は…?」



そして、男は見事蘇った。

”リザレクション”の行使成功だ。

後は副作用が無いか確認しよう。



「…お前、自分のことはわかるか?」



「あ、ああ…」



「…何があった?」



「急に寒い暗闇になったと思ったら、今度は鎌を持った巨大なスケルトンが出てきやがった…」



「ふむ…」



鎌を持った巨大なスケルトン…か。

それは文献の資料から考察するに、死神だろう。



この世界には現世で罪を犯さずに死んだら地上神のもとに、罪を犯して死んだら死神のもとに行くという噂がある。

…どうやら本当だったようだ。



『この世界の神話や物語はほとんど実話だと思った方が…っ!!!なんだ!?!?!?』



突然地面から非常に禍々しく、同時にどこか神々しいオーラを感じた。

俺はその絶大なオーラに圧倒され、その場に立ち尽くした。



「…死者の魂を弄んだのは…汝か?」
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