パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
25 / 484
第一部

パーフェクト・ワールド・ハルⅤ ③

しおりを挟む
「まぁ、べつに何をしたってわけでもないんですけど。自分が一番でないと気が済まない性格が滲み出ているというか。……語弊があるかもしれないですけど、あの笑顔でクラス内のアルファを操ろうとしてるんじゃないかって、思うときがありますね、正直」
「安心しろ」

 数分前と同じ台詞を、篠原が苦笑気味に吐いた。

「俺も、そう思ってる」

 自分の思い違いでも、考え過ぎでもない、と。突き付けられたようで気分が沈む。何も起こらなければ、それで良いと皓太は思っている。本当だ。一番に目立ちたいと思うことも、悪いことではない。周囲をきちんと気遣えるのならば。――ただ。

「成瀬さんは」
「あいつも向原も静観だな。今のところは」

 まぁ、でも、と。篠原が嫌そうに天を仰いだ。

「それもミスコンの結果次第かもしれねぇけどな」
「どういう意味ですか?」

 ミスコンの結果次第。なんとはなしに香る不穏さに皓太は眉をひそめた。この人の、こういう勘というかなんというか。当たるから嫌なんだよ。
 野生の勘と揶揄していたのは向原だったが、言い得て妙だと思う。

「そうだな。いや、――それはまぁ、さておいて。さっきはわがままとは言ったけど、あいつ、榛名を庇ってやったんだろ?」
「まぁ、そうでしょうね」
「あいつが一年の時、その話があいつに向いてた時もあったんだけど、強硬に反対で押し通したんだよ。だから、正直、あいつが自分からやると言うとは思ってなかったんだけど」

 言い淀んた篠原が、ちらりと窺うように皓太に視線を送った。

「つまるところ、分かりやすく可愛がってるわけだ、成瀬は榛名のこと」
「それも今更だとは思いますけどね」
「いや、まぁ、そうだけど。ただ、最近は妙な噂がよく立つだろ?」

 噂と言われて一体どれのことだと悩んでしまうくらいには、この一カ月弱の間に、陵学園は大小さまざまな噂で満ち溢れるようになった。けれど、今ここで篠原が挙げるとすれば、これなのだろう。
 皓太は眉間に皺を寄せたまま吐き出した。

「榛名がオメガだっていう、それですか」
「榛名だけじゃねぇけどな。線の細い、可愛いって言われてたヤツが軒並み噂になってる。それが噂レベルで済まなくなる日が来るかもしれない」

 それは、水城がどうのこうのというよりも、よほど嫌な話だ。榛名が苛々している原因の一端であることも間違いない。

 ――知らないわけないだろ、俺も。

 榛名は触れてほしくないだろうから、気付いていない振りをしていただけで、けれど、それだって、いつまでも続けていけないかも分からない。

「オメガかどうか確かめるって言いだす馬鹿が、この先いつ出てもおかしくねぇだろ」
「……」
「それなら、いっそのこと、会長様のお手付きのオメガだって思われたほうが幸せかもしれねぇなぁと。思わなくもなかったんだが」
「やめてくださいよ、篠原さん」

 尖った皓太の声に、篠原が肩を竦めた。本当にそうであればありかもしれないが、榛名にとって残酷なことに、そうではない。

「冗談だって、冗談。まぁ、半分くらいは、冗談じゃねぇけど。あまり依怙贔屓が過ぎると、そうなるってことだよ。特に今の状況は」

 今の状況。明け透けに噂が蔓延る、今までとは違う学園の空気。

「それでおまけが、このミスコンだ。中間発表もまだだけど、あの新入生と成瀬の一騎打ちみたいだろ? それがまるで、現状と新勢力の一騎打ちみたいで嫌だって話だ」

 そこで話が戻るのか、と。皓太はうんざりと首を振った。
 もし、いや、もし、ではないのかもしれないが。水城が頂点に立ったらこの学園は何か変わるのだろうか。こんなにも早く。あるいは、二年後、水城が生徒会長としてこの学園のトップに立ったらば。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...