パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅠ ①

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[1]


「朝っぱらから取り巻き引き連れてご大層だな、会長」

 風紀委員会室に足を踏み入れるなり飛んできた揶揄に、成瀬はにこりとほほえんで応じた。
 朝早くから呼びつけたのは事実だが、それにしても機嫌が悪い。

「おまえじゃあるまいし、引き連れてってほどでもないだろ。茅野だけだ」
「それこそ、ひとりで出向けないおまえと一緒にするんじゃねぇよ」

 そう一笑して、本尾が同席させていた数名の風紀委員にちらりと視線を向ける。並んでいるのは、旧校舎にいた人間ばかりだ。

「こっちは、おまえが昨日の話をつけたいだなんだってしつこいから、居合わせた人間揃えて待っててやったんだ。嫌味言う暇があるなら、感謝くらいしてみろよ」
「そうだな。当事者が揃っていたほうが話は早い。それについては感謝する」
「……おまえにされても、楽しくもなんともねぇんだけどな」

 代わりに請け負われて、本尾が閉口した様子になる。自分たちほどではないだろうが、茅野とも決して相性はよくないのだ。

「それとも、なんだ。礼のひとつも言えねぇ会長様の代わりか? それとも、おまえがここに来たこと自体が、向原の代わりってわけか」
「なにを言っている。寮生委員会会長として、に決まってるだろう。まぁ、櫻寮の寮長として、でもいいんだが。おまえと成瀬が話したところで、スムーズに進みそうにないからな」

 それが同行した理由だと言い切って、茅野が本題に入った。

「昨日の一件についても確認したいことは山ほどあるが、お互いのために今後の話を合理的に進めたい」
「合理的? おまえがそいつと組んでる時点で、なにひとつ理にかなってねぇだろ。あいかわらずだな」
「だからこそ、話し合いをしたという体裁は整えておいたがほういいと思うが」
「よく言うよ」

 今度こそ本気で呆れたような笑い方だった。けれどすぐに、「まぁ、いいけどな」と言ってみせる。いかにもあっさりと切り替えたふうに。
 委員長の椅子に腰かけたまま、先制するように本尾が口を開いた。

「念のために言っておくが、昨日の一件に対する落ち度は、うちにはないぞ。確認したけりゃしてもいいが、誰も手は出してない」

 同調するように、風紀委員たちは頷いている。よく言うよ、と成瀬は先ほどの本尾と同じ台詞を胸中で繰り返した。
 足を踏み込んだ時点では、そうだったかもしれない。けれど、時間の問題だったと成瀬は思っている。あるいは、「手を出していい」条件が成立するのを待っていただけ。
 白々しい空気をものともせず、本尾は平然と続きを言い放った。

「そもそもとして、こっちは親切心で隔離してやったってのに。それを半ば無理やり連れ出したのは、そこの会長様だぞ。あのままにしておけば、ここまでの騒ぎにはならなかったと俺は思うけどな」
「隔離した相手がアルファなら、誰でも心配をする」
「その言葉そっくり返すぞ。これも、昨日も言ったんだけどな。校内でところかまわずオメガがフェロモンをまき散らしてるほうが、よっぽど危険だろ。違うか」

 試すような問いかけに、ゆっくりと茅野が頷く。

「違わない。だから、今後、同じようなことがあったときの対策と方針を決めたいと言ってるんだ。第二の性が絡んだ案件だと考えれば、俺が音頭を取ってもおかしくはないだろう」
「寮生委員会で取りたいって言うなら好きにしろよ。もちろん、責任も取ってくれるんだよな」
「あたりまえだ」
 
 口を挟む隙もない即答だった。任せるというのなら最初から最後まで口を出すな、と言われていたし、もっともだなと思ったから、黙って聞いていたのだが。

 ――さすがに、そこまでぜんぶ押しつけるつもりはなかったんだけどな。

 いつもと変わらないあっさりとした調子で、茅野は議論を再開している。

「学内の風紀に関することは風紀委員会、寮内の風紀に関することは寮生委員会が指導権限を持っている。まぁ、だから、昨日のように学内でことが起こった場合におまえたち風紀が対処することは、なんらおかしいことではない」
「そりゃそうだろ」
「そうだ。だが、事情が事情だ。風紀が権限を乱用してオメガを襲っているだのなんだのと言われるのは、おまえも不本意だろう」
「それは、おまえたちが悪評を流すという脅しのつもりか?」
「まさか」

 トーンの下がった声に、茅野が大仰に首を横に振った。

「だが、そういう邪推をする人間はいるかもしれない。それを防ぐためにも、今後そういったことが学内であった場合、風紀委員だけで対処するのではなく、そのオメガの所属寮の寮生委員を同伴させてくれ」

 最低限の枠組みをつくっておく必要はあるから、用意はする。枠組みが守られて、すぐに連絡が入るのならそれでいい。守られなかったとしても、反故にしたと強く出ることができる。最悪二度目が起きても三度目以降はない。今回のところは、それでよしとしろ。
 それが、茅野が道中で告げた「公正に持ちかけることのできる限度の提案」だった。
 任せた以上、こちらについても文句を言うつもりはない。最悪の二度目を起こさせるつもりもなかったけれど。

「そうすれば、風紀委員が外部から見えないところで好き放題しているとは誰も思わないだろう。逆もまたしかり。相互監視ということだ」
「逆もって言うわりに、寮で起こった場合の取り決めが思いきり抜けてるじゃねぇか」
「あぁ、そうだな。なら、所属寮にひとりは風紀がいるだろう。寮でなにかあった場合は、その風紀委員を寮生委員の話し合いの場に参加させよう」

 うっかりしていたといわんばかりの態度に、本尾が鼻で笑った。

「おまえんとこの寮にいる風紀は一年ひとりだけだろうが。話し合いもなにも、おまえに丸め込まれて終わりだ」
「そんなことはない。一年だろうが、三年だろうが、正しいと思うことは主張すべきだ。もちろん俺も正しいと思えば耳を傾ける」
「おまえが正しいと思えば、な」

 いかにもふくんだ言い方だった。そんなことは起こり得ないとでも言うような。
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